収束の気配すら見えない新型コロナウイルスの感染拡大で、戦後最大の危機に陥った日本経済。これを受けて、東京オリンピック開催に合わせた明治神宮外苑の再開発にも大きな影響が出ている。新神宮球場の完成は、当初予定の2027年から’31年に下方修正され、五輪が再延期や中止になれば「計画見直し」も取り沙汰されているのだ――。

 新球場が完成するのは、最短でも10年先だ。気の長い話だが、最悪なのが、さらに1年延期して結局中止というパターンである。東京五輪が消滅すれば、国や都は明治神宮外苑再開発の予算執行を取りやめ、コロナ対策に投入することが予想されるからだ。

「そうなれば、神宮球場建設の見直しは避けられず、ヤクルトのチーム戦略が根本から崩れます。経済の冷え込みは東日本大震災の発生時をはるかにしのぎ、このままでは多くの球団が事業の継続が難しくなるからです。実際に、球場の売店やレストランでは経営難から倒産が始まっており、経費節減のため、スワローズも年間10億円を支払っている神宮球場を離れ、使用料の安い地方に移転するプランが検討されています」(ヤクルトOBの野球解説者)

 自前球場を持たないヤクルトは、チケット代やスポンサーからの広告費などの“現金商売”への依存度が高い。そのため、開幕延期の影響は甚大だ。

 某テレビ局の担当スタッフが、天を仰いで話す。

「今季、ヤクルトの所属選手の総年俸は約32億円(推定)。もし、このまま開幕できなかったり、無観客試合でシーズンを終了した場合でも、全選手に全額支払う必要があります。これに首脳陣や球団職員の給料、球場使用料も含めれば、固定費だけで40億円を優に超す。空前の赤字が球団経営に重くのしかかるでしょう」

 某在京セ球団の職員が続ける。

「日本野球機構(NPB)はセ・パ交流戦を中止して、100試合程度を無観客試合で実施することを検討していますが、自殺行為です。売店の飲食やグッズの売り上げがゼロですからね。おまけに、プロ野球の移動は大所帯で、交通費や宿泊費もかさみます。スタッフは、さらに感染の不安を抱え、心が折れそうな状況での勤務を強いられるのです。実施するのも地獄、中止するのも地獄…」

 そこでヤクルトが一発逆転を目論むのが、「本拠地移転」というウルトラCだ。既に候補地は静岡市と新潟市に絞られているという。

「これまでは、新潟市(人口約80万人)のハードオフエコスタジアム(エコスタ)が有力でしたが、独立リーグの『新潟アルビレックスBC』がプロ野球の新規加入を目指していて、ヤクルトの本拠地移転の障害になっています。一方、静岡市(同70万人)は市を挙げて草薙球場の誘致に乗り出しており、こちらは球場使用料も年間5000万円程度で済みます。仮に、10年のサイクルで考えてみると、約95億円の球場使用料が節約でき、今年の赤字がゆうゆう回収できる計算になるのです。浜松市(80万人)も準本拠地にすれば、十分に経営が成り立ちます。静岡・裾野市にはヤクルトの本社工場もあるし、本社サイドも乗り気です」(静岡のテレビ局局員)

 その旗振り役を務めているのが、ヤクルトOBで元監督の古田敦也氏だ。

 古田氏はこれまで、ソフトバンクの王貞治球団会長らと連携して「16球団へのエクスパンション(球団拡張)」計画を進めていたが、思いもしなかった新型コロナウイルスの世界的爆発により、これが頓挫。その収拾策として、「ヤクルトの静岡移転」が急浮上したのだ。

 実際、古田氏は、球界参入の希望を持つ静岡市、新潟市、愛媛県の松山市、沖縄県の4自治体の相談役となり、2015年に協議会を設立。16球団移行への準備を進めてきた。

 その準備が整ったことで、王会長が今年1月、「あと4球団ほしい」とぶち上げたのだが、その直後に超ド級の疫病の猛威にさらされた。既存の12球団も青息吐息となり、計画そのものが吹き飛んでしまった。