窮地のゲーセンが3700万の支援獲得できた理由
コロナ禍で売り上げが50〜70%減った「ゲーセンミカド」が4月10日〜5月10日、クラウドファンディングで3732万8892円の資金を集めた(写真:CAMPFIREより)
コロナ禍でさまざまな産業やサービスが窮地に立たされています。「Stay Home」によって需要が増えた企業やサービス以外は軒並み厳しい状況になっていると言えるでしょう。
その中でもエンターテインメント事業はかなり苦境に立たされています。プロスポーツは大会の開催を見合わせ、開催できたとしても無観客試合で対応を迫られています。テレビも撮影自体が密になりやすいため、ドラマもバラエティーも収録が滞っています。アニメもアフレコを中心に制作できない状況にあり、多くの作品が放送の延期を余儀なくされています。
ゲーセンミカドが取った支援策とは
そんな中、劇作家・演出家の野田秀樹氏や平田オリザ氏、山田由梨氏など舞台演劇の関係者がSNSなどで窮状を訴え、演劇界が特別であると捉えられる書き方が批判を受けるという事態もありました。
ただ、多少の誤解があったとしても、結局は国への援助を求めるという根幹は変わっておらず、すべての産業が一律に国から支援されない限り、なぜその業界だけ、という意見は出るのではないでしょうか。
エンターテインメント事業は、ファンビジネスです。ファンあっての存在であり、ファンによって支えられています。ファンにとっても、劇団にせよ、楽団にせよ、応援している団体が窮地に立たされて解散したり、やめたりしてしまうことは望んでいないわけです。
ファン界隈では「お布施」という言葉がありますが、存続してもらうためにお金を払う行為が存在しています。なので、劇団関係者は国への支援を求める前に、もしくは国に支援を求めると同時にファンへの支援を訴えたらよかったのかもしれません。
ここにその一例があります。高田馬場と池袋にあるゲームセンター「ゲーセンミカド」です。このゲームセンターは1980〜1990年代のレトロゲームをプレイできるゲームセンターとして、多くのファンに愛されています。
小規模な店舗大会を頻繁に行い、動画も数多く配信しており、ファンサービスが手厚いゲームセンターとしても知られています。ゲームセンター冬の時代と揶揄される現在でもその人気の高さを誇っている希有な存在です。
そのミカドもコロナ禍により休業せざるをえなくなりました。ゲームセンターは周知のとおり、店舗に来てゲームをプレイしてもらわないと売り上げが成り立ちません。その点では演劇と同じライブエンターテインメントと言えるかもしれません。
コロナ禍が落ち着いた後にフル回転で営業したとしても、ゲーム機の台数も店舗の収容人数も変わらないので、大きく取り返すことはできません。そもそもゲームセンターは風俗営業法の下で営業しているので、通常営業以上に営業時間を延ばすこともできず、後から巻き返しがしにくい業態です。
クラウドファンディングは支援したい気持ちの表れ
そこで、ミカドはクラウドファンディングでファンに支援を求めました。目標額の2000万円は早々にクリアし、最終的には3700万円を超える資金を集めました。非常事態宣言の延長により休業日数が増えても問題ない程度の額となったわけです。
支援する見返りとしてゲームプレイ券などもあり、コロナ禍終息後の売り上げの先取りの部分もありますが、ファンにとってはちょっとお得なゲームプレイ券を手に入れたと考えるより、ミカドを助けたいという気持ちが大きかったのではないでしょうか。
おそらく、チケットを使える状態になってもあえて使わずその場でプレイ料金を払う人や、遠方在住でミカドに行く機会があるかどうかわからなくても支援した人もいると思われます。
さらに休業してからは毎日のように店舗から動画配信をしています。動画配信では視聴者が投げ銭として配信者に支援できるシステム「スーパーチャット」があり、そこでもミカドを潰したくない、存続してほしいという多くのファンから支援されています。
「演劇も動画で配信すればいいのでは?」というSNSでの意見に対して、演劇はライブで観てこそだと動画配信を否定する意見もみられました。
しかし、それはある種の思考停止で、劇場で演じる演目をそのまま動画で配信し、入場料を取るという考えにしか至らなかったからではないでしょうか。ゲームセンターは自分がその場に行き、好きなゲームにお金を入れてプレイすることが目的です。したがって、動画配信はその目的だけを考えるとまったく意味がないと言えます。
しかし、ミカドならではの懐かしいレトロゲームのプレイ動画や名物店長やスタッフの掛け合い、有名プレイヤーによる超絶プレイ動画など、さまざまな手段を用いてファンを楽しませています。ファンはその動画が面白いかどうかより、動画を再生することで店側が広告収入を得られるのであれば、観て支援したいと考えるわけです。
つまり演劇も本番だけでなく、役者や演出家の会話であったり、練習風景であったり、オフショット的なものを配信すれば、ファンは支援したくなるのではないでしょうか。平田オリザ氏も「演劇は、稽古もしなければならないので、再開が相当遅れます」と言っていますが、その稽古すらファンを楽しませるコンテンツとして考えることもできるはずです。
ファンビジネスの今後のあり方
クラウドファンディングにしてもコロナ禍終息後の演目の入場料の先取りだけでなく、演目後にアフターパーティーをとり行い、スタッフやキャストと一緒に集える場を作るなど、さまざまな手段でファンにアピールすることはできるのではないでしょうか。
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コンテンツの代価として入場料を払う人は多くいますが、ファンともなれば、コンテンツ以上に存続してほしいという側面があり、そこに支援をしてくれるわけです。毎日ラーメンは食べられないのでお気に入りのラーメン屋に月1回しか行かないけど、ラーメン屋が潰れないように毎日食べるぐらいのお金を支援したい、という人がいるということです。
先の演劇界の巨匠たちの発言が演劇界全体の意見として取り上げられていますが、演劇界の中にも動画配信をしたり、クラウドファンディングを活用している人たちもいます。巨匠たちの発言は、そういった行動をする演劇界の人たちを否定することにもなりかねません。
今、コロナ禍でどの産業も厳しい状況に立たされている中、ファンビジネスはファンから支援してもらえる可能性がある分、ほかの産業よりも恵まれているともいえます。国に新たな負担を強いるのであれば、ファンに支援してもらえるようなことを率先して行い、国に頼らずに資金援助を受ける方法を考えるほうが建設的ではないでしょうか。