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エモくて、可愛くて、ちょっとおかしなアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』。全話放送が終了したところで、山本裕介監督のオリジナルロングインタビューをお届けしましたが、後編では、アニメ公式Twitterで募集した監督への質問の回答をたっぷり掲載します! 

――ではここからはTwitterで募集したみなさんからの質問にお答えいただきたいと思います。まずは、
「エンディングでJR中条駅らしきものが映るシーンがありますが、作中では特に出てこなかった駅のシーンだと思います。なぜ中条駅にえりぴよが立っていたのかが気になります。えりぴよが勤務するパン工場の最寄りの駅とかなのでしょうか?」

山本 バイト先のパン工場がどこにあるかは、実ははっきり決めていないんです(笑)。なぜ中条駅かというと、第2話のガールズフェスをやったイベント会場の最寄り駅だったからですね。エンディングのコンテ演出を頼んだ大脊戸(聡)君に、「使える風景があったら使って」といって大量のロケハン写真を渡して、その中からチョイスされたのがあの駅だったということです。あえて説明をつけるなら、ガールズフェスに行った帰りにランウェイの舞菜の姿を反芻しているえりぴよ。そんなイメージかなと思っています。
だから中条駅である理由としては、駅のホームからの景色がいい感じだったというのと、一応本編にもゆかりがある場所だから、ということになりますね。

――なるほど。次の質問です。
「今回のアニメで登場したシーンで「監督が思う”推し場所”(お気に入りの場所)」を教えてくださいますか。」

山本 取材をしていて「西川緑道公園」が一番印象的でした。岡山市を表現する上でここは欠かせないと思いましたね。水路沿いに南北に長く伸びた公園なんですが、味のあるスポットがたくさんあるんです。第5話ラストで眞妃とゆめ莉が握手をする遊歩道、第10話で文がLINEをしている東屋など、いろいろな場面で使わせてもらっています。

――写真もたくさん撮ってきているのでしょうか。

山本 そうですね。コンテマンにもデータを渡して、この辺りをどんどん使って欲しいという話をしました。

――Chamがいつもライブをやっている地下のライブハウスは、本当にあるんですか。

山本 岡山のご当地アイドルさんがライブをやる劇場の入り口が、ああいう形だったんです。地下へ降りていく階段がすごく良くて、第1話の灼熱地獄のシーンにぴったりだと思いました。道路や対面の景色はアレンジしてますが、MKキャンディの外観はほぼそのままのイメージで使わせていただきました。ただし、地下に降りてからのホワイエやステージは東京にある別のライブハウスを元にしています。

――次の質問です。
「質問です。アニメでは最終回の絵コンテは監督が担当する事が多いですが、この作品では一つ前の11話を山本監督が担当していました。これには何か明確な理由があったのでしょうか。また、余裕があれば12話も担当したかったですか。」

山本 第1話は監督がやるのが通例なので、まあ僕がやりますと。その後は第7話と第11話を受け持ったんですが、それは必ずしも重要な話だから選んだわけじゃないんです。今回は優秀なコンテマンが多かったので、「いい話」は任せて大丈夫だろうと。その隙間を僕が埋めるほうがシリーズにとって得だろうという作戦でした。
そういうわけで、最終回は今回の演出陣の中でも最も『エモ』を得意とする(笑)大脊戸聡に任せてしまおうと。同時に最終回間際は現場も疲弊しているだろうから、ラス前の話は省エネな作りにしたほうがいいだろう。それで僕がやることにしたんです。演出なら誰でも「自分の話数を一番にしたい」っていう欲がありますが、僕は監督ですから全体が持ち上がればいい、と割り切れますから。
しかし、だからといって第11話がつまらなくなったかというと全然そんなことはなくて。ファイルーズさんと藤原夏海さんのお芝居のおかげで、えりぴよと美結の掛け合いがすごく楽しいものになりましたし、「宮島をバックに鹿アイドル」なんて絵面もアホっぽくていい(笑)。結果的にはすごく気に入ってるんです。

――では次の質問にいきますね。
「今回のアニメでは随所に皆さんの原作愛を感じつつも、ほどよくエモいオリジナル要素が追加されていました。特に第8話の停電した後に、オタクのライトでアイドルが出口まで誘導されるというオリジナル展開が天才過ぎて気になっています。」

山本 第8話はひとえにシリーズ構成の赤尾(でこ)さんの功績ですね。いつもよりオリジナル要素が多い話数で心配だったんですが、しっかり練り上げてくれました。「さすがシリーズ構成!」と感心しました(笑)。
それ以外だと第10話などがライターのあおしま(たかし)さんの個性が前面に出ていると思います。シリーズ終盤にさしかかって、ますます筆が走っているといいますか。原作を全く変えずに作ることもできたんですけど、せっかくやる気のあるスタッフに恵まれたので、思いついたアイディアはどんどん平尾先生に提案させてもらいました。原作とアニメの距離感として、こういう作りもあると思うんです。

――そのへんがコミックであることと、アニメーションであることの媒体の違いをどう演出できるかっていう、先程おっしゃっていたお話(インタビュー前編参照)につながりますね。

山本 大きな方向性さえ間違っていなければ、スタッフがある程度自由にやっても、そう外れない筈なんです。これが、真逆の方向に突っ走ってる人がいたら注意しますけれど。みんなが向いている方向が同じであれば、個々の独創が悪い結果を産まないんじゃないかなって思っています。

――スタッフの方皆さんがそれぞれのキャラクターをちゃんとわかっているから、ちゃんとファンも納得いく結果になっていると思います。では次の質問です。
「アニメ化するにあたり、ChamJamメンバーカラーの色決めで迷ったりしましたか? 例えばピンクのれおと、サーモンピンクの舞菜とか、同じピンク系でもどのくらいの違いを出すか悩んだりしましたか?」

山本 たしかに、そこはちょっと悩みどころでした。例えばえりぴよの部屋のカーテンやシーツですが、美術の益田(健太)さんに「もっとサーモンピンクにできませんか?」なんていう相談をしました。そもそもスタッフそれぞれがイメージするサーモンピンクが微妙に違っていたようですね。サーモンといえば鮭の切り身が思い浮かびますが、それにしたって生の切り身と炙った後では色が違うし。結果的にはピンクよりもオレンジに近い色に落ち着いたと思います。

――平尾先生もサーモンピンクはなかなか色を出すのが難しいとおっしゃっていました。

山本 特にキンブレの光が難しくて撮影監督の浅村(徹)さんが悩んでいましたね。歌のコールでも「サーモンピンクの舞菜」って出てくるので絶対に外せない部分ですし。サーモンピンクはまだ色があるのでいいんですが、優佳のメンカラーのホワイトがさらに問題でした。元々の白いコスチュームの上に白い飾りを乗せても目立たないし、優佳のロゴもただの白だと味気ないので、結局「白と言えなくもない程度の淡い水色」にしてなんとか成立させるようにしました。
OPの虹もChamのメンカラーで七色にしてるんですが、そのままでは綺麗に見えなかったので、少しずつ色をアレンジしていった記憶があります。

――では次の質問です。
「ダンスシーンを3DCGではなく、手描きにした理由はなんですか?」

山本 最初の段階で手描きと3Dのどちらにするかはちょっと悩みました。エイトビットはどちらにでも対応できる制作スタジオですので。
でもやっぱりChamJamという存在を描くときに、かっちりしたCGは似合わないだろうと思ったんです。多少の崩れや若干のぎこちなさも含めて、温かみだったり味にならないかと考えたんですね。だから「今回はあえて手描きにしたい」と僕のほうから希望しました。
手描きといっても、アニメーターさんがゼロから描いているわけではなく、下敷きにしたダンスの実写ムービーがあります。実際にダンスを収録したムービーを編集して無駄を省き、それをベースに必要なカットだけを作画する方法を選びました。そうしないといつまでたっても完成しない恐れがありましたので(笑)。
その作り方を提案したら、制作現場もキャラソンプロデューサーの横尾(勇亮)さんもすぐに了解してくれました。でも、その時点ではそれがどれだけ大変か、誰もピンときてなかったんじゃないでしょうか(笑)。
最初の「ずっちゃむ(ずっと ChamJam)」の撮影はかなりリッチに、それこそMKキャンディ内装のモデルにもなったライブスタジオを借りて撮影しました。ステージにダンサーさん7人を立たせて客席視点で撮影したり、逆に2階席から俯瞰のロングで撮ったりと、様々なアングルで押さえることができました。
「ずっちゃむ」一曲だけなら良かったんですが(笑)、二曲め、三曲めとなると予算の問題で本格的なスタジオが使えなくなり、鏡張りのレッスン用のスタジオでの撮影になりました。ダンスを一曲目と同じように収録するのは難しかったんですが、カメラ位置を工夫してなんとか乗り切りました。
実写ムービーが完成した後の作画も、結局ダンスシーンが一番最後まで残っていましたしね。第1話は他のシーンはとっくに完成してるのに、ダンス作画だけが埋まらないという状態が長く続きました。途中で「やっぱり3Dにすればよかった」と後悔したスタッフもいたと思いますよ。「今時ライブシーンなんて3Dが主流なのに、なんで作画にしたんだ」って現場の子たちはみんな思っていたんじゃないかな(笑)。
ただ、いざ放映してみたら手描きというのが予想以上に好意的に受け入れられて。それは本当に嬉しい誤算で、スタッフの苦労も報われたわけなんですが、逆に後に引けなくなったというか(笑)。以降のライブもいい加減なものにできない、手描きゆえの動画崩れも極力修正しなくてはと、ますます手を抜けない状況に陥ったんです(笑)。

――全曲に振り付けはあるんですか。

山本 もちろんです。作品において最も重要なダンスを、アニメーターさんに「おまかせ」するなんて無責任なことできませんよ(笑)。劇中でダンスシーンがしっかり描かれている曲に関しては全部振り付けがあります。

――できればそれが見てみたいです。よくアイドルCDの特典であるじゃないですか。

山本 劇中ではオタクのカットが挟まっていますからね。でも、ちゃんと通して振り付けは作ってもらっています。

――いずれダンスが分かる映像が何かしらの形で世に出ることを待っています。

山本 さっきも言ったように必要なところしか作画していませんので、やるなら追加作画が必要になります。‥‥‥想像するだけで大変だなあ(笑)。ちゃんと予算が出てエイトビットのスタッフが頑張れば実現します(笑)。

――では次の質問です。
「ストーリーにしっとりとした味付けをした理由は?」

山本 それはつまり『エモい』(笑)ってことでしょうか?  そんなに特別にしっとりさせたつもりはないんですが、原作にある状況を丁寧に描いて、編集でしっかり「間」をとり、日向(萌)さんの音楽をのせていったら自然にそうなったんだと思います。寺田プロデューサーからの要望もありましたしね。やるからには『エモく』しようと。

――毎話コミカルなシーンもあるのですが、最後が綺麗にしっとりと終わっていたっていう印象があります。あれは意図されていたんですか。

山本 それも特に狙ったつもりはなかったんですが、あのエンディングになだれ込むなら、しっとり系で終わったほうがスムーズですよね。例外的に第10話なんかは喀血で終わりますが(笑)、それはそれでアクセントになって面白かったと思います。

――では次の質問になります。
「元々漫画も読んでいましたが、アニメで沼に落ちて漫画を買いました。愛がある作品にしていただき、感謝です。メイちゃんが原作より嫌な感じで描かれていたのはなぜですか?」

山本 「嫌な感じ」と言われると残念ですね。メイの解釈をああいう風にした理由としては、ただの鹿の格好してるおバカなアイドルにしたくなかったのがまずひとつ。
もうひとつは、最終回にああいうキャラが一人登場することが、作品にとっていいスパイスになると考えたんです。れおやChamの奮起にもつながっていくし、他に似たキャラがいないのでメイにとっても得なんじゃないかと。それで原作サイドにもお断りをいれてあの方向でやらせてもらったんです。
そもそもメイが嫌な性格かというと、僕はそうじゃないと思っているんです。彼女がれおにあんな風に接するのは、れおのことをライバルだと認めているからだと思うんですよ。つまり、あの態度はむしろれおを評価してるからじゃないかと。
仮に続編があれば、メイは一番掘り下げていきたいキャラクターです。決してアニメスタッフが彼女を嫌っていてああいう描き方をしたんじゃなく、むしろ思い入れがあるからこそ、あのポジションにしてるんだと捉えてもらえれば。そういうディレクションを踏まえた上で、メイ役の久保ユリカさんもすごくノッて演じてくれたと思います。

寺田 最終話のアフレコのとき、平尾先生が「芝居をもっと圧のある感じにしたい」というようなことをおっしゃっていました。メイは、逆に言えば一番プロだと言えるとも思うので、そこは魅力であって嫌な部分だとは思わないですね。

山本 そう、メイに比べるとChamにはまだ甘えてる部分が多いというか。あの場にプロがひとりいたら、ああいう温度感になるんじゃないかと思ったんです。その対比を描いて成長につなげていくことはChamにとっても物語にとっても悪いことではないんじゃないでしょうか。
Chamも本気で武道館に行く気があるなら、どこかで本物のプロになっていかないといけない。今のオタクたちとの距離感を保ちつつっていうのは難しいでしょうけど。
だから、僕はメイを嫌なキャラっていう風にはまったく思ってなくて、むしろすごく魅力的なライバルにしたかったというのが本音のところなんですよ。

――確かにプロの洗礼みたいなものをChamに浴びせて、そこでChamが1段階上がりますよね。

山本 あそこでれおの心が一度折れるっていうのは、展開としてめちゃくちゃドラマチックじゃないですか。最終回のステージに登る前の試練として、最高のシチュエーションになったと思います。とにかくれおがいじらしくて、他のみんなも奮起してましたし、運営スタッフもほだされてましたし(笑)。

――Chamの裏方スタッフもみんな感情移入しちゃって。

山本 三崎さんがハンカチを目に当ててるとか、社長がちょっとやる気出すとか(笑)。やっぱりああいうノリは、ベタと言えばベタですが王道ですよね。

――Chamにとっても必要な出来事だったんですね。

山本 それで思い出しましたが、最終回のメイの登場シーンだけ、他では使わなかった撮影処理が使われています。『推し武道』は柔らかい色使いを基調としているので、黒ベタとか黒い影は基本的に避けていたんですが、あのシーンだけはあえて画面に黒いシャドウを乗せてもらってます。いつもと違う緊張感をもたせようという演出です。ぜひ映像を見直して確認していただきたいです。

――では最後の質問いきますね。
「ゆめり推しなのでアニメでゆめりの出番が増えていてうれしかったです」

山本 そんなに増えていましたかね?(笑) ゆめ莉に限らず、みんなにちゃんと見せ場を用意するように気をつけてはいました。でも、最終回だけはちょっとゆめ莉と眞妃の見せ場が少なかったなって反省しています。優佳と文はれおを励ましたりするんですけど、ゆめ莉と眞妃にも何か言わせたかったなと。

寺田 あのシーン、初期からいたChamのメンバーは特に何も言わなくて、後から入ったメンバーがれおに声を掛けている、っていうのがいいと思うんですよ。

山本 言われてみたら確かにそうですね。

寺田 先に入った3人、空音、眞妃、ゆめ莉の気持ちは、言わなくても伝わっているというか。反対に、後からグループに入ってきた3人にああいうことを言ってもらえるというのは、先輩としてすごく幸せだろうなと思って見ていました。

山本 なるほど、そういう解釈もできますね。僕から赤尾さんにお願いしたのは最後に舞菜にも何か言わせてくださいっていうことでした。それが「1%を100%にしよう」っていうセリフですね。何かそういう舞菜なりのロジックを持たせて彼女にも自覚が芽生えてるんだという風にしたかったんです。

――監督は誰推しなのでしょうか。

山本 それ、よく聞かれるんですが、誰か一人に決めるのは難しいんです。最初は空音が好きだったんですが、第6話あたりをピークに空音の存在が少し奥に下がっていくんですよね。反対に優佳がどんどん前に出てくる。その辺はもしかしたら、人気投票後のステージにおける立ち位置の変化にシンクロしてるのかもしれません。優佳は最初はちょっと苦手だったんですが、話が進むとどんどん可愛く見えてきました。
そんな具合に推しって言われてもその時々で違うんですが、最終回まで見ちゃうと、やっぱりリーダーのれおかなって思います。ただ、最初から最後まで舞菜の存在は大きかったです。舞菜はやっぱり外せないですね。

――Twitterの質問は以上です。最後に、ファンに向けてのメッセージをお願いします。

山本 放映が始まると同時に、予想以上の反響・感触のよい意見をたくさんいただきましたので、まずはそれに対するお礼を言いたいです。
皆さんの感想は確実に他のスタッフにも伝わっていて、それによって皆もますます張り切って作ることができました。ファンにもスタッフにも愛されてる幸せな作品だったと思いますし、そんなシリーズに監督として関われたのは幸運でした。
現場からのいろんなわがままを許していただいた、原作の平尾先生に感謝。えりぴよを生んだ両親にも感謝! あ、違うな(笑)。本当にたくさんの人たちに感謝しながら、誰もが納得できる最終回にたどりつけて良かったなと思います。

(C)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会