KDDIは好調を堅持し増収増益! 2020年3月期連結決算からみた成長戦略を考察

●KDDIが2020年3月期決算説明会を開催
5月14日、KDDIは2020年3月期の決算説明会を開催しました。
NTTドコモが2019年度通期決算で大幅な減収減益を先に発表したこともあり、KDDIの業績に注目が集まりました。
KDDIの連結業績は、売上高、営業利益ともに微増と堅実な成長を見せるものでした。
NTTドコモ、KDDI両社の明暗を分けた最大の要因は通信料金プランです。
2018年後半から活発になった通信料金の値下げ議論は通信料金と端末販売の完全分離化にも波及し、NTTドコモは完全分離プランを持っていなかったために、よりシンプルで低廉な料金施策を新たに打ち出さざるを得ませんでした。
結果、2019年6月より定額制プランの「ギガホ」と従量制プランの「ギガライト」を開始することになります。
一方KDDIは、2017年7月より定額制プランの「auフラットプラン」、従量制プランの「auピタットプラン」を提供しており、料金施策的に新たな対応を必要としませんでした。
そのため、販売体制や営業戦略に大きな変更を加えることなく当初の戦略通りに推し進められたことから、安定した業績を上げることができたと思われます。

様々な規制や法改正があった中でこの業績は見事だ
●顧客エンゲージメントの向上に注力するKDDI
この連結営業利益の内訳を見てみると、KDDIが目指す「通信企業の未来」が見えてきます。
最も大きく成長しているのはライフデザイン領域であり、次いでビジネスセグメントとなっています。
ライフデザイン領域とは、
具体的には金融や保険、ポイントプログラムといった生活に関連したサービス全般です。
auは以前より、顧客エンゲージメント(満足度や愛着度)を高める施策を中心に戦略を展開しており、ライフデザイン領域においては電子決済サービス「au PAY」が現在の主軸となっています。

モバイル通信以外の領域での収益力向上が成長のカギだ
au PAYと連動するポイントプログラムとして機能していた「au WALLETポイント」は、5月よりロイヤリティ マーケティングが運営する共通ポイントサービス「Pontaポイント」と統合され、より広範な利用が見込める巨大経済圏を構築しつつあります。
KDDIはau PAYやPontaポイントをライフデザイン領域における最初のエンゲージメントポイントとして考えており、そこから
・au PAYカードおよびau じぶん銀行(金融)
・au PAYマーケット(eコマース)
これらのサービスへと誘導し、顧客満足度や価値体験を向上させることで自社の経済圏へユーザーを囲い込んでいく戦略です。
現在の業績を見る限り、この戦略は非常に上手く回っているように思われます。

NPSとは「Net Promoter Score」の略。顧客がどの程度企業やブランドに対する愛着や信頼を持っているかを表す指標のこと
●目的が明確なUQ mobileの経営統合
そしてもう1つ、同社が経済圏の拡大を図る上で重要な戦略が、決算説明会の場で発表されています。
それはUQ mobileの経営統合です。
これまでUQ mobileは、KDDIのグループ企業であるUQおよびUQモバイル沖縄が仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスとして運営してきました。
これを2020年10月1日より会社分割によって事業を分け、KDDIが承継します。
1社の中で2つのモバイル通信ブランドを展開するという手法は珍しいことではありません。
例えばソフトバンクは、高額ながらも高付加価値且つ高品質なサービスを提供するSoftbankブランドと、最低限の通信品質ながらも低料金で提供できるY!mobileブランドの2つを並行して展開しています。
これまでのUQ mobileは、基地局設備を持つ移動体通信事業者(MNO)から設備や回線を借り受けて(卸売してもらって)営業を行うMVNOという体制であったため、法的にもKDDIとの連携を今以上に強化することは困難でした。
UQ mobileは、
KDDI回線を利用するMVNOの中でも通信速度が有意に速く、ほかのMVNO各社から
「KDDIはUQ mobileを優遇し過ぎではないか」
と、不当廉売の可能性まで指摘・追求され、突き上げられてきたという背景もありました。
今回の経営統合によって、UQ mobileはMVNOという「足かせ」が外れ、ソフトバンク内でのY!mobileと同じように、KDDI内の低価格ブランドとして展開できるようになります。

UQ mobileはサブブランドMNOとして自由に動けるようになる
こうした経営統合が目指すもの、それはKDDI経済圏の強化です。
au PAYやPontaポイントを中心としたKDDI経済圏は、それらのサービスのみで動くものではありません。
サービスを使うためのデバイス(端末)が必要であり、そのデバイスはスマートフォンです。
そしてそのスマートフォンで利用する通信回線もまた、経済圏の枠組みの1つです。
つまり、これまで「高価格だが高品質」を謳ってきたauブランドに加え、「低価格で必要十分な品質」を提供するUQ mobileブランドが加わり、KDDI経済圏で自由に展開できるようになることで、より幅の広いニーズとユーザーセグメントを実現できるようになるのです。
また、各ブランドの提携力や連携を強化することで、UQ mobileユーザーをより高付加価値のauユーザーへと引き上げることも容易になります。

経済圏強化という目標に向けてブレのない戦略を積み上げていく
●KDDIの戦略はシンプルでわかりやすい
KDDIの業績推移や戦略は、思いのほかシンプルで明快です。すべての戦略・施策が経済圏の拡大と強化に集中しており、余計な戦略がほとんどありません。
あえて不安要素を探すならば、多角的な戦略が乏しいため、競合他社との競争で劣勢に陥った際、リカバリーが効かない点でしょう。
ですが現状のau PAYの利用者推移やPotaポイントの提携企業の広がりを考慮すると、そういった不安も大きな問題にはならないようにも感じられます。
また、憂慮すべき不安要素が他にないわけでもありません。
新型コロナウイルス感染症です。
この問題は通信業界のみならず、あらゆる産業や業界の経済活動に暗い影を落としており、KDDIも
「現時点で見通せる新型コロナウイルス感染症の影響は織り込んだものの、先行きの情勢を慎重に見極めつつ精査を進める」
このように、2021年3月期の連結業績予想は2020年度3月期と同水準を見込んでいます。
アフターコロナの社会では、人々の経済活動も大きく様変わりすることが予想されます。それがどう変わっていくのか? その予測は困難です。

KDDIは新中期経営計画に沿い、2025年3月期には2019年同期比で1.5倍のEPS(1株あたりの純利益)を目指す
現在のKDDIは、まさに順風満帆、飛ぶ鳥を落とす勢いすら感じられます。
ですが、油断大敵なのは通信業界の常でもあります。
かつて日本で3GサービスがMNO各社より一斉に開始された際、KDDIは最も順調でスムーズなエリア展開を行い、安定した性能の携帯電話を次々に投入して大きくユーザーを伸ばしました。
しかしその後、通信規格での孤立や4G(LTE規格)との互換性の低さなどから、サービス品質の向上に苦戦をすることとなった過去があります。
そのため、この春より開始している5Gサービスでは、4Gサービスとの高い互換性や親和性を保ちつつ、「ピカピカな4G、スペシャルな5G」を合言葉に、積極的でありながらも慎重に5Gサービス浸透を狙っていく戦略をとっています。

4Gユーザーを徐々に5Gへと誘導しつつ、更なる体験価値向上とそれに伴うARPU向上を狙う
大胆でありながらも緻密に。
慎重でありながらも野心的に。
KDDIの経営戦略は近視眼的ではありません。
さながら隙を見せない武術家のように、2025年までの目標を明確に見据えた中長期的な視点を崩していません。
執筆 秋吉 健