「エール」43話 二階堂ふみ演じる、弱い男の悩みを聞いて背中を押す肝っ玉キャラが痛快

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第9週「東京恋物語」43回〈5月27日 (水) 放送 作・清水友佳子 演出・橋爪紳一朗〉


43回はこんな話

「椿姫」のヒロイン・ヴィオレッタの気持ちを学ぶため音(二階堂ふみ)はカフェーに女給(音江という名で)として一週間の臨時雇いで働くことにする。裕一(窪田正孝)は気が気でない。

あるとき、東京に出てきた鉄男(中村蒼)がカフェーにやって来て、音の先輩・女給・希穂子(入山法子)とただならぬ関係であったことがわかる。

「切り替えていこう」

「おはよう日本関東版」の高瀬アナが42回の「真珠夫人」に反応していた。さすがである。

さて。女給体験入学をはじめた音は夜遅くまでお酒を飲みながら働いているため、音楽学校では居眠りしている。女給として働いていると聞いて同級生たちはびっくり。ライバル・千鶴子(小南満佑子)も遠くからやや険しい顔をしていた。そりゃそうだ。役の気持ちを知るためとはいえ、男性とお酒を酌み交わす職業など、音楽学校に入っているような育ちの良さそうな女性たちから見たら卑しいものと思われていたであろう時代。しかも、学校であくびして寝ているなんて本末転倒である。でもこういう常識にとらわれていない登場人物が痛快と思う人も世の中にはいる。

音はカフェーでお客さんを怒らせてしまうようなところもあるが、ほかの女給にはない豪快な魅力で、気弱な客の愚痴を聞き、どーんっと励まし、人気を獲得していることを、木枯(野田洋次郎)が見て、裕一に報告する。裕一がそういう気弱なタイプだから、その手のタイプには音の肝っ玉母さん的な態度が好まれるのであろう。

一方、裕一は、頼まれた地方小唄の作曲ができず、廿日市(古田新太)にほかの人に頼んだからいいと言われてしまう。せっかくチャンスをもらったのに……とうなだれる裕一に木枯は、作詞した磯貝ってやつは重役の息子で、親の七光りのボンクラで廿日市も持て余していたのだと教え、「切り替えていこう。次。次」と励ます。木枯が信じている裕一の才能が花開く日が待ち遠しい。

鉄男と希穂子の恋物語

音にある種の才能があるとしても、好かれることもあれば、怒らせることもあって……。
気難しい客にからまれ、酒をかけられた音は、負けん気を発揮し、水差しから水を大量にかけ返し、当然ながらママ(黒沢あすか)に怒られる。
でもママはなんだかんだ言いつつ、音のことも認めているようで、1回は怒るがクビにしたりはしない。

音に指名があって、また店に出ると、客は鉄男だった。
東京に出てきて裕一の家に泊まることにした鉄男は、裕一に頼まれて様子を見にきたらしい。

鉄男は女給の希穂子を見て、顔色を変え、店中を追いかける。ふたりに何かあることを察した音は、ふたりを家に連れて、話し合いをさせる。

希穂子は、福島の料亭で仲居をしていたときに、鉄男と知り合い、お互い貧しい境遇ということもあって惹かれ合っていく。だが、鉄男に新聞社社長の娘との縁談があることを知って、希穂子は身を引き東京に出て来た。

お客さんを好きになること。身を引くこと。音が学ぼうとしている「椿姫」に描かれた恋愛の機微は、鉄男と希穂子が担っているようだ。「椿姫」では社交場で知り合ったヴィオレッタとアルフレードが恋に落ちるが、アルフレードの父に反対されて椿姫が身を引く。
「椿姫」はヴィオレッタの死で悲劇は幕を閉じるが、鉄男と希穂子はどうなる?


ところで、疑問

音は、好きな人から身を引く気持ちがわからないと言っていたが、その昔、裕一と文通していて盛り上がっていたとき、自分と彼との格差を考えて身を引いたことがあったではないか。自ら文通をやめたではないか。すぐに裕一が追いかけてきて求婚まで進んでしまったけれど。そのときの気持を忘れてしまったのか。

演劇で役の気持ちを知る方法としては、同じ体験をすることも大事である。が、そればかりだと、いわゆる、殺人者の気持ちは実際に殺人しないとわからないではないか問題が起こるので、同じ体験をしなくても、似たような感情はないか探すこと。

よくあるのが、涙を出す時、誰かが亡くなったことを思い出すというようなことがある。また、感情ではなく、身体にアプローチする方法もある。体をたたき、その痛みで感情を表現するようなやり方である。いろんな方法があるので、音もがんばって見つけてほしい。

もうひとつ疑問。
希穂子が鉄男に惹かれたきっかけは魚の食べ方がきれいだったこと。器用に箸を使って骨から身をとっていく男性の仕草に魅力を感じる女性は少なくない。が、これって、魚より肉食の時代、箸よりナイフ、フォークの時代になってからの価値観ではないだろうか。いまの「エール」の時代(昭和一桁)では箸も魚もかなり身近であって、魚をきれいに食べる人もいまより多かったのではないだろうか。ただ、貧富の差も激しいので、貧しい希穂子は魚をきれいに食べる人が身近にいなかったのかもしれず、こういう表現も自由だとは思う。

ただ、なんとなく現代的な視点だなあと感じた。それを言ったら、木枯のキャラはかなり現代的な代表格。「エール」は厳密に歴史を再現するドラマではない、エンタメなので、これでいいのだと思う。


今日のバンブー

希穂子と鉄男を家に連れてきたものの、ふたりが気まずくなったままだったので、音は希穂子を、バンブーに誘う。
東京で一番おいしいコーヒーと言いつつ、ほかの店を知らないと笑う音。そこに、彼女がヴィオレッタの心情もまだわからない未熟さ、若さゆえの世界の狭さを感じる。

でも、ここのコーヒーが日本一と言われて、背後でそっと恵(仲里依紗)とほほえみ合う保(野間口徹)の表情が良い。そのとき恵が映ってないのが残念だが、野間口の表情から恵の表情も想像できた。
それはさておき、バンブーっていったい何時まで営業しているんだろうか。

今日の窪田正孝

木枯が音を「男を喜ばせるコツをよ〜く知っている」と褒める。指名もたくさん来ていると聞いて裕一は焦りまくり、心配で心配で、今日も見に行ってほしいとすがる。そのときの窪田のくしゃくしゃにした顔。声も顔も、全身を絞るようにする仕草が真面目に全力なので、おもしろシーンもどこか神聖に映る。窪田の人徳。

鉄男と希穂子が家に来たとき、手持ち無沙汰のため、棚の上のものをちょっとずついじっている動きも微笑ましかった。
(木俣冬)

東京編の主な登場人物

古山裕一…幼少期 石田星空/成長後 窪田正孝 主人公。天才的な才能のある作曲家。モデルは古関裕而。
関内音→古山音 …幼少期 清水香帆/成長後 二階堂ふみ 裕一の妻。モデルは小山金子。

小山田耕三…志村けん 日本作曲界の重鎮。モデルは山田耕筰。

廿日市誉…古田新太 コロンブスレコードの音楽ディレクター。
杉山あかね…加弥乃 廿日市の秘書。
木枯正人…野田洋次郎 「影を慕ひて」などのヒット作をもつ人気作曲家。モデルは古賀政男。

山藤太郎…柿澤勇人 人気歌手。モデルは藤山一郎。
小田和夫…桜木健一 ベテラン録音技師。

梶取保…野間口徹 喫茶店バンブーのマスター。
梶取恵…仲里依紗 保の妻。

佐藤久志 …山崎育三郎 東京帝国音楽大学の3年生。あだ名はプリンス。モデルは伊藤久男。
村野鉄夫 …中村蒼 裕一の幼馴染。川俣で新聞記者をやっている。詩を書くことが好き。モデルは野村俊夫。

夏目千鶴子 …小南満佑子 東京帝国音楽学校の生徒 優秀で「椿姫」のヒロインに最も近いと目されている。

筒井潔子 …清水葉月 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはソプラノ。
今村和子 …金澤美穂 東京帝国音楽大学で音と同級生。パートはアルト。

先生 …高田聖子 東京帝国音楽大学の教師。
双浦環 …柴咲コウ 著名なオペラ歌手。モデルは三浦環。


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和