「エール」45話 二階堂ふみ歌う「椿姫」が胸を打つ、「あさイチ」には中村蒼出演「洞窟おじさん」って?

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第9週「東京恋物語」45回〈5月29日 (金) 放送 作・清水友佳子 演出・橋爪紳一朗〉


45回はこんな話

裕一(窪田正孝)の初レコード「福島行進曲」の発売を祝う会が喫茶バンブーで行われ、そこに希穂子(入山法子)がやって来た。鉄男のために身を引いた彼女は「結婚が決まった」と嘘をつく。
そのときの希穂子の気持ちを胸に、音は「椿姫」の最終審査に臨み、みごとヴィオレッタ役を獲得する。

二階堂ふみの歌うヴェルディの「椿姫」の一曲で、ヴィオレッタが病に臥せりながらアルフレードとの楽しかった過去を思い返す「Addio, del passato」(過ぎし日よ、さようなら)がもの哀しく心を打った。

人はあべこべ

「椿姫」の最終審査に向けて千鶴子(小南満佑子)はイタリア語の先生についてレッスンに励んでいると聞いて、音は気が気でない。彼女は彼女なりに喫茶バンブーで準備していると、レコード発売祝いをやらないかとバンブー夫妻が提案する。音は、その会に希穂子を誘う。

以前の音は、なんでも額面どおりに受け取っていたが、カフェー「パピヨン」で働いて人生経験を積んだことによって「人はあべこべ」――心の内と言っていることが逆な場合もあることを察することができるようになったのである。

話の流れとしてはいい話なんだが、前のレビューにも書いたが、音が裕一のことを思って身を引こうと文通をやめたことはなかったことになっているんだろうか。あれだって行為と心情はあべこべだったのではないかと思うのだが……。東京編になって違う世界線になったのだろうか。

いや、待て。あのときの音は本気で未練なく裕一との文通をやめるつもりだったのだろうか。焦った裕一が豊橋まで来たから気持ちが変わっただけで、音はその時その時いつも本気(裏がない)だったのかもしれない。それが希穂子と出会ってそうじゃない人もいることを知ったのか。なるほどー。

だが希穂子は、鉄男とはもう会わないと決意が固い。鉄男を娘の婿にしようと思っている新聞社の社長(斉木しげる)にもう会わないでほしいとお金をもらって頼まれたのだ。そうしないと鉄男を解雇すると言われたのと、貧しく、家族が病に伏せっている希穂子にとって悪い話ではなかった。もちろん内心はそんなことをしたくない。音は希穂子の本心を感じて思わず泣いてしまう。

「それでも私は希穂子さんに来てほしいです」

こういう制御不能の感情の暴走を演じるときの二階堂ふみはものすごく輝いている。シリアスもユーモアもなんでも適切に演じることができる優等生的なところにスポットが当たりやすいけれど、二階堂ふみは掴みきれない危うい域までいける俳優なので、そういう台詞やシチュエーションにどんどん放り込んでほしい。そういう意味で「それでも私は希穂子さんに来てほしいです」は良かった。

それにしても。民衆に正しいことを伝える仕事のはずの新聞社の社長がこんな弱い者いじめみたいなことをしていていいのか。もっとも、現実社会でも、新聞記者が検事と新型コロナウイルス感染予防のため自粛が要請されているときに賭け麻雀していたなんてこともあるくらいだから、生臭い人物がいてもおかしくない。「人はあべこべ」という音の認識は、新聞社の社長にも当てはまると思う。たぶん、社長、建前はすごく口当たりの良いことを言っているに違いない。


希穂子の椿姫

レコード発売パーティーに出席したのは、福島三羽ガラス(裕一、鉄男、久志)のみ。&音、そしてバンブー夫妻。貸し切りのバンブーが広く感じられた。まあそれはいい。鉄男はそれまで新聞記者の仕事に精一杯で、詩作ができずにいたが、いい機会を得たと嬉しそう。そう、鉄男にとっても作詞デビューなのである。歌えなかった久志は「コロンブスレコードはいつか後悔するだろう」とちょっとすね気味。

そこへ、希穂子がお祝いの品を持ってやって来た。気まずい空気を察した久志の提案で「福島行進曲」をかけてみんなで聞く。

「この詩が書けたのは希穂子のおかげだ。俺やっぱし希穂子じゃなきゃだめだ」と告白する鉄男。そう言われて聞くと、詩に書かれたシチュエーションが、鉄男と希穂子の思い出のように思える。

子供の頃から不遇な目に遭ってきた鉄男は世をすねてきたが希穂子と出会って救われたと言う。たしかに幼少期の鉄男は父のせいでひどい目にあっていた。借金した父のせいで夜逃げしてから、川俣で裕一と再会するまでのことは何も描かれていないが、ここまで来るのに厳しい道を歩んできたのであろう。中村蒼の憂い顔が、描かれてない鉄男の辛い過去を物語っている。

先日、カフェーでも冷たくあしらわれたのに、諦めきれず鉄男はもう一度、希穂子によりを戻したいと持ちかけるが……。
希穂子は鉄男とはもう会わないって言っていながら来るのは、完全にダメ出しするためであろう。鉄男に金持ちで申し分ない男性との結婚が決まったと言う。残酷。

音の最終審査の歌と、希穂子と鉄男の場面が重なり合う。音が挑む「椿姫」のヴィオレッタの心情と希穂子の心情が重なる。それに気づいたのは、音だけだろうか。「椿姫」の内容を理解しているであろう久志もたぶん感じたに違いない。


それにしても二階堂ふみ、重たく悲しい気持ちを声にも表情にも確実に表していて、すばらしい。歌い出しのときの眉の八の字の傾き加減がパーフェクト(ただ最後の高音はちょっと辛かったかな……)。
これじゃあ技術ばかりに磨きをかけてきた千鶴子が負けてしまうのは当然の結果。千鶴子さんもかわいそうだけど、「エール」では音がメインなので仕方ない。

今日の中村蒼

「あさイチ」に中村蒼が出演。「洞窟おじさん」に出演していたことを聞いた大吉が「洞窟おじさん」という存在にすごく興味をもっている様子だったのが面白かった。「洞窟おじさん」とは、「エール」のチーフ演出家が演出した、実話をもとにしたドラマ。子供のときからひとり、洞窟で暮らしていた野生の人物の奇妙な物語は文化庁芸術祭優秀賞を受賞している。中村は、おじさんの青年期を演じた。中年期はリリー・フランキーが演じている。

「あさイチ」では、デビューから15年経っているにもかかわらず、モニターで自分の演技を見るのが恥ずかしいという初々しさや、サッカーのリフティングの巧さを披露していた。
(木俣冬)

東京編の主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作をもつ人気作曲家。モデルは古賀政男。

山藤太郎…柿澤勇人 人気歌手。モデルは藤山一郎。
小田和夫…桜木健一 ベテラン録音技師。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。

佐藤久志 …山崎育三郎 東京帝国音楽大学の3年生。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄夫 …中村蒼 裕一の幼馴染。川俣で新聞記者をやっている。詩を書くことが好き。モデルは野村俊夫。

夏目千鶴子 …小南満佑子 東京帝国音楽学校の生徒 優秀で「椿姫」のヒロインに最も近いと目されている。

筒井潔子 …清水葉月 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはソプラノ。
今村和子 …金澤美穂 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはアルト。

先生 …高田聖子 東京帝国音楽大学の教師。
双浦環 …柴咲コウ 著名なオペラ歌手。モデルは三浦環。


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和