「バイトも嫌がって…」コロナ消毒作業を担う「特殊清掃業者」の本音 消毒と予防の最前線で行われていること

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「早急に消毒の作業をしてもらいたいんですが…」

5月の初頭--。横浜で「ゴミ屋敷状態」のアパートの清掃をしていた特殊案件施工士の及川徳人さん(45)のスマホが鳴った。

電話の相手は、以前からよく知る不動産管理会社の担当者だった。

「及川さん、実は急な話なんですが、うちで管理している団地で新型コロナの感染者が出てしまいまして。そこで、早急に消毒の作業をしてもらいたいんですが……」

聞くと現在の現場からさほど遠くない場所だった。及川さんは、その現場の仕事を他のスタッフに任せ、アシスタントを連れて現場に急行した。

現場に行ってみると、電話をかけてきた担当者が不安げな面持ちで出迎えてくれた。
そこは、3階建ての団地の1階の部屋だった。その部屋のドアは、すでに管理会社によって密閉され、ドアにはテープが貼り付けてあった。

最初に噴霧器で消毒剤を散布する ※プライバシー保護のため加工を施しています

この部屋の住人に新型コロナの症状が出て、搬送された病院で検査の結果「陽性」とわかり、その情報が病院を通じて管理会社に届いたのだ。

室内には当分誰も入れない。中の洗浄も必要となるのだが、現在のところ感染を防ぐために密閉するしかない。

すべて消毒しなければならない

エレベーターはない建物だった。及川さんにとって、新型コロナの感染者発生による清掃・消毒はこの依頼で6回目のことだった。1階の部屋であっても、2、3階まで上がらないと言う保証はない。いわゆる共有部分をすべて消毒しなければならない。

及川さんたちは、防護服にゴーグルに防護マスク、長靴という出で立ちで作業を開始した。

まず、噴霧器で消毒液を散布していく。すべての階段にまいていき、それが終わると消毒液を染み込ませた布で手すり、階段、床を丁寧に拭きあげる。さらに、感染者が触った可能性のある集合ポストも消毒する。

すべての共有空間にも消毒液を散布

使用する消毒液はアメリカ製の「ハイプロックス アクセル」という濃縮タイプの除菌洗浄剤。これは今年2月に新型コロナウィルスの集団感染が発生したあの「ダイヤモンドプリンセス号」の殺菌・消毒で使用されたものと同じ種類だった。濃縮タイプなので、水で希釈して使用する。

最後に自分たちの長靴の靴底も消毒液に浸けた布で洗浄する。着ていた防護服を脱いで消毒のスプレーを全身に振りかけて作業は終了となる。防護服は1回で処分されると言う。

作業が完了した際に、靴底を消毒する液を容器に浸しておく

約2時間の作業だった。及川さんが言う。

「今回は、アシスタントがついてくれましたが、『新型コロナ』と聞くとアルバイトも嫌がるんです。『家族が反対するので』と言われることもあります。こちらも無理にとは言えないんで、やってくれる人にしか頼みません。僕ですか? 怖くないとは言えませんが、充分に注意して慎重にやっていますから」

これで費用はいくらかかるのだろうか。

「相場としては1平米約800円。今日のケースだったら約6万円ですね。最近では、新規参入の業者が1平米3000円なんて法外な請求をするケースもあるようですね」

感染予防のための消毒作業も

及川さんは、特殊清掃やハウスクリーニングなどのサービスを専門とする株式会社タスカットの部長職だ。

「ゴミ部屋清掃や特殊清掃、ハウスクリーニング、遺品・生前整理なども多いですね。最近は、やはりコロナ禍の影響で、感染予防のための消毒が増えています」

その感染予防のための消毒現場にも同行してみた。依頼主は東京都の多摩地域にある就労継続支援施設だった。駅から10分ほどの4階建てのビルの3階の一室。30畳ほどの広さだろうか。

障がいを持つ利用者が通う施設で、利用者がいなくなった夕方の6時から作業が始まった。作業員は、及川さんと社長の牧達哉さん(49)、そしてアシスタント2人の計4人だ。

作業の工程は、まず「養生」から始める。消毒液がかからないように、壁や本棚、置いてある家具にビニールシートを貼り付けていく。シートには接着テープが付いている。オフィスエリアのパソコン、コピー、プリンターなどもカバーしていく。これがなかなか大変な作業である。

噴霧器はアメリカ製の「トライジェット」。希釈した消毒液を散布する

次に部屋中に消毒液を噴霧器で散布する。ここでも使われる消毒液は、「ハイプロックス アクセル」だった。それを希釈して使用する。噴霧器はアメリカ製で「トライジェット」と言う標準型ミスト機。聞くと新型コロナウイルスの影響で入荷が数ヶ月待ちになっているらしい。

テーブルや椅子を消毒液を浸した布で丁寧に拭いていく。何気なく触る裏側も

そして、テーブル、デスク、椅子全てを消毒液を染み込ませた布で丹念に拭いていく。

「テーブルの裏側や椅子の裏側も何気なく人が触るんですよ。そこも丁寧に拭いていきます」と及川さん。

さらに、床を消毒液の布で隅から隅まで拭きあげていく。殊のほか重労働である。

欠かせない「オゾン脱臭」

ここまでで約2時間が経過。

そしてここで登場するのが、業務用オゾン発生器だ。これは、いわゆる特殊清掃には欠かせない脱臭機で、イスラエル製である。1台60万円から80万円と高価だが、及川さんたちにとっては必需品である。孤独死があった室内の臭いや、ゴミ屋敷、ペット臭、タバコ臭などを除去するのだ。

イスラエル製のオゾン発生器。高額だが脱臭効果は抜群である

2台のオゾン発生器を室内に配置し、起動させる。オゾン、つまりO3が発生するのだ。独特の匂いがある。塩素のような、ブールのような匂い。これはあまり吸い込まないほうがいいらしい。オゾン脱臭の仕組みとは、オゾン分子(O3)と匂い成分の分子がぶつかり反応することで、臭い分子を分解するのだと言う(=オゾン酸化分解法)。

そこで全員部屋を退出し、外で待つこと約30分。時間になると、及川さんが防護マスクを装着し、室内に入り、窓を全開にした。約20分でオゾンは室内からなくなり、無臭となった。

最後に養生していたシートを撤去し、すべてを元の状態に戻し作業終了である。約3時間の工程だった。

作業が完了すると「消毒作業実施証明書」が送られる

施設の職員さんが戻ったので、少し話を聞いてみた。

--どういう意図で消毒を依頼したのですか?

「ここは、利用者さんが通ってくる、いわゆる通所なんですが、やはり安心して利用してもらうために依頼しました」(施設の職員)

作業終了とともに、タスカットから施設に、額に入った「消毒作業実施証明書」が送られた。これが施設の壁に掲げられるのだ。これでとりあえず「安心」が確保できたわけである。

新型コロナの影響は、こんなサービスにも現れている。今後、こうした取り組みはますます増えていくに違いない。