コロナ禍でホームレスの状況はどう変化したのか。多摩川の河川敷を訪れると、ホームレスのテント村は台風19号によって流された状況そのままに放置されていた(筆者撮影)

僕がホームレス取材を始めた20世紀末に比べて、現在は野宿生活者の数は格段に減っている。20年ほど前には、

「本当はホームレス生活をしたくないのに、している人」


この連載の一覧はこちら

がたくさんいた。いったん、ホームレスになってしまうと、なかなかそこから抜け出せないシステムだった。政策や国民の意識が変わり、ホームレスから抜け出すことは昔に比べれば随分たやすくなった。

ただし、もちろんぎりぎりホームレスにならずに済んでいる、貧困層の人たちは多い。

例えば、特定の住所を持たずネットカフェで生活している人や、働いているお店の寮で生活している人たちだ。給料も安く貯金もできない。なにかあればすぐに、野宿生活へ“転落”してしまう環境の人たちだ。

そして今年、コロナ禍が日本を襲った。

非常事態宣言が発令された後は、多くのネットカフェは営業を自粛した。また、飲食店なども休業、廃業が相次いだため、職を失った人は少なくない。

新型コロナ禍により、ホームレスの状況はどう変化したのか、取材に出かけた。

なおマスクを装着し、常にソーシャル・ディスタンシングを気にかけながら取材にあたった。

まずは多摩川の河川敷を訪れた。

昨年10月の台風19号の爪痕が残る多摩川河川敷へ

ちなみに多摩川は、コロナ禍の前に昨年の台風19号で大変な被害が出た。溢水による浸水被害の様子をニュースで見た人も多いだろう。そして、その被害はホームレスをも直撃していた。


台風19号直後の多摩川(筆者撮影)

多摩川河川敷には小屋が建てられ、多くのホームレスが生活していた。僕はかなり長い間取材をしてきたが、昨年猛威を振るった台風19号の影響で彼らの小屋のほとんどすべてが流されてしまった。

台風一過した翌日に訪れたが

「1人見当たらないんだよね。いつもいる人なんだけど、台風の後から見当たらない」

と言って近くの公園に避難していたホームレスが、行方不明になった知り合いを探していた。後日、その行方不明になっている方かどうかはわからないが、多摩川でホームレスの方が亡くなっているのが発見された。

橋の上からテント村を確認すると、無残にもほとんどの建物がバラバラになっていた。長年取材をしてきた僕にとっては、かなり衝撃的な光景だった。

僕が呆気にとられていると、自転車で老人男性がやってきて崩壊したテント村を見て笑い出した。

「こいつら、バチが当たったの。一級河川に勝手に住んで!! 全然かわいそうじゃないぞ!! ざまあみろだ!!」

と叫んでいた。

僕は呆気にとられつつも、話を聞いてみると、彼は近所に住んでおり、河川敷で生活している人たちが常々気に入らなかったという。だから、台風一過を狙ってわざわざ自転車で惨状を確認しにきたのだと老人は語った。

野宿生活をしている人たちが家を失ったのを見て笑っている姿を見て、どうにもやりきれない気持ちになった。


(左)台風19号以前の様子(右)台風19号直後の様子(筆者撮影)

ただ小屋を流された人は、めげずにすぐに影響が少なかった堤防の高い位置などに即席のテントを張っていた。数日後に訪れると、あちこちに小さいテントが建っていた。

そして今回、5月中旬に多摩川の河川敷を訪れた。昨年の台風19号襲来の後は水に流されて池のようになっていたが、河川敷内にあるゴルフ場はすっかり元どおりになっていた。コロナ禍でヒマを持て余した人たちが集まって、打ちっぱなしを楽しんでいた。

ホームレスのテント村だった場所はそのまま放置

ただしホームレスのテント村だった場所は、流された状況そのままに放置されていた。小屋は破壊され泥をかぶって住むどころではなかった。住んでいる人は、1人もいないようだった。暖かくなってきていたので、腐臭が漂い、カやハエなどの虫がたくさん飛んでいた。


テント村だった場所は放置されている(筆者撮影)

河川に沿って、いくつもあった小屋もすべて壊れてしまい、再び人が住んでいるところは数えるほどしかなかった。

10年ほど前から河川敷で野宿をしていたという男性に話を聞くと、

「台風後に、とくに立ち退いてくれとかは言われてないけど、かなり減ったね。自主的に福祉(生活保護)をもらってアパート暮らしを始めた人が多いね」

とのことだった。


流された小屋は、このようにしっかり建てられているものが多かった(筆者撮影)

河川敷に建てられた小屋は、しっかりと建てられているものが多かった。かなり労力もかかっている。それが流されてしまったら、精神的に参ってしまうだろう。

男性は少し残念そうに語ったが、ただもちろん悪いことではない。生活保護を受けながらアパート生活をすることで、医療機関を受診できるようになり、無頼漢から暴力を受ける可能性は大いに減る。再出発のチャンスも、野宿生活をしているよりは大きいだろう。

ただ、生活保護に頼りたくないと思い、野宿生活をしたいと思っている人を、無理やり追い出すのは倫理的にどうなのか、とは思う。また追い打ちというわけではないが、ますます彼らが河川敷に住みづらくなる計画が進んでいる。

台風19号による甚大な被害が発生した多摩川において、国、都、県、市区が連携し「多摩川緊急治水対策プロジェクト」という事業計画が進められているのだ。


治水対策のため「多摩川緊急治水対策プロジェクト」という事業計画が進められている(筆者撮影)

複合的な治水対策がなされるが、下流である東京都大田区周辺では『河道掘削(かどうくっさく)』『樹木伐採』という工事がとられる。

河道掘削は川幅を広げる工事だ。つまりホームレスの小屋があった場所の多くは川に沈む。住むことができる場所は減少するし、より管理が厳しくなる可能性も高い。

河川敷は現在、野宿生活ができる数少ない場所だ。拙著『ホームレス消滅』にも詳しく書いたが、多くの公園や駅舎ではすでに野宿することが基本的に許されていない状況だ。


ますます彼らが河川敷に住みづらくなりそうだ(筆者撮影)

同じ河川敷でも、東京都が管理する隅田川などは管理がかなり厳しい。昔から住んでいる人は特例的に許されているが、新たに小屋を建てると立ち退きを求められる。

ただ、河川における対策は2024年度までかけて行われるためまだ先の話だ。

さて現在、最も危惧されているのは、コロナ禍である。堤防の上に建てた小屋の前で、3人で集まって話をしている人たちに話を聞いた。

「コロナの被害? ないよそんなの俺たちには」

70代の男性は、

「コロナの被害? ないよそんなの俺たちには。そういうのとは関係ないところに生きてるの。福祉(生活保護)にも興味はございません。そうやって心配して話しかけてくれるのはありがたいけど、はっきりいって迷惑。もうこの歳になったら好きなように生きるの!!」

とまくしたてられた。

ホームレスにインタビューをしていて

「福祉は受けたくない! 誰の世話にもなりたくない!」

と言われるのは、よくあることだ。

話を聞いたホームレスは、誰もマスクはつけていなかった。ただ、外であるため感染のリスクはあまり高くないと思えた。野宿生活をしていて食費や嗜好品以外にお金を使う余裕はまずない。

しかし話を聞いていくうちに影響がないわけではないことがわかった。彼らの多くが従事しているのは廃品回収業であり、アルミ製の空き缶を集めて換金している。アルミの買い取りの値段を聞いてみると、

「1キログラム=73円くらいだね。安くて参っちゃうね。確かにコロナの後に下がったけど、それが原因かどうかはわからない。捨てられている空き缶の数の量は、増えても減ってもいないね」

とのことだった。

アルミの値段は近年、1キログラム=100円程度を中心に前後している。大事業があって需要が増したときは値段が上がる。僕が知っている中で最も高かったのは2008年に北京オリンピックが開催された前後で、1キログラム=170円以上の値段がついていた。実に倍以上だ。73円はかなり安い。

新型コロナ禍による経済活動の停滞で金属の需要が下がり、値段も下がっているのだろう。


アルミの買い取りの値段が下がっている中、特別定額給付金10万円は受け取らないという(筆者撮影)

またホームレスの方々には10万円の特別定額給付金を受け取るかどうかも聞いた。ホームレスの中で、仕事による収入がある人の月収は平均で3.8万円(2016年の国の調査)だ。彼らにとっての10万円は、一般の人の10万円に比べてはるかに高い。アルミ缶を1トン以上集めなければ手に入れられない額なのだ。

「10万円? 知らないよ。そういうのはいらないよ!!」

と先ほどの70代の男性は言った。

「そういうのもらえないよね」

「いやあ、こういう生活していたらそういうのもらえないよね。大体ワケアリだから」

と笑いながら同調する人もいた。

その3人は誰も10万円の給付金は受け取らないと言っていた。

ちなみにこの日は最終的に10人ほどのホームレスに話を聞いたが、全員が給付金は受け取らないと言っていた。給付金の存在すらよく知らないという男性もいた。

ネット上では

ホームレスが給付金をもらうのはおかしい」

とバッシングしている人がいて、少し話題になっていた。それこそまったく的外れな意見だが、そもそも給付金を受け取る手続きをするホームレスはほとんどいないようだった。

河川敷の線路が走る橋の下で集めてきた空き缶を潰している60代の男性に話を聞いた。

「コロナの影響? 俺は4月にここに来たばかりだからわからないよ」

と語る。まだ2カ月も住んでいないそうだ。

「コロナで働いていた糀谷の居酒屋をクビになっちゃったんだ。クビというかお店が潰れちゃった感じだね」

と言った。糀谷は、多摩川河川敷から程近い場所だ。突然収入が絶たれ、1カ月経たぬうちに手持ちのお金はなくなり、野宿生活を余儀なくされることになったという。

やはり、危惧されていたことは現実に起きていた。

「いやあ、コロナ以降はまったく客が来ないよ。お店も潰れちゃった。無職になってすぐに仕事を探し始めたんだけどね、全然見つからない。まあ、60歳を過ぎてるし、それも当たり前だけどね……。

こんな生活からは早く抜け出さなくては、って思うんだけどね。なかなかうまくいかないね」

とため息をついた。

コロナ禍が収まった後には、今よりは求人は増えると思うが、それでも全員が求職はできないだろう。ホームレスの平均年齢は61.5歳(2016年、厚生労働省調査)で、若い人よりも仕事は限られてしまう。

そもそもホームレスをしていると、住所や電話番号を持てなかったり、心身を身綺麗に保つことが困難になったり、新たな再就職先を見つけたりするのが難しくなる。負のスパイラルに陥ってしまうと、はい上がることが困難になる。

話を聞かせてもらったお礼に、サージカルマスクを渡すと非常に喜ばれた。

「マスク欲しかったけど手に入らなかったんだよ!! マスクつけてないと白い目で見られるしね。ありがとう、ありがとう」

と何度も頭を下げられた。

今回の取材では、新型コロナ禍でホームレスになったという人はほかにはいなかったが、これからも住処を失って河川敷に人が来ることはありそうだった。

炊き出しの数は少なくなっている

続いて、隅田川周辺で行われた炊き出しの様子を見に行った。ボランティアが開催している定期的な炊き出しだが、かなり大勢の人が集まっていた。

コロナ禍になって特別並ぶ人が増えたわけではないが、炊き出しの数自体は総体的に少なくなっているという。

炊き出しを作るにも、配るにも、人が大勢集まることは避けられず、ソーシャルディスタンスが保てなくなるため仕方がないだろう。僕が顔を出した会でも、手渡しをする際に一定の距離を取るなど、配慮に苦労しているようだった。


隅田川を訪れると、ソーシャルディスタンスを促す張り紙があった(筆者撮影)

炊き出しに並んでいるのはホームレスだけではない。一見して20〜30代とわかる若い男性の姿も目についた。プラスチックケースに入った炊き出しを受け取った後、顔見知り同士で情報交換していたが皆浮かぬ顔だった。

話を聞いた70代の男性は、

「公園の清掃の仕事は月に10回はもらえていたんだけどな。今は公園も封鎖されてやっていないだろ? だから先月も今月も1度ももらえてないな」

と語っていた。これらは特別清掃と呼ばれる公共の仕事(高齢者特別就労事業)なのだが、高齢者ホームレスの中には、この仕事が生命線となっている人も多い。

やはり、コロナ禍の影響で仕事が思うように見つからないそうだ。かなり追い込まれた状況に追い込まれているし、今後もよくなる見通しがないと顔色を曇らせていた。

取材をした結果、新型コロナ禍のホームレスに対する影響は、パッと見て、病気に罹患することよりも、経済面のほうが大きかった。

ただし今後はわからない。

赤痢や結核で亡くなるホームレスもいる

例えば大阪の簡易宿泊施設が密集する、あいりん地区では現在でも結核や赤痢の感染者が出ている。

僕がホームレスの取材を始めた、20世紀末においてすでに結核、赤痢は過去の病気だと思っていた。話を聞くために、西成の警察署を訪れた際

「今すごく赤痢がはやってるから、手洗いはしっかりしてください。あと、路上で覚醒剤とか売ってますけど買わんようにしてくださいね」

と当たり前のように注意されて、頭を殴られたくらいにショックを受けたのを覚えている。今もなお簡易宿泊施設で亡くなっていた人を検査すると、結核が発見されたりする。


新型コロナは日本での感染拡大が今は収まってきてはいるが、第2波に警戒せねばならないし、決定的な治療薬は見つかっていない。簡単に根絶やしにできるわけではないから、いつかホームレスや貧困層を中心に感染が広がる可能性は大いにあると思う。

彼らの多くは高齢であり、栄養状態も悪く、かつ医療を受けられない、または医療を受ける気がない人が多い。おそらく新型コロナが発症したとしても、ほとんどの人は病院に行かないだろう。最悪亡くなってしまう人も現れるだろうし、感染したまま歩き回り本人が感染源になる場合もあるかもしれない。

特効薬が開発されるなどして一般的には恐ろしい病気でなくなった後にも、医療を受けない層はずっと尾を引き死者を出し続ける可能性もある。

ホームレスにとっても「新型コロナ」は恒常的な警戒と対策が求められる。