「エール」33話 「プリンスの正体がわかりました!」と驚く近江アナに「知ってたでしょ」と冷静な華丸

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第7週「夢の新婚生活」33回〈5月13日 (水) 放送 脚本・清水友佳子 演出・橋爪紳一朗〉



木枯の曲が採用された

コロンブスレコードと契約して半年、いっこうに曲が採用にならない裕一は同期の木枯と慰め合っていたが、いつの間にか木枯は曲が採用になってレコーディングしていた。
とはいえ、木枯の曲「影を慕ひて」は地味だといわれB面採用で、「うまくいかないよ」と肩を落とす。

その夜、裕一は木枯に誘われてカフェー・パピヨンに行く。
木枯は大衆の生々しい欲望が渦巻く場所で実感した曲を描いていたのだ。
彼のギターの弾き語り「影を慕ひて」はカフェーの女給や客の心に染みていく。

朝ドラでは、「いちばん星」(77年)で、この曲を歌ってヒットさせる歌手・佐藤千夜子の物語を作っているので、それを知っている人には時代がつながったように思うかもしれない。佐藤千夜子は「エール」に出てくるだろうか。


現代の大衆作家・野田洋次郎の歌は元祖のじわじわ想いがこもった歌い方とはだいぶ違ってさらっとしていたが、これが令和流なのだろう。歌い継がれていくことに意義がある。でもこの曲を実際に知っている人はこの世にもうあまり残っていないんだろうなあ。

つい木枯に注目してしまうが、裕一が木枯の曲が採用になったことを聞かされていなかったことに対して、いささかショックながら「よかったね。先越されちゃったなあ〜」と無理して言うところが性格の良さだなあと思う。

納豆はいいにおい♪

カフェーから帰って来た裕一の様子がおかしいことに音は気づく。
ここからはコント仕立て。
匂いを指摘されると、香辛料の匂いだとごまかすが、上着を脱いだら、ワイシャツに口紅がついていて、音が激怒。
木枯のやり方を真似する必要ないとか「あんたに布団はないわ」とかめっちゃこわい。

朝になっても音の機嫌が直らず、朝ごはんがちょっぴり。
裕一はこれまで我慢してきた納豆を買って来て、「いいにおい。納豆はいいにおい」と嬉しそうに食べる。
そのにおいが苦手な音は食卓から離れ、台所でご飯を食べる。

裕一が納豆を持って浮かれて踊る姿が面白い。メロディも浮かんだようだから、この調子で大衆の気持ちも歌にしてほしい。でもモデルの古関裕而はこういう家庭的な曲は書いてないんじゃないだろうか。


八丁味噌攻撃

夫婦喧嘩をすると家にいるのは気まずい。そんなとき、近所の喫茶店バンブーがある。
裕一がコーヒーを飲みながら、マスター夫婦に愚痴る。
ここでもひとコント。
八丁味噌攻撃がつらいと裕一がぼやくと、恵(仲里依紗)が、みそまんじゅうを持って網走の刑務所に差し入れに行った思い出を語り、保(野間口徹)が「あばあば…」「はじめて聞いた」とぼそり。

32回では、ライバルのいる恋のすばらしさをうっとり語っていた恵。どうやら、多くのドラマチックな恋を経験していまに至るようである。妄想の可能性もあるが。
あとで「網走は寒いの?」と聞くところもさすが野間口。何も知らない男の悲哀がじわじわ。

謎の男、プリンスの正体は

音が激しく機嫌が悪いのは、裕一のことだけが原因ではないのかもしれない。音楽学校で千鶴子に圧倒的な実力の差を見せつけられたことが意外と気にかかっているようで。

ひとりレッスンしているとき、プリンス(山崎育三郎)が現れ、また助言をしてくれる。
音は、プリンスが「謎の男」だったことに気づく。いまさら気づいたのか!

「ためいきなんて似合わないな」というセリフが、「キャンディキャンディ」の丘の上の王子様のようだ。こういうのが似合うなあ、さすがミュージカル界の王子。

音とプリンスは、喫茶バンブーで語り合う。
保と恵は二人の仲を疑い、アテレコごっこをする。この遠くからふたりの会話を勝手に創作するのは、前作「スカーレット」で主演した戸田恵梨香の主演作「大恋愛〜君が僕を忘れても」(TBS/脚本:大石静)でやってウケていた。

戸田恵梨香の相手役を演じたムロツヨシが朝のインスタライブで、朝ドラについて時々語っているが、今朝は「大恋愛」の話も「エール」の話もしていたが、このアテレコごっこについては触れていなかった。


プリンスは、突然現れたり消えたりする佐藤久志だった

保と恵は勝手に音とプリンスの仲を想像して心配していたが、プリンスは他人と比較して悩む音に「自分だけのサムシングを見つければいいじゃないかな」と助言していた。

そこへ、裕一が帽子を忘れたと取りに戻って来て…… ということは、朝、音が学校に行って、裕一は出社前に喫茶店に寄ったということか。べつに家のなかにいるのが気まずかったわけではなかったようだ。でも、帽子を取りに来るまでの時間ってどうなっているんだろう。そんなことはともかく、プリンスは裕一のことをすぐ、あの裕一と気づく。

プリンスは、突然現れたり消えたりする佐藤久志だったのだ。
ふたりの出逢いが、これからの裕一の運命を動かしていくらしい。そこは素直に楽しみ。鉄男と三人「福島の3羽カラス」として活躍とガイド本などには紹介されているので早く揃ってほしい。

「あさイチ」で近江アナが「プリンスの正体がわかりました!」と反応していたが、この間、山崎育三郎が出たとき「プリンス久志」って山崎本人が紹介していたことをなかったことにしていた。いま、そういうなかったことはやばいと思うが、華丸がちゃんと「……知ってたでしょ」と言ってくれたので、近江のボケ、華丸のツッコミという合わせ技として成立していたのでOK。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和