東京ヴェルディ・大久保嘉人インタビュー@後編

 自他ともに認める勝気なストライカーである大久保嘉人が、自ら進んで中盤のポジションでプレーすることを選んだのは、スペインから帰国したあと、ヴィッセル神戸に所属していた時のことだ。

 当時監督だった松田浩に自分から提案したのには、訳があった。

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大久保嘉人に東京ヴェルディへ移籍を決めた理由を聞いた

「最初はFWでプレーしていたんですけど、前にいてもボールが全然出て来なくて。だったら、僕が下がってボールを出せば、チームがうまく回るなと思ったんです」

 そこには、絶対に自分がFWでありたいという執着心はなかったという。

「もちろんFWとして点は獲りたい。だけど、これでチームがうまくいくなら、という思いのほうが強かったですね」

 スペインに行く前の自分では考えられない、と笑い、大久保はさらにこう続けた。

「そこをやれって言われても、すぐできる選手になりたいって思っていたから。いろいろなポジションができることが自分のよさだと思っていたし、そういう選手になりたい」


 意外だった。大久保のゴール前での強気なアピールや迫力からは、自分の身を置く場所はトップ以外考えられないような思考を持っているのだとばかり思っていた。

「全然(笑)。中盤も好きっちゃあ好きなんですよね。パスを出すのも好きだし、面白い。でも、本音を言えば、ゴール前にいて『最後、俺にボールちょうだい。そしたら決めるよ』っていうところにずーっといときたいかな(笑)」

 中盤でプレーすることによって、得点を決める機会が減るのは当然だった。しかし、周りから「大久保は点が獲れなくなった」と言われることに、複雑な気持ちでいたという。

「仕方ないとは思っていました。一緒にプレーしている人にはわかるけど、見ている人には(状況が)わからないですからね。なので、自分は自分だと思って、気にしないようにはしていました。でも……そういう言葉を耳にした時『FWだけできる選手でいればよかったのかな』と思ったりもしましたね」


「一度は得点王が獲りたい」と思っていた大久保に、攻撃的なチームの象徴とも言える川崎フロンターレからオファーが届いたのは、31歳の年となる2013年を目前とした年末だった。

 一般的には30歳ぐらいが、選手生活を送るうえでのターニングポイントと周知されているが、大久保にはずっと持論があった。

「選手としてのピークは、考えたことがなかったですね。いつ来るかとかも全然、考えてなくて。ホントにサッカーが合えば、監督と合えば、いくつになっても自分はやれると思ってやっていました」

 すると大久保は、川崎に移籍して1年目でいきなりJ1リーグ得点王となり、まさにそれを体現した。

「フロンターレであの年、僕は26点獲ったけど、もしあの時自分が40歳でも、たぶん得点王を獲っていると思いますね。それだけマッチしていたから。本当に、チームやチームの戦術、監督と合うか合わないかは、めちゃくちゃ大きいんだなって感じました」


 その後、大久保は『1度は獲りたい』と思っていた得点王に、3年連続で輝いている。

「自分の思っていたことは間違っていなかったんだな、と思いました。Jリーグにもうまい選手はたくさんいるじゃないですか。めちゃくちゃうまい選手なのに、20代で引退する人もいれば、30歳で引退する人もいる。

 でも、僕が思うにそれはただ、自分に合ういい監督といい選手と仲間に出会えていない。だからもったいない。最初のチーム選びは、あらためて本当に大事だなって思いますね」

 しかし、大久保はやっと巡り会え、自分を輝かせてくれるチームから、離れることを決断した。

「だって、フロンターレにずっといたら安泰みたいなものですよ。ずっと王様でいられるし、前にいたらボールはくれるし、ホントに楽やったと思うんです。だけど、そういう自分も嫌なんです」

 できるだけ長く、コンスタントに結果を出し続けることは、多くの選手が望んでいるのかと思っていた。だが、大久保は違ったようだ。


「それだと、つまらないんです。刺激がやっぱりほしいし、また違った景色を見たい」

 刺激を求めて、大久保はその後、FC東京、川崎への復帰、ジュビロ磐田と続けて環境を変え、今シーズンからは東京ヴェルディでプレーをする。

「ヴェルディはサッカーがまた攻撃的で、面白いんですよ。それがホントに完成すれば、さらに面白いサッカーができて、自分も楽しくなるんじゃないかなぁって。また、フィットしたらドーンといくかもしれない(笑)。

 ただ、開幕戦では負けているし、うまくいかないところが多いけど、それはフロンターレの時も一緒だった。でも、これからしっかり続けていけば絶対よくなるから、めちゃくちゃ楽しみですね」

 最後に、38歳になる今、大久保の思うことを尋ねると、とても彼らしい爽快な言葉が返ってきた。

「たしかにこの歳になったら、本当に一年一年が大事なんですけど、僕はやめるって決めたらすっぱりやめる。それがシーズン中であろうが、もう無理だって気持ちが切れたらやめる。だから、焦りはないんですよ。いつやめてもいいやって思っているから。


 今は40歳まではやりたいと思っているけど、それもやっぱり『気持ち』次第。でも、まだその『気持ち』が落ちそうかなってところまでも来ていないかな。若い時より今のほうが全然走れるし、うん、大丈夫」

 大久保の新しい挑戦は、まだ始まったばかりだ。