NTTドコモ「予定通り」だった2019年度の減収減益! 決算からみる2020年度の施策

●「想定通り」だった2019年度通期決算
NTTドコモは4月28日、2019年度決算説明会を開催しました。
2019年度通期の決算概況によれば、
・営業収益:4兆6513億円、前年同期比 -3.9%(-1896億円)
・営業利益:8547億円、前年同期比 -15.7%(-1590億円)
このように大きく減収減益となりましたが、この背景には通信業界への強い値下げ圧力があります。
2018年8月、菅官房長官による「携帯電話料金には4割程度値下げできる余地がある」という発言に端を発したモバイル通信料金の値下げ議論は、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)の施策や戦略に大きな影響を与えました。
具体的には、2018年10月にNTTドコモが「最大4割の値下げとなる料金プランを検討している」と発表し、その料金プランは2019年6月に「ギガホ」「ギガライト」として結実します。
NTTドコモは2019年10月の新プラン検討の発表から現在まで、一貫して「2020〜2021年度あたりまでは年間数千億円規模の減収が見込まれる」と述べており、今回の決算はその「答え合わせ」としての意味合いの強いものでした。
つまり今回の決算概況は「想定通り」もしくは「想定よりも若干良い」業績であり、同社および株主にとっても大きな驚きはない数字だったと言えます。

2018年度決算説明会より。2019年度業績予想の時点で大きな減収減益を見込んでいた
●通信料金とともに大きな収益減の元となった「スマホ不況」
収益の内訳を見てみると、2019年という年のモバイル通信業界の姿が透けて見えてきます。
比較的低廉な料金とシンプルさを武器にしたギガホ・ギガライトは好評を博し、その契約者数を伸ばすほどに収益力を下げていったことは想像に固くありませんが、その裏でさらに巨大な収益減少の引き金がありました。
それが「スマホ不況」(スマートフォン不況)です。
総務省による料金値下げや市場公正化への圧力は通信料金だけではなく、通信料金を原資としたスマートフォンの大幅な値引き販売にも及びました。
2019年10月には電気通信事業法が一部改正され、通信料金と端末販売の完全分離化が義務化されることとなり、MNO各社は、
・スマートフォンに大きな割引を付けられなくなった
・多額のキャッシュバックを付けて売ることができなくなった
・値引き幅も最大2万円までと大幅に制限
このように、非常に厳しい状況へと追い込まれました。
これによって高額なハイエンドスマートフォンを手頃な価格で販売することが難しくなり、市場での買い替え需要が一気に冷え込んだのです。
NTTドコモはこの状況を打開するため、残価設定型割賦に近い支払い方法である「スマホおかえしプログラム」や中古スマートフォンの下取りサービス「下取りプログラム」を導入し、スマートフォンの買い替え需要の低下を防ぐ施策を次々と打ち出しました。

iPhoneの大幅な値引きも難しくなり、NTTドコモを初めとしたMNO各社は新たな「お買い得感」を示せる施策やキャンペーンに頭をひねった
その証拠に、NTTドコモの2019年度通期の営業損益の内訳を見ると、販売関連収入が2362億円の減収となっており、この数字だけを見れば通信料金の値下げ(ギガホ・ギガライトの契約)による減収額である866億円を圧倒的に上回っています。
ただし、同社はこの減収を早期に想定していたことから端末販売業務自体の縮小も行っており、販売関連費用を2056億円削減したことで、トータルでは306億円のマイナス収支に留めています。
通信料金を下げ、端末販売の完全分離化も推し進めなければなからなった2019年度は、同社にとって大変革の年であったという印象です。
前年度から減収減益が確定する中での経営戦略が並ならぬ難行であったことは、想像に難くありません。

スマートフォン需要の低迷は通信会社のみならず、メーカー各社にも大きな打撃を与えている
●コロナ禍で変わる社会とNTTドコモの役割
事業内容の内訳を見ても、
・携帯電話契約数は8000万契約を突破
・解約率・ハンドセット解約率ともに2018年度比でわずかに低下
・スマートフォン、タブレットの利用者数はともに増加
・「ドコモ光」契約者数の堅調な増加
・ARPU(1契約あたりの月間平均収入額)はほぼ横ばいを維持
・スマートライフ領域の営業利益は増加
・金融決済取扱高やdカード契約者数の大幅増加
・d払いユーザー数および決済取扱高の大幅増加
・dポイント利用者数および提携企業の大幅増加
このように、各事業で好調を堅持していることが分かります。
同社が掲げる中期計画「beyond宣言」のもと、収益面では苦戦を強いられつつも巨大経済圏の確立へ向けて蒔き続けていた種が芽生え始めており、2020年度以降の収益性改善に大きな期待が持てる内容となっています。

モバイル通信自体の収益減を補うべく、全方位から攻めていくNTTドコモ

スマホ決済サービス「d払い」は同社経済圏を動かす大きな原動力となるだけに、その普及に向けて最大限のプロモーションが行われている
これらの堅調な数字と同社の昨年度までの目論見のことごとくを打ち砕きそうなのが、新型コロナウイス感染症問題(コロナ禍)です。
決算説明会とともに発表された「社長からのメッセージ」では、
吉澤和弘社長
「2020年度の業績予想については、新型コロナウイルスの影響により業績予想の合理的な算定が困難である」
と語っており、非常に異例ながらもその内容を非公開としています。
2020年度事業運営方針は、2019年度までに積み上げてきた実績と戦略をさらに推し進める形で
・顧客基盤のさらなる強化
・会員を軸とした事業運営の本格化
・5G時代の新たな価値創造
これらを掲げつつも、慎重な姿勢を取らざるを得ない状況です。

コロナ禍に通信技術の粋を結集して立ち向かうNTTドコモ
テレワークやオンライン授業など、コロナ禍とアフターコロナの社会において通信が果たす役割は、これまで以上に大きくなることでしょう。
その時、NTTドコモは社会の牽引役となれるのか。
単純な営利企業としてではなく、社会的・道義的責任を持ったインフラ企業としてどう対応していくのか。
2020年度は、業績以上にその社会的な役割について強く問われる年度となりそうです。
執筆 秋吉 健