1/13新疆ウイグル自治区のホータンにあるバザール(市場)。奇妙なほど人影が少ない、ある日の午後の様子。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 2/13バザールに入る前に、IDチェックと身体検査を受けるために並ぶウイグル族のイスラム教徒たち。ホータンにて撮影。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 3/13この4年で、こうした検問所は新疆ウイグル自治区のいたるところで見られるようになった。ホータンで撮影。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 4/13中国の国旗だらけの商店街を歩くウイグル族の男性たち。キルギスとの国境付近に位置するカシュガルのエイティガールモスク付近で撮影。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 5/13標準中国語(普通話)の屋外授業に出席するウイグル族の住民たち。カシュガルで撮影。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 6/13仕事に向かう途中のウイグル族の若者ふたり。カシュガルで撮影。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 7/13コルラからクチャ県へと向かう列車に乗っている少女たち。中国政府がウイグル族への弾圧を強化したことから、伝統的なヘッドスカーフを巻くイスラム教徒の女性はほとんどいない。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 8/13古びた街の一角にある廃墟でポーズをとるウイグル族の少女。ホータンにあるユルンカシュ川(白玉河)の近くで撮影。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 9/13ピチャン県のクムタグ砂漠を訪れる観光客との写真撮影のために、派手な民族衣装でドレスアップするウイグル族の女性たち。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 10/13クムタグ砂漠で砂丘の写真を撮る観光客たち。この景勝地の主なターゲットは漢民族の観光客だ。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 11/13クムタグ砂漠の一角に展示されているエンジン付きのミニチュアタンク。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 12/13トルファンにあるこの墓地は、周囲を新興住宅地に取り囲まれている。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK 13/13カシュガルの人民広場にそびえ立つ毛沢東の巨大な像。PHOTOGRAPH BY PATRICK WACK

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、中国の西の外れに位置する新疆ウイグル自治区もほかの地域と同じように、ほぼ全面的なロックダウン(都市封鎖)を数カ月前から続けてきた。その態勢も、いまは徐々に解除されつつある。

「新疆ウイグル自治区の文化は“消毒”され、“ディズニー化”している:ある写真家が捉えた抑圧の現場」の写真・リンク付きの記事はこちら

一方で中国政府は過去6年にわたり、新疆ウイグル自治区に広がる別の“ウイルス”(であると政府はみなしている)の蔓延を食い止めることに力を注いできた。そのウイルスとは、イスラム急進主義である。

2019年に『ニューヨーク・タイムズ』にリークされた機密文書には、「宗教に基づく過激思想に感染している者たちには、学習させる必要がある」と書かれている。「人々の思考のなかにあるこのウイルスが根絶され、健全さを取り戻して初めて、自由は実現するのだ」

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まるで戒厳令のような現状

新疆ウイグル自治区で暮らす2,500万人のおよそ半分が、イスラム少数民族に属している。これら少数民族のなかで最大のグループは、ウイグル族だ。イスラム教徒は長きにわたり、中国政府による差別を受けてきた。

そして14年、習近平国家首席の来訪と時を同じくして民族紛争が発生すると、その抑圧的な政策は急進的な広がりを見せた。新疆ウイグル自治区の中国共産党関係者らは習首席の指示に従い、推定100万人とされるイスラム教徒の男性たちを何カ月、あるいは何年も収容する“洗脳キャンプ”を急ピッチで建設したのだ。

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フランス人写真家のパトリック・ワックが新疆ウイグル自治区を初めて訪れたのは、16年から17年にかけてだった。そのときの目的は、米国の風景写真文化にインスパイアされたシリーズを撮影することだった。しかし、ワックは19年、地元民に対する弾圧の影響を記録すべく、現地を再び訪れた。

「現在の新疆ウイグル自治区には、警察や軍の検問所がいたるところにあります」と、ワックは語る。「まるで戒厳令が敷かれているかのようです」

変わり果てた街の姿

伝統的なウイグル文化を示すさまざまなものが、いまやほとんど消えてしまっていることに彼は気づいた。「女性たちはスカーフを巻いていません。イスラム教や少しでも中東のように見えるシンボルは、どれも撤去されています。そこはまるで別の場所でした」

ワックがいちばん驚いたのは、20〜60歳の男性が明らかに街からいなくなっていることだった。彼らの多くは、まとめて洗脳キャンプに入れられてしまっているようだった。

チベットとは異なり(チベット自治区を訪れるには特別な許可が必要である)、新疆ウイグル自治区はいまでも訪問者を自由に受け入れている。だが、そのなかのいくつかの都市では、ワックは私服警官に尾行され、一部の検問所では撮った写真を見せるように命じられたこともあった。ときには写真の削除を命じられたこともあったが、幸いにも彼はこれらのファイルのコピーをふたつもっていた。

地元民からキャンプの話を聞くのは不可能だった。「話しかけることもほとんどできません。そんなことをすれば、人々を危険に晒してしまうからです」と、ワックは語る。「政治的なことを口にしようものなら、すぐに話を切り上げてしまいます」

ワックが洗脳キャンプを訪れることなど許されるはずもなかった。そこで彼は、新疆ウイグル自治区の変わり果てた姿を記録することで、その様子を示唆することしかできなかった。

“ディズニー化”された土地

中国共産党は長年にわたり、ウイグル族のアイデンティティを示すものを取り除き、新疆ウイグル自治区をもっと「中国」に見えるようにつくり変えようとしてきた。政府は「一帯一路」の一環として、自治区を走る高速鉄道や高速道路などの大型インフラプロジェクトに取り組んでいる。また、自治区内で暮らすウイグル族の割合を減らすため、中国の主要民族である漢民族に対して、新疆ウイグル自治区への移住を促してもいる。

「新疆ウイグル自治区の人々は“中国人”のような服を着るようになり、“中国人”のように見えるようになりました」と、ワックは語る。「それぞれの都市は、完全な中国の都市へと変わりつつあります。各都市の伝統的な部分は破壊されています。たとえ残されたとしても、遊園地につくり変えられているのです」

事実、新疆ウイグル自治区は漢民族が訪れる観光地として人気を高めている。観光客の目当ては、そこにある砂漠の風景や、かつてシルクロードの一角を占めていたというロマンティックな歴史だ。クムタグ砂漠などの景勝地を訪れる観光客が目にするのは、ウイグル族の「消毒された」文化と歴史である。

「中国人の友達と話していると、『そう言えば、うちの両親が去年初めて新疆に行ったんだ』と言う人もちらほらいます」と、ワックは語る。「そうした人たちが体験できるのは、“ディズニー化”された新疆です。支配体制がその文化を滅ぼそうとしている一方で、新疆のエキゾチック化が進んでいるのです」

悲しいことに、中国共産党が現状を続ける限り、そこに残るのはこの「ディズニー化された新疆」だけなのかもしれない。

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