実戦の空戦で一度も撃墜されたことのない最強の戦闘機・F‐15イーグル。日本に伝説のパイロット“鷲神”がいた

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40年以上日本を守るF‐15イーグル戦闘機。現役とOBのパイロットに話を聞いた

2020年度に、航空自衛隊からF-4EJファントム戦闘機が全機退役する。今、三沢基地で302飛行隊は、F-4からF‐35ライトニング2ステルス戦闘機に機種転換中である。だが、戦力化するにはまだ時間がかかる。

その間、日本の空を守る主力がF‐15Jイーグル戦闘機だ。1970年代に配備されてから一度も実戦の空戦で撃墜されたことのない、最強の戦闘機。日本には1980年3月27日、二機のF‐15が米国から飛来。以来40年間、さらに今後もF‐15J改となり飛び続ける老兵だ。

その姿を本誌軍事班記者コミネは、2018年11月から2019年8月まで、全国の空自基地を飛び回り取材。イーグルを操縦している現役パイロット、そして退役したパイロット、40年間に渡るイーグルドライバーたちにインタビューを行なった。

そして、最強の戦闘機F‐15の空戦の様相を解き明かした。空戦の醍醐味は、相手機の真後ろに付いてミサイル・機関砲で撃墜する、通称ドッグファイトだ。そこには、イーグルドライバーたちから『鷲神(わしがみ)』と崇(あが)め奉(たてまつ)られるふたりのパイロットがいた。鷲神様とは、やたら滅法、空戦が強い男たちだった。彼らは今、マッハ爺となっている。


米軍F‐15を使った初期の訓練(重永雅氏提供)

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■空中戦で負け知らずの"鷲神"たち

ひとり目の鷲神様は、現在、宮崎県の新田原基地近くに住む、森垣英佐(もりがき・ひですけ)元1等空佐(75歳、取材時)。今も一日に1.5km泳ぎ、4km走るマッハ爺だ。

202飛行隊隊長だった当時で、すでに45、6歳。それが、朝から20代のパイロットたちと走る。

「陸自じゃない空自で、朝から3km走です。前半はゆっくり走って後半はダッシュ、全力疾走の競走ですよ。めちゃくちゃ足が速い。ゴールすると遅れてやってくるパイロットたちに『俺より遅いとは何事だ? 何やってんだ? 隊長に負けていいのか?』と」(退役した元部下のパイロット)

息の乱れも見せなかった森垣隊長は、「飛ぶだけではなく心技体、若い者に負けないぞという考えでした。当時、私は四五、六歳で、若いお前たちならできるだろうという気持ちですよ。たかが3km。戦闘機パイロットだったら、これくらいやって当然だと思います」と言い放つ。

F‐15は9G旋回可能で、パイロットがGLOC(G重力加速度による意識喪失)を起こす。そうならないためには、徹底的に身体の持久力と筋力を鍛えなければならなかったのだ。

森垣隊長は、1981年、空自パイロットから選び抜かれた『15人の鷲侍』と呼ばれ、初めてF‐15を学びに米国留学したひとりだ。帰国後、日本各地の飛行隊を機種転換して、その空戦の腕を乞われて、全国の戦闘飛行隊を転戦。当時、T‐2練習機で空戦訓練するアグレッサー飛行教導隊に行く。

「戦闘機操縦課程を修了したばかりの若いパイロットが乗るF‐15と1対1で空中戦やったら、相手がよほど下手くそか、Gに負けてF‐15を思いどおり動かせなくなっている場合以外は、性能差でT‐2では絶対に勝てない。T‐2対F‐4でも、性能差で1対1だと負ける。しかし2対2で引き分け。4対4、8対8なら、T‐2教導隊がたいてい勝利します」(森垣氏)


現役イーグルドライバーは何を語る


練習機で最新戦闘機に勝つ極意は、眼力だ。機体の大きなF‐15を森垣氏は55km先から発見できた。そして、F‐86戦闘機時代、森垣氏は、空中曳航標的(縦1.8m横9m)に対して、12.7mm機関砲を100発中92発命中させた名人だ。発見しても機関砲を命中させないと鷲神様にはなれない。さらに、空戦場の何処に敵味方機がいるのかを一瞬で把握する空間把握能力が優れている。

「ジェット戦闘機の空中戦での機速は時速5百〜千キロメートルです。最大の場合、彼我のすれちがう速度は合わせると2千キロメートルにもなります。すると、刻一刻と彼我の相関位置は激変します」(退役した元パイロット)

そして、正確に相手機の後ろを取る。

「私に言わせれば森垣隊長は天才です。誰も真似できないくらい凄い。とにかく隊長は空中戦の先読みが早いんです」(有馬龍也元空将補。1989年、全国の戦闘飛行隊が集って腕を競う競技会である航空総隊戦技競技会で、202飛行隊・森垣隊長の二番機を務める)


大空のサムライ坂井三郎氏(左)と西垣義治氏(西垣義治氏提供)

もうひとりの鷲神様が、西垣義治(にしがき・よしはる)元1等空佐(72歳)、元304飛行隊隊長だ。現役時代、零戦の大空のサムライ・坂井三郎氏が評判を聞いて直接、会いに来た。

飛行教導隊から、当時、「腕は超一流だが、不良揃い」と言われた最低の飛行隊、304に隊長として殴り込んだ。しかし、全員を鉄拳制裁するような旧軍の真似は出来ない。西垣隊長は、空の空戦訓練で生意気な部下たちと独りずつ空戦勝負に出たのだ。

「空に上がって全員、1対1でかかって来いと......。で、皆やっつけるんですよ。飛行教導隊出身の凄いパイロットが来たと思わさないかん。お前らとはレベルが違うんだと」(西垣氏)

「キャノピー・アンド・キャノピーでスタートです。同じ技量で同じ飛行機ならば勝負はつきません。しかし、相手がミスをするわけですよ。そこを圧倒的な力で押さえに行く。そして『何だお前ら? もう1回やるぞ』で、再び勝って徹底的に叩きのめすんですわ」(西垣氏)

1ヶ月で、全機撃墜。力でねじ伏せて、304飛行隊を全国で一番最強の15飛行隊にした。

 
■鷲神様の愛弟子・高木BooとF‐14の空戦

304から鷲神様・西垣氏が去っても、そこに一番弟子で暴れん坊の高木博元1等空尉(56歳)がいた。タックネームはBoo。西垣氏直伝の撃墜術で、数々の異機種を空戦訓練で撃墜。その相手は、F‐104、F‐4、F‐14、F‐15C、FA‐18、AV‐8ハリアーだ。

ある日、訓練空域を飛んでいるとレーダーに未確認シンボルを確認。接近して来たそれは、米海軍F‐14トムキャット二機だった。F‐ 14はさかんに翼を左右に振って「空戦勝負しないか?」と誘ってきた。

「こういう時、ファイターパイロットは燃えるんですよ。外国のファイターが来た時に、われわれはどうしてもケツを向けることはできないんです」(高木氏)


OBが語る、米海軍F‐14トムキャットと2度の空中戦


高木氏の率いる空自F‐15三機と、映画『トップガン』でミグに対して最強だった米海軍F‐14との戦いが始まった。西垣流空戦術の達人たちは、イーグルでトム猫に襲い掛かった。F‐14は得意の可変翼を広げて、F‐15の後ろに付こうとするが、その前に勝負は決まっていた。

「何回やっても、われわれが勝つんですよ。こちらの完勝でした。ざまーみろです」(高木氏) 

しかし、米海軍は誇り高い。空自304飛行隊に正式に勝負を挑んできた。高木1尉は四機編隊でその訓練空域に向かった。

「F‐ 14は、また訓練空域のいちばん隅っこでクルクルと旋回を繰り返していました」

高木1尉は、再び撃墜してやろうと訓練空域を進んだ。ある位置まで飛んだ時、訓練の全体を見ている地上の要撃管制官から連絡が入った。

「F‐ 15、4機シャットダウン。全機撃墜と判定」

意外な知らせだった。高木1尉は、「えっ、何で? 何かの間違いでは?」と思った。ロックオン警報も何も鳴っていない。正解はF‐ 14の搭載するスタンド・オフ・ミサイル『フェニックス』長距離空対空ミサイルの餌食になっていたのだった。


西垣隊長は部隊全員を撃墜した(西垣義治氏提供)

その日、高木氏は一度もF‐14を目視確認しなかった。映画『トップガン』では、ミグ戦闘機とF‐14は、お互いに視認できる近距離で空戦ドッグファイトを演じ、F‐14は見事にミグを撃墜して空戦に勝利している。しかしこれは、真っ赤な嘘なのだ。

F‐14は、高木氏のF‐15イーグルと、お互い視認できる近距離での空戦では一度も勝てなかった。そして二度目の空戦訓練では、射程210kmのスタンド・オフ・ミサイル『フェニックス』長距離空対空ミサイルを"発射"したことにして、遥か210kmの彼方から撃ち逃げして勝った。だから高木氏は、その日、F‐14の機影を一度も見ることがなかったのだ。

森垣隊長は肉眼で55km先からF‐15を発見できるが、210キロ先のF‐14は無理だ。F‐14は米空母艦隊を守るために、敵機に長距離ミサイルを210kmの彼方から発射するのが任務の戦闘機なのだ。F‐15などの戦闘機と近距離でお互いに視認して、空戦ドッグファイトする戦闘機ではないのだ。

もし『トップガン』で、トム・クルーズ演じるマーヴェリックが、F‐14のレーダースクリーンに映る敵機ミグにフェニックス長距離ミサイルを撃っただけで「敵機撃墜! 勝った勝った!」言っていたら、おそらく映画はヒットしなかったはずだ。お互いに肉眼で視認できる距離でミグと派手な空戦シーンを演じたからこそ、映画は大ヒットした。ただ、それを見た一般人はF‐14戦闘機最強伝説を信じてしまった。しかし、それは幻だ。


立元教官からレクチャーを受けるコミネ

今年12月、日本公開予定の『トップガン マーヴェリック』では、マーヴェリックはF‐14を捨ててFA‐18に乗り換えている。FA‐18はF‐14の後継機で、戦闘攻撃機として、敵機の空戦から地上攻撃、対艦攻撃まで、マルチな任務を熟す万能機だ。『トップガン マーヴェリック』の中でマーヴェリックはFA‐18に乗り、相手機を視認して空戦するシーンがある。

軍事班記者コミネは、ひとり妄想する。映画なのだから、過去にタイムスリップしてもいいはずだ。もし、マーヴェリックが指揮するFA‐18編隊が、1990年代の日本の空にタイムスリップしたとしよう。偶然、そこで二機の空自F‐15と遭遇する。FA‐18が翼を振り、空戦に誘う。F‐15に乗るのは、鷲神の森垣氏と西垣氏だ。

鷲神様は、FA‐18ホ―ネットの空戦の申し出を受けるだろう。そして、空戦開始。既に55キロ手前から、FA‐18を発見していた森垣氏は、マーヴェリックが見えないコクピットの真下から攻撃して、あっさりと撃墜。

マーヴェリックの泣きの「もう一度、空戦訓練をお願いします」の申し出。その空戦訓練を出迎えた西垣氏は、9G旋回戦にマーヴェリックを誘う。しかし、マーヴェリックを演じるトム・クルーズは、すでに50歳を越えていて、9Gに耐えられず旋回戦から離脱を試みる。その瞬間、圧倒的な力で西垣氏は、マーベリックFA‐18をねじ伏せて、撃墜する。

鷲神様ふたりの操縦するF‐15二機は、翼を勇躍に翻すと基地に帰投する。そんなシーンを妄想してしまう空戦マニアのコミネであった。

●『鷲の翼 F‐15戦闘機』(並木書房) 著:小峯隆生

文/小峯隆生 写真/柿谷哲也