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プリウス減 コロナが原因ではない?

text:Kenji Momota(桃田健史)

今年(2020年)に入って、「プリウス」の販売に元気がない。原因は新型コロナウイルス感染拡大の影響か? それとも他に何かあるのか?

まずは、具体的な販売台数の推移から見ていこう。以下、一般社団法人日本自動車販売協会連合会の発表資料に基づく数値を引用する。

トヨタ・プリウス    トヨタ

直近4か月は次の通り。

1月:6659台(前年同月比76.4%、ブランド通称名順位:7位)
2月:7518台(63.4%、9位)
3月:9717台(62.5%、7位)
4月:4669台(42.2%、9位)

4月は、プリウスを生産する堤工場が4月3日から10日の6稼働日で稼働停止したが、4月発売分の多くは販売会社の保有在庫である可能性が高い。

4月販売大幅減の要因がコロナ禍とは言い切れない。

一方、2019年1〜12月は、単月でトップ3が当たり前。

前年同月比100%割れした月は4回あるが、そのうち3回は90%台と高く、落ち込みが明確な1回は消費税アップを見据えて駆け込み需要があった9月の反動が出た10月の78.5%だけだ。

その後の11月は95.6%、12月は107.2%と盛り返している。

2019年全体を見ると、上期(1〜6月)は7万277台(109.8%)、通年(1〜12月)も12万5587台(108.8%)でそれぞれ1位となっている。

では、なぜ2020年になって、プリウスの販売台数が低迷し始めたのか?

トヨタ・ライズ/ヤリス/フィットなどの新車効果の影響はもちろんあるだろうが、それだけか?

プリウス販売台数減 織り込み済み?

現行車の4代目は、2015年12月に日本発売。それから4年半ほどで、そろそろ息切れ期なのだろうか?

実質的な発売初年となる2016年は24万8258台と2019年の2倍も売れている。月別順位では、11月にeパワー採用の日産ノートに抜かれ2位なった以外、11か月でトップだった。

日産ノートeパワー    日産

翌2017年は、ノートに加えて、トヨタC-HR導入の影響などもあったが、16万912台で通年トップを維持した。

続く2018年はノートが躍進し、プリウスは11万5462台で通年3位に下った。

さらに時代を遡ると、3代目プリウスは2010年と2012年に通年30万台超えを記録するといった絶対的な強さを誇った。

こうしたプリウス3代目から4代目への国内販売の推移を、トヨタはあるていど予測していたと思われる。

2017年8月上旬に開催された、旧車や名車の関連イベント「オートモービルカウンシル」(千葉幕張メッセ)のトヨタブースではプリウス生誕20周年を祝う展示を行った。

記者会見の冒頭、初代プリウスの開発責任者を務めたトヨタの内山田竹志会長が「トヨタにとってのプリウスの歩み」を振り返った。

その後、歴代プリウスの技術展示を前に、4代目プリウス開発者らと個人的に意見交換した。

その中で、トヨタブランドにおける立ち位置について議論したが、販売台数への拘り以上に、プリウス発の技術の「ヨコテン」を強調していた。

4代目トヨタ・プリウスの使命とは?

「ヨコテン」とはトヨタ内用語で、1つの技術やサービスを他の分野や企業に水平方向(横)に展開することを指す。

プリウスで培ったモータ―、駆動用電池、インバーターなどの制御装置の技術は、アクア/カローラ/RAV4、レクサス各モデルなどトヨタの売れ筋商品で応用されている。

プリウスで培った技術は、アクア/カローラ/RAV4などに応用されている。    神村 聖

さらに言えば、競合他社にも電動化シフトという流れで大きな影響を与えている。

ホンダの場合、各種ハイブリッド機構のエンジニアは「ハイブリッドについてトヨタの特許がとても多く、企画段階で断念した案がいくつかある」とプリウスが切り開いてきたトヨタハイブリッドシステムの壁の存在を認めている。

また日産の場合、「トヨタがハイブリッドなら、日産はもっと先のEVで勝負する」(2000年代後半の日産幹部)という意気込みでリーフ量産に踏み切り、その経験がeパワーを生んだ。

さらに、トヨタは2019年4月、ハイブリッド車開発で培ったモーター等の電動化技術の特許実施権を無償で提供すると発表。

今年5月の2020年3月期決算発表時に、2024年から2025年に約50万台の契約があることを明らかにした。

特許実施権は無償だが、部品や技術提供は有料である。

トヨタとしては、ハイブリッド技術のヨコテン役としてのプリウスは使命をしっかりと果たしていると見ているに違いない。

次期5代目プリウスはどうなるのか?

以上のように、仮に4代目プリウスの販売台数がこのまま、ある程度の水準まで落ちたとしても、トヨタとしてはトヨタハイブリッド全体の需要が増えることが有益だと考えるはずだ。

とはいえ、販売現場ではそうした大局に立った考え方では事業が成り立たない。

初代トヨタ・プリウス(1997年)    トヨタ

特に、今年5月からは正式に、トヨタ全系統での全店舗全車種併売が始まったばかり。定番商品プリウスへの期待は高い。

トヨタ国内営業としても様々な形で販売店を支援し、また販売各店も独自の営業努力を繰り広げるはずだ。

最後にもう1点。フルモデルチェンジについてだ。

初代は6年間、2代目は8年間、3代目は6年間かけてそれぞれ生産・販売した。仮に4代目が6年間とすると、5代目登場は来年2021年末となる。

しかし現時点でトヨタ周辺から5代目に関する事実に基づく噂は聞こえてこない。

一方で、こんな話がある……。

4代目が登場して間もない頃、4代目開発担当者らとの意見交換で「5代目のイメージ」を聞いてみた。

その答えは「実際、社内でも議論することがある。個人的には、モデル名を含めて、これまでのプリウスとはまったく違ったクルマになってもおかしくはないと思う」というものだった。

モデルライフの中期から後期に入ったとみられる、4代目プリウス

今後の国内販売の動向に注目していきたい。