奪われた高校「最後の夏」 IH中止の苦悩と葛藤

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 甚大な影響をもたらしている新型コロナウイルスは、20日に中止が発表された全国高校野球選手権大会だけでなく、全国高校総合体育大会(インターハイ)も中止となるなど、部活動に打ち込んできた高校生の「夢舞台」をも奪った。

 一度きりの「最後の夏」を失った最上級生は、苦悩と葛藤の日々を送っている。(石原颯、飯嶋彩希、出口賢太郎)

 ■受験か競技か

 「どれぐらいのタイムが出たのか、自分はインハイ(インターハイ)に行けたのか。悔しいのが一番」

 陸上女子400メートル障害でインターハイ出場を目指してきた愛知県立瑞陵(ずいりょう)高(名古屋市)3年の前田明日香さん(17)は、現在の心境をこう吐露した。

 昨秋行われた東海新人大会で4位入賞。夏の東海大会で6位以内なら出場権が得られるインターハイを視野に練習に励む中、総体中止の一報が飛び込んできた。予選となる県大会や東海大会もなくなり「ショックで1週間ほどトレーニングができなかった」。

 現在は自宅近くの坂道を走ったり体幹を鍛えたりと週5回、自主トレで汗を流すが、次の大会がいつなのかも分からない。同期の陸上部員の半数が大学受験に備えて引退を決意。自身もインターハイの後、受験に切り替える予定だったが、競技続行か受験専念で揺れている。「もうすぐ学校が始まるので、部のみんなの意見を聞いて考えようと思っている」

 ■自宅でトス練習

 「小学生でバレーボールを始めて以来、コートに2カ月も立たないのは初めて」。埼玉栄高(さいたま市)3年で男子バレーボール部主将の橋本拓磨さん(17)は毎日ランニングを行い、自宅でトス練習などに励んでいる。

 同校は毎年1月に開催される全日本バレーボール高等学校選手権(春の高校バレー)に5年連続出場中の強豪。年明けの県新人戦で優勝を果たした後、修学旅行で2月に米国へ行き、帰国すると、国内の雰囲気は一変していた。ほどなく休校が決まり、部活動も停止に。「またすぐ(部活が)できるだろう」と気楽に捉えていたが、授業は6月に再開予定となったものの、部活の再開は具体的な見通しが立っていない。

 自宅がある埼玉県嵐山町から学校までは電車で片道約1時間半。普段は毎朝午前5時起きで帰宅は午後10時ごろだったが、自宅生活を余儀なくされている。母、恵理子さん(45)は「ずっとバレー漬けで頑張ってきた。目標の舞台で活躍する姿を見たい」と一日も早い収束を願った。

 部を指導する伊藤寿一監督は「部員には『体力を落とさないように』とだけ指示し、『絶対に感染しないでまた元気な姿で会おう』と呼びかけた。3年生については、かける言葉が見つからない」と打ち明ける。

 3年生にとって残る大舞台は来年1月の春高。橋本さんは「このチームでできるのは今しかない。春高は『ある』と思って、今できることを精いっぱいやるしかない」と前を向いた。

 ■恩師の言葉支えに

 水戸葵陵(きりょう)高(水戸市)3年の剣道部主将、渡辺哉斗(かなと)さん(17)も「驚き、悔しさでいっぱいになった」と語る。2年生ながら昨年のインターハイ剣道男子団体に出場、準優勝に貢献。「今年こそ日本一」と竹刀をふってきたが、情熱の行き場を失った。

 支えになったのは、30年以上の指導歴を持ち全国大会で複数回優勝している名将、君島範親(のりちか)監督の言葉だ。「ここで止まっていないで、誰よりも先に前に進め」と激励されたといい「大学へ行っても社会人になっても、日本一という目標は変わらない」と、気を引き締め直した。

 ■主体性はぐくむ契機に

 コロナ禍によりインターハイだけでなく全国中学校体育大会(全中)も中止になるなど、部活動に及ぼす影響は計り知れない。多くの自治体で緊急事態宣言が解除されて分散登校が始まり、部活も徐々に再開される見通しだが、大きな目標を失った生徒らを、大人はどう導いていけばいいのか。

 筑波大の尾県(おがた)貢教授(コーチング学)は「勝つことだけに目を向けるのではなく、指導者が寄り添い、スポーツの面白さや価値を子供たちと共有していくことが大事だ」と強調する。

 競技力を高めることだけではなく「技術を磨き、成長していくプロセスや仲間とコミュニケーションを取りながら楽しむのもスポーツの持つ価値」とし、「スポーツすること自体を『楽しい』と思えることがスポーツ本来の姿。それを知ることを部活動の目標に置けるよう指導してほしい」と求めた。

 一方、早稲田大の中澤篤史准教授(スポーツ社会学)は「今までの縛られた部活動の在り方を覆すような、自分たちでやりたいことをできる主体的な部活動に変えるきっかけにしてほしい」と主張する。

 部活動は生徒の主体的な活動であるという原点に立ち返り、自前の大会を開催するなど生徒同士の話し合いで区切りの付け方や今後の方向性を探るべきだと強調。「いきなり『部活やるぞ』と連れ回すのではなく、まずは子供たちの思いをじっくり聞いてあげてほしい」と呼びかける。