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本能寺の変の後の10日をどう描くか

大河ドラマ『麒麟がくる』に織田信長が登場したのは7話の終わりからである。
演じるのは染谷将太。暁光を背に船に乗って登場した。印象的なシーンだった。

『麒麟がくる』の主人公は明智光秀である。

となると、織田信長は主人公の次に重要な人物となる。

光秀はのちに信長に仕え、そして彼を殺し、そのあとすぐに殺されてしまう。

光秀の生涯を追うかぎり、信長の物語といくつも重なるのはしかたがない。

光秀の生涯を見ていてやはり残念になるのは、本能寺で信長を殺すというものすごいことをやったのに、それから10日余りで自身も死んでしまうところにある。

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えーと、これは「ネタバレ」って断らなくて大丈夫ですよね。今年の大河ドラマの結末をばらすなって怒らないでくださいね。史実だから、

具体的に言えば、光秀が本能寺の信長を襲うのは天正10年の6月1日の深夜であり、岡山で毛利軍と対峙していたはずの秀吉が京都へ戻ってきて光秀軍をぶち破るのは6月13日の夕刻である。その敗走中に光秀は死ぬ。信長を殺して10日余りしか生きていない。

秀吉は信長が死んでから16年、家康だと34年生き延びた。光秀はそれに比べたら、ほぼ同時に死んだ人になってしまう。

なかなか残念である。

でもしかたない。

せめて今年のドラマは、本能寺の変のあとの10日間を丁寧に描いてほしいとおもうばかりだ。

ひょっとして、光秀はそこでは死なず、のち天海と名乗り徳川幕府のブレーンとなって100歳まで生きたというトンデモ展開を見せてくれたらすごいとおもうけど、むずかしいでしょうね。そんなものを大河ドラマで見せたら、日本中の大河信者が槍を持って渋谷NHK城を襲いそうだ。槍を匿し持たないように。

信長の二面性

明智光秀の物語として、織田信長がどう描かれるのかは、注目ポイントである。
光秀から見た信長を描くのは、なかなかむずかしい。

いずれ彼に仕え、彼の野望のために手足をなって動くことになる。そしてそのあと彼を殺してしまう。そういう関係が前提で描かれる。

だからまず魅力的な人物でなくてはいけない。かといって全面的に素晴らしい人物であったら、光秀が殺す理由がなくなってしまう。何かしらのダークサイドを抱えていたほうがいい。その二面性を描くのがむずかしいだろう。

そこを染谷将太の信長はみごとに見せていたとおもう。

なかなかすばらしい。

登場シーンからしてかっこよかった。

そういえば、われわれが信長に抱いてるイメージのひとつに「かっこいい人」というのがあるとおもう。みんながみんなそうでもないだろうが、でも秀吉、家康と並べたときに「颯爽とした行動力の人」としてのかっこよさをイメージしてしまう。

『麒麟がくる』の信長は、自ら船に乗って魚を捕り、それを安く分けていた。民の暮らしの助けにせよということで、しかもそれを食べろということではなく、よそで高く売ってたつきにせよ、と安く売っていたのだ。そこにはいくつもの信長の思想と指向があらわれていて、いいシーンだとおもった。

次の回では、婚礼をすっぽかした相手(帰蝶・川口春奈)に、村の池にバケモノが出るという噂が立っていたから、見定めに行っておったのだと言い訳をしている。わしが実際に池に入ったからみな安心するじゃろう、と楽しそうに語る信長は、ここでも行動力があって、民のことを考える魅力的な領主さまである。

すなおに、ああ、いい殿様だな、とおもった。

いままでにあまり見かけなかった信長である。

こういう信長には、染谷将太の気配がとても合う。

『麒麟がくる』の新しい魅力になっていくのだろう。

確実に「怖い人」に見える

ただ、奇異な振る舞いにも出る。

父信虎らに帰蝶を引き合わせるおりに「尾張の繁栄には欠かせぬめでたき引き出物」と言って桶を父に進呈する。その中に入っていたのは、三河岡崎の松平広忠の生首である。これに父は激怒する。

ただそれは祝いの席に生首など、ということで怒ったのではなく「強敵今川義元の傘下にある松平の当主をいまなぜ殺すのだ、この愚か者」という政治判断ができない信長に対しての怒りであった。

ただ、これによって、信長の奇矯なことをしでかす側面がみごとに示されていた。

喜々として生首を差し出す信長は、やはり変である。

爽やかで、行動力があって、民に好かれているだけの領主だと、光秀ものちに殺しにくいだろう。魅力的な信長を見せながら、ちょっと理解できない面も描かれていくはずで、これがまず最初の一撃だった。

見るかぎり、正面からの奇人ではなく、本人がよかれとおもってやっていることが何だかずれている、というふうに描かれていくのではないか。それは、うっすらと、でも確実に怖い人に見えてくるようにおもう。

それを染谷将太が演じるのが、また味わい深い。

「染谷信長」の圧倒的魅力

染谷将太は信長を演じるには、かなり若いほうである。

『麒麟がくる』について取材にきた女性(たぶん四十代)と話していたおり、染谷将太は若すぎる、とちょっと不満げであった・彼女だけではなくその周りの女性も、若すぎると不満なのだそうだ。日本のどこかではそういう意見も出てるのだろう。

人にはそれぞれの「信長像」というのがあって、できればそれを守っていきたいようである。それはわかるが、そこに固執してしまえば、ただ時間の彼方の砂州に取り残されるばかりである。

いままでの信長像とは違うが、だからこそ私には圧倒的魅力にあふれてるように見えた。

そもそもドラマのいまの時点での信長本人はかなり若い。

11話(3月29日放送)の舞台は天文18年である。西暦でいえば1550年。

織田信長は天文3年の生まれで、改元されてないから数えやすい。ドラマでの信長は11話では、数えで17、満年齢だと15から16になるところである。

若いというか少年である。いまの高校一年生相当。

染谷将太は平成4年生まれだから、数えで29、満年齢だと誕生日の9月までは27である。

天文年間の信長を演じるには、染谷のほうがずいぶん年上ということになる。

ドラマでは敢えてふれていないが、十兵衛光秀だってこの時点ではかなり若く、そろそろ青年になろうか、という時期のはずである(光秀は信長と違って、歴史上の生年が確定されていないが、信長の6歳上というのがひとつの定説)。

ついでにいえば、向井理が演じる将軍義輝は信長の2つ下なので、第11話の『将軍の涙』で泣いていたときは、まだ数えで15ということになる。いまでいえば中学生の少年だ。

いまのところ戦国武将の若々しい青年時代が描かれているのである。これはこれで溌剌として見ていて楽しい。

桶狭間で今川義元を破って信長が名を上げるのはまだ10年ののち、そのときでもまだ染谷将太の年を越えない。

他の作品の信長たち

染谷将太では若いといっても、何才の役者が信長を演じればいいのか、というのはむずかしいところである。

私は、見た目が若く童顔ぽい染谷将太が「ダークサイドを抱えた信長」を演じるからこそ、迫力がでるのではないかと期待している。

染谷の信長は、どれぐらい若いのか。これまで大河ドラマで信長を演じた主立った役者を、年令の若い順に並べてみる。

(年令はその大河ドラマが放送された年の誕生日を迎えたときの満年齢で並べる。いわゆる数え年の1つ下、という考え方である。歴史物はそういうふうに捉えるほうが断然いいと私はおもっている)

25歳 緒形直人1992年『信長KING OF ZIPANG』
25歳 杉良太郎1969年『天と地と』
27歳 役所広司1983年『徳川家康』
●28歳 染谷将太2020年『麒麟がくる』
29歳 高橋英樹1973年『国盗り物語』
29歳 反町隆史2002年『利家とまつ』
30歳 高橋幸治 1965年『太閤記』
32歳 石橋凌1988年『武田信玄』
35歳 藤岡弘1981年『おんな太閤記』
40歳 市川海老蔵2017年『おんな城主 直虎』
43歳 高橋幸治1978年『黄金の日々』
43歳 藤岡弘1989年『春日局』
44歳 吉川晃司2009年『天地人』
47歳 江口洋介2014年『軍師官兵衛』
49歳 豊川悦司2011年『江〜姫たちの戦国』
55歳 渡哲也1996年『秀吉』
56歳 舘ひろし 2006年『功名が辻』
57歳 吉田鋼太郎 2016年『真田丸』

(主立った信長は拾ってありますが、網羅はしていません)

並べればわかるように、染谷将太の信長が飛び抜けて若いわけではない。

緒形直人と杉良太郎の25歳が最も若い。

杉良太郎に25歳のときがあったのかとちょっと心打たれるが(あるに決まってます)、これは上杉謙信の物語だから、若い役者が必要だったのだろう。

並べて歴代の信長で、私が印象深いのは、『国盗り物語』の高橋英樹、『利家とまつ』の反町隆史、『太閤記』の高橋幸二の三人である。

『太閤記』をみたのは私は小学2年生のはずだが本能寺のシーンで切腹する高橋幸二の姿はとてもよく覚えている(この信長の延命嘆願が殺到していたという事実は、のちに筒井康隆の小説で知った。当時はまったく知らなかった。ま、小2ですから)。

29歳高橋英樹の信長はエネルギッシュで素敵だった。

21世紀になってからもっとも若い反町隆史の30歳信長も魅力的だった。

最近の信長は、ずいぶん年のいった人が演じてしまう印象がある。たしかに風格と威厳は出るだろうが、果たして歴史上の織田信長その人を反映しているのかと個人的にはかなり疑問だし、いつも何かしらの無理を感じてしまう。「老人の多くなった社会」のよくわからないサービス(誰が得してるのかわからない)に見えてしまうのだ。

2020年になって、ひさしぶりに20代の信長が登場してきて気持ちいい。

20代の信長が納得できないというのは、老人主体の社会の意見という感じがして、私はあまり同意できません。すいません。

やはり信長はギラついている30代がいいとおもう。 

『麒麟がくる』の染谷将太にはとても期待している。

とても気さくで魅力的で、それでいてとんでもないダークサイドを秘めていそうな信長を、楽しみにしている。