バターの原料となる生クリームを容器に移し替える那須りんどう湖レイクビューの職員。気温が上がる5月は例年バターを製造しないが、今年は売れ行きが良く、週2回製造する(栃木県那須町で)

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 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う“巣ごもり需要”で家庭でクッキーやパンを作る人が増え、原料となるバターなどの乳製品の需要が伸びている。緊急事態宣言に伴い事業縮小を迫られた観光牧場では、観光牧場での入園料収入が見込めない中、バターを作り続ける。メーカーなども生産を急ぐが、追いついていない状況だ。
 

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 栃木県那須町の東北道那須高原サービスエリア(SA)では、同町の観光牧場、那須りんどう湖レイクビューが手掛けるバターが人気を集める。ジャージー牛から作るバターはこくがありまろやかな味わいが特徴で、1個(100グラム)1000円以上と一般的な商品より高め。通常は1カ月約20個売れるところ、今年は3、4月で100個以上売れた。同SAに立ち寄った会社員の女性(30)は「地元スーパーが品切れで困っていた」と手に取った。一般道から立ち入れる同SAには、近隣住民も買いに訪れるという。

 同牧場はジャージー牛40頭を飼い、牛乳の他、バター、ヨーグルト、アイスクリームと乳製品加工を手掛ける。バター需要の高まりは予想外で、通販サイトには全国から注文が舞い込み、製造が追い付かない。

 バターは例年なら、冬場に6000個、1年分をまとめて作る。今年は4、5月の2週間で、4500個を販売。現在、工場内の冷房を強くし、フル稼働で製造する。佐藤知治取締役は「創業から55年、こんなに売れるのは初めて。今では看板商品」と驚く。

 新型コロナウイルスの影響で、経営は厳しい。年間4万人以上訪れる同牧場は、今年の大型連休は休業し、現在は県民だけに牧場内の公園を開放する。4、5月の売り上げは前年に比べて90%以上落ち込んだ。牛乳や乳製品加工品は、これまで牧場内や近隣ホテルで販売していたが、県酪農業協同組合へ出荷したり、宅配したりと新たな販路を開拓してしのいでいる。

 乳製品製造担当の菊野泰佳マネージャーは「バターに少しでも可能性を見いだして、作り続けていく。ジャージー牛の乳製品のおいしさが広がり、通常営業したときに、来てもらえるきっかけになればありがたい」と力を込める。

生産追い付かず


 製菓製パン材料専門店の富澤商店(東京都)は、インターネット通販でのバターなど乳製品の売り上げが急伸。4月は前年比2・3倍の約5万3600個を売り上げた。同店の担当者は「バターやホイップクリームの乳製品の他、自宅でパンを作る人が増えた。小麦粉も4月だけで前年の2・5倍増の13万4700個と売れ行きも伸びた」と説明する。

 Jミルクによると、家庭用バターの販売は4月から5月の上旬にかけて、前年比160%前後の伸びで推移する。テレビ番組でバターの健康効果が取り上げられたことや、コロナ禍で家庭で過ごす人が多く、菓子などの手作り需要が高まっていることが原因とみられる。

 一方、バター全体の8割弱を占める業務用は、外食の休業や土産物需要の低迷を受け、大きく需要が落ち込んでいる。

 乳業メーカーでは、業務用バターに使うはずだった生乳や、学校給食向け生乳の一部を受け入れて家庭用バターの増産に努めているが、家庭用の小容量の製造能力は大容量の業務用よりも下がるため、日量での生産量には大きな差が生じる。

 メーカーは現在、乳製品工場をフル稼働して対応するが、需要の急激な伸びに生産が追い付いていない状況が続く。