「妻の無償労働」に頼りきりで生きてきた男たちの末路 家事もできず、支出は増え…

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「妻」に先立たれた途端の悲劇

その80代の男性は、妻をがんで亡くしてから独り身の生活が続いていたという。

終活コンサルタントの安藤信平氏が訪れた男性の自宅は、「悲惨」のひと言に尽きた。安藤氏が言う。

「玄関を入ったらゴミの山で、足の踏み場がなく、異臭を放っていました。排泄をお風呂でしていた様子もありました。もともと片付けが苦手な方だったようですが、身の回りのことをすべて奥さんに任せていました。

奥さんの死後、話し相手もおらず、寂しさを紛らすために酒におぼれ、栄養バランスもおかしくなった。被害妄想も出て、怒りっぽくなり情緒不安定になっていました」

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男性は、最後は腎臓を壊して亡くなったという。

妻に先立たれる可能性を考えて準備しておかないと、夫を悲劇が襲いかねない。ひとつは、経済的な問題だ。

「夫を亡くした妻に比べると、妻を亡くした夫のほうが経済的に打撃を受けます。一般に前者のほうが大変のように思われますが、妻には遺産相続に加えて遺族年金や死亡保険金が入るケースが多い。

しかし妻を亡くした夫の場合、専業主婦だった妻の分の年金が単純に減るだけのことが多く、経済的に苦しくなるのです」(シニア生活文化研究所所長・小谷みどり氏)

唯一の収入である年金だけではない。家事ができない夫が独り身になれば、おカネに直結する。

「妻がやっていたような家事ができなければ、そのぶん支出が増えてしまいます。料理ができずにスーパーで弁当を買う人は食費がかさんでいきますし、洗濯や掃除もできなければ外注するしかない。

それだけ妻が無償労働をしていたということになりますが、夫のほうが貧困に陥りやすいのです」(小谷氏)

冒頭の男性は、妻の死後1年ほどは「自由気ままに生活できて楽しいよ」と語っていたのだが、やがて孤独になった。そう、おカネ以上に、精神的な負担は凄まじい。

「現役世代のときなら、もし妻に先立たれても、仕事があるため、妻が生きているときのライフスタイルを送ることになり、そのうち慣れていく。

ところが定年後に妻を亡くしてしまうと、ぽつんと孤独になってしまい、路頭に迷う。一気に話し相手が減り、外出も減っていきます。精神的なダメージから、ひきこもりになってしまうことも多いのです」(小谷氏)

前出の安藤氏は「妻が亡くなってから生活を変えるのでは遅い」として、こうアドバイスする。

「家事については、妻の段取りを日頃からみて、実際に一品でも料理を作ってみましょう。そして妻がやっているように近所の人と挨拶や会話をしてみる。

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妻がいなくなっても、周りの人に助けてもらおうという姿勢でいるべきです。準備をしておけば、動揺はあっても、やがて自立して生きていくことができます」

晩年はひきこもりになって孤独死―気をつけておかないと、誰にでも起こる悲劇である。

死別して「再婚」した途端の悲劇

妻との死別後の悲劇を解消しようとすると、選択肢に浮上するのが再婚である。神奈川県在住の大槻健さん(仮名・73歳)は、前妻が亡くなった3年後に再婚した。

「相手も夫と死別しており、4歳年下です。顔立ちも好みでしたし、若々しい印象も受けた。私は妻と別れて孤独な生活に耐えきれませんでしたし、家事もできませんでしたから、プロポーズを受けてくれたときは、まともな生活が送れるようになると嬉しかった」

だが、すぐ障害が生じた。大槻さんのひとり娘が反対したのである。

「お母さんが死んでから3年で再婚するなんて、何を考えてるの? あの人(後妻)は、遺産目当てに決まってるわよ」

大槻さんの後妻には、2人の子もいる。とっくに成人し、それぞれ独立して生計を立てている。

「このケースであれば、後妻の方が遺産の2分の1、そして実子である娘さんが2分の1を法定相続することになります」(ファイナンシャル・プランナーの横川由理氏)

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大槻さんのひとり娘からすれば、父親が再婚しなければ、すべての遺産を相続できたはずなのに、それがなんと半分になってしまう。しかも、その後に後妻が亡くなれば、結果的に父の遺産は見ず知らずの連れ子のものになるのだ。これが反対の原因だった。

大槻さんは、「遺言書を書いて、必ず法定相続分以上をお前に残すから」と娘を説得しようとしたものの、喧嘩になり、もはや口を利かない関係になってしまった。娘の反対を押し切って再婚に踏み切った大槻さんだが、誤算は結婚後にもあった。

「もともと活動的な女性という印象はあったのですが、家を空けることが多かったのです。テニスやゴルフのサークルに入っていて、その仲間たちと練習やらラウンドやらでしょっちゅう出かけていく。

私はスポーツなど何もしない性質ですから、行動を共にできない。嫌われるのもいやなので、自由にさせることにしました」(大槻さん)

大槻さんは、一日中一緒に過ごし、何から何までやってくれる貞淑な妻を期待していたのだが、そうではなかった。家事についても誤算だった。

「料理が得意でなく、私の舌には合わない。掃除も雑な感じがするし、こんなはずではなかったと思うんですが、文句など言えない」(大槻さん)

サークルの仲間と行くラウンド費用や旅行費用も、大槻さんが面倒を見るようになった。家族カードとしてクレジットカードを作ると、みるみる支払い額が増えていった。

「ブランド物のバッグや、宝石類までリボ払いで買っている。私の財産を使い切ろうとしているのではないかと疑心暗鬼になりました」(大槻さん)

早朝から着飾ってゴルフに出かけていく「妻」を見送り、大槻さんはひとりぼっちの朝食を毎日食べているという。

夫婦問題コンサルタントの寺門美和子氏は言う。

「いま60歳以上の男性ならば、たいてい前の奥さんとは、昭和の時代の結婚です。かつて妻は家庭に入り、夫をたてるという『男尊女卑』の意識が結婚のどこかにあった。

しかし、年配の女性の多くは、もはや再婚してまで家政婦のような生活を送りたくない。『前の妻がやってくれたことを、この人ならやってくれる』と考えて、新しい妻にそれを求めても駄目です」

大槻さんは「婚活」を急いだのもまずかった。

「時間をかけて選ばないといけません。1年くらいはお付き合いして、お泊まりも複数回経験したほうがいい。相手の生活習慣もわかるからです。

女性のなかでも、朝起きるのが苦手で家事をしない方がいますし、そうなると結局朝の家事やゴミ出しの負担は、一人暮らしのときと大して変わらないものになる」(寺門氏)

大槻さんは、いま新妻との離婚を真剣に考えているというが、寺門氏はこうアドバイスする。

「相手が豹変したならば、離婚が一番いい。あわないと思った人と残りの人生を過ごすのは不幸です。ある程度の資産があるなら、手切れ金で離婚に応じてもらうべきです」

このまま結婚生活を続行したところで、遺産分割の問題も残っている。

「後の奥さんに財産が行くこと自体は問題なくても、奥さんの死後、縁もゆかりもない奥さんの家族に財産が行ってしまうことを嫌がる人は多い。前の奥さんとの間の子どもに財産が戻せるように、再婚前に家族信託を組むべきです」(寺門氏)

前妻と同じ人を見つけることは不可能なのだ。

『週刊現代』2020年3月21・28日号より