暑さに加えてマスクを着けなければならない状況が、例年以上に熱中症のリスクを高めます(写真:プラナ/PIXTA)

来週から6月。少しずつ暑さが増してきています。

気象庁は6月から8月を「夏」と定義していますが、今年の夏は猛暑になる可能性があります。そして、新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言はいったん全面解除されたものの、コロナ禍の夏ならではの事情や注意点が考えられます。

特に夏後半は猛暑のおそれ

気象庁が発表した3か月予報の平均気温は、平年より高い傾向です。

6月は、東日本と沖縄・奄美は平年より高い、北日本と西日本は平年並みか高い見込みです。

7月は、全国的に平年並みか高くなるでしょう。

8月は、東日本と西日本は平年より高い、北日本と沖縄・奄美は平年並みか高い見込みです。


季節予報は、予測の確からしさに応じて、気温や降水量などを「低い(少ない)、平年並み、高い(多い)」となる確率で表している (出所)気象庁

そもそも8月は気温の平年値が高い時期です。

例えば東京の平年値は、1年で最も気温が高い8月上旬の平均気温は26.7℃(8月4日〜9日)、最高気温は30.1℃(8月2日〜9日)です。

それよりもさらに気温が高いことが予想されるため、特に今年夏の後半は厳しい暑さになるおそれがあります。

気温が高くなる原因の1つは、太平洋高気圧の張り出しが強まることです。

太平洋高気圧は、夏の天気の主役とも呼べる高気圧です。日本のはるか東に中心を持ち、この高気圧の日本付近への張り出しが強まると、晴れて暑くなります。

今年は、夏の後半になると上空の偏西風(黄色の矢印)が平年(水色の矢印)よりやや北を流れそうです。そして、フィリピン周辺では夏の後半に積乱雲の発生が多くなる見込みです。

これらの影響で、夏後半の太平洋高気圧(オレンジ)は日本付近への張り出しが平年の太平洋高気圧(黄色)より強まることが予想されます。


(出所)筆者作成

このため、特に今年8月が暑くなる見込みです。

暑さが本格化する時期において、例年と異なり注意しなければいけないのが「マスク熱中症」です。新型コロナウイルス感染症対策のためにマスクを着用していることが、熱中症の原因になるおそれがあります。

東京都(一部地域を除く)では、今年5月1日〜13日の熱中症の搬送者数が54人(速報値)で昨年の同時期と比較して10人増加しました。これは、マスクの着用が一因となっている可能性があります。絶対数で見ると少ないかもしれませんが比率でいえば2割近い増加となる計算です。

マスクを着けていると、主に2つの理由で熱中症の危険性が高まります。

1つは、熱がこもりやすく、体温が上がりやすくなることです。

もう1つは、口元の湿度が高まることにより喉の渇きを感じにくくなり、水分補給を忘れてしまって自覚がないまま脱水症状が進んでしまうことです。

他にも、マスクの着用によって心拍数や呼吸数が上昇して体に負担がかかることが挙げられます。私もマスクを着けて歩いているといつもより疲れやすかったり、話していて息苦しさを感じたり、体への負担を感じたことがありました。

環境省と厚生労働省は、屋外で人と2メートル以上の距離を確保できる場合は、適宜マスクを外すように呼びかけています。

「新しい生活様式」として、マスクとの付き合い方を模索しつつ、マスクを着用しているときは例年以上にこまめな水分補給を心がけましょう。

2週間でできる「暑熱順化」で熱中症予防を

水分補給に加えて熱中症予防策として大切なことが、環境省が推奨する「暑熱順化(しょねつじゅんか)」です。

暑熱順化とは体が暑さに慣れることで、汗をかきやすくなったり血流量が増えやすくなったりすることです。暑熱順化していれば、夏の暑さにも対抗しやすくなり、熱中症にかかりにくくなります。

環境省によると、「やや暑い環境」で「ややきつい」と感じる強度で毎日30分程度の運動(ウォーキングなど)を継続することで、暑熱順化を獲得できるそうです。実験的には、暑熱順化は運動開始数日後から起こり、2週間くらいで完成するといわれています。また、週に2、3日はお風呂で汗をかく練習をすることも有効です。

熱中症の症状は、倦怠感、頭痛、発熱、筋肉痛、味覚障害などが挙げられます。

これらは、新型コロナウイルス感染症の初期症状と類似しているため、どちらかすぐに見分けがつかず医療現場に混乱を招くおそれがあると指摘されています。

医療体制を守るためにも、例年以上に熱中症予防を意識した行動をすることが大切です。もし、先に挙げたような症状で病院を受診することになった際は、熱中症の危険性が高い環境にいたかどうかなどを伝えるようにしましょう。

熱中症警戒アラート」がスタート

今年7月から、熱中症への警戒を呼びかける「熱中症警戒アラート」が始まります。環境省と気象庁が共同で運用し、熱中症の危険が極めて高いことが予想される前日の夕方と当日の朝に発表される予定です。

関東甲信地方の1都8県を対象に今年7月から10月まで運用され、気象庁HPなどで見ることができます。具体的な行動についても記載されるので、熱中症予防に役立てるのも良いでしょう。

環境省と気象庁は、今年運用した効果などについて検証して、来年から全国に導入する方針です。

熱中症警戒アラート」の発表には、環境省が提供している「暑さ指数(WBGT=Wet Bulb Globe Temperature)」が活用されます。これは、気温だけでなく湿度や日差しの強さなどの気象条件を考慮して、熱中症の危険性を示すもので、暑さ指数と熱中症の搬送者数や死者数との関連性は高いとされています。


(出所)環境省

単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。暑さ指数が28℃以上になると、熱中症になる人が急増します。暑さ指数と熱中症の関係は、21℃未満は「ほぼ安全」、21℃以上25℃未満は「注意」、25℃以上28℃未満は「警戒」、28℃以上31℃未満は「厳重警戒」、31℃以上は「危険」(運動は原則中止)です。


(出所)日本生気象学会

気温がそれほど高くなくても、湿度が高いと「暑さ指数」は高くなります。カラッとした暑さよりもムシムシした暑さの方が熱中症リスクが高いのです。

輻射熱がない条件の下、暑さ指数と気温と湿度の関係を示した図を見てみると、「気温28℃・湿度75%」と「気温35℃・湿度35%」とは、暑さ指数は同じです。気温が低いと油断しがちですが、熱中症に厳重警戒が必要だといえます。

気象庁HPのアメダスで、気温と湿度を調べられます。また、「Yahoo!天気」や「ウェザーニュース」などのアプリで、現在地の気温と湿度を知ることができます。

6月8日は関東甲信の梅雨入り平年日です。梅雨の合間に突然気温が上がったときや、むし暑い日には熱中症が起こりやすくなります。早めの暑熱順化やこまめな水分補給など、例年以上に熱中症予防を心がけましょう。