新型コロナウイルスが、世界を変えようとしている。コロナ禍の真っ只中ではあるが「アフターコロナ」という言葉が盛んに使われているように、コロナ以前とコロナ以降とで、価値観に対する大きな変化を感じている人も多いのではないだろうか。


新型コロナウイルス感染の収束が進んだ韓国で行なわれた、サッカーの無観客試合の様子

 スポーツ界も例外ではない。今までのように「大人数がスタジアムに集まり、声をからして応援する」という当たり前の光景を取り戻すには、それなりの時間が必要だろう。ハーバード大学の研究では、完全な終息に向かうのは2022年という発表もある。ビフォーコロナの日常を取り戻すことは当分先になりそうだ。

 ひとつ言えるのは「変化しなければいけない」ということ。ビフォーコロナの常識が、アフターコロナの非常識になるケースも出てくるだろう。ビフォーコロナでは愛情表現だった握手やハグも、アフターコロナでは濃厚接触に変わる。

 サッカー界も変化に迫られている。かつて日本サッカー協会でマーケティングを担当し、楽天を経て、Sportinnova社の代表取締役を務める林鉄朗氏は言う。

「東京五輪後に来ると予測していたスポーツビジネスの変化が、コロナの影響で一足先に訪れようとしています。スポンサーシップを例に取ると、投資する意義が曖昧な協賛案件、目的が定かでないアクティベーション施策の見直しへスポンサー企業が動き出しています。経営環境の不透明さが増し、ステークホルダーから『なぜ、今スポーツが必要なのか?』という説明責任が求められているからです。

 その結果、変化に適応できないライツホルダーの淘汰が進む可能性があります。しかし、捉え方を変えれば、アフターコロナの社会システムを予見し、そのなかでスポーツが担う機能、果たすべき役割を見出すことで、スポンサーシップの新たな枠組みやルールを構築する機会とも言えます」

 林氏の見解に同意を示すのが、スカイライトコンサルティング社の戸田哲氏だ。同社は東京ヴェルディの経営サポートを始め、元ブラジル代表のエジミウソンとともにサンパウロに育成主体のクラブを設立するなど、国内外でサッカービジネスを展開する。

「サッカーに関するお金の流れは、より放映権にシフトしていくと思います。スタジアムに集まって応援するという行為ができない、もしくは健康上のリスクから行きたくない人が増えると、入場料収入やスタジアムでのマーチャンダイジングは縮小せざるを得ません」

 さらに、こうつづける。

「テレビ局や衛星放送、有料チャンネルのような、旧来のメディアに放映権が流れていくというよりは、オンラインのメディアを中心にお金の流れが増えていくでしょう。この数カ月の自宅待機を通じて、オンラインを通じて多人数とコミュニケーションをとることに世界中の人が慣れてきています。同じテーマでオンライン空間に集合して、共有することの顧客体験としてのベースができ始めています」

 たしかに、オンライン飲み会が一般的になり、パソコンやスマートフォンを通じて、動画でコミュニケーションをとることは、ウィズコロナの世界では常識になっている。それは、オンラインミーティングソフト『Zoom』の利用者が、ビフォーコロナと比べて、1日あたり1千万人から3億人に増えるなど、急激な伸びを見せていることからもわかる。

「リビングルームでひとりでテレビを見るのではなく、オンラインのスポーツ中継の場にみんなで集まって、『Zoom飲み会』のように、スポーツを視聴する体験が増えていくかもしれません。それを後押しするのが5Gです。大容量、高速通信の実現によって、コロナ以前であれば現地で見たいと思っていた人も、アフターコロナでは、バーチャルで見るのもありかもね、となっていく。その芽吹きはありますよね」(戸田氏)

 すでに、5Gでスポーツ中継が行なわれている団体もある。5月5日に開幕した韓国のプロ野球は無観客で開幕戦が行われたが、5G技術を活用した放送や、スタジアム内のスコアボードにファンが応援する動画を投影したと報じられている。NBAでは、2019年7月、八村塁が所属するワシントン・ウィザーズとアトランタ・ホークスの試合で、5Gを使ったスマートフォンで試合が中継された。通常のテレビカメラとは違ったデバイスで撮影することで、コートサイドにいるかのような臨場感を味わうことができた。

 さらにオーストラリアでは、Jリーグの放映権も保有する『Optus Sport』が、昨シーズンより、プレミアリーグの中継を5Gで行なっている。このように、インターネットを通じた観戦体験が加速していくのは間違いないだろう。

 一方で、「スポーツを現場で見たいニーズは一定数あるので、『現場で観戦するVIPと、テレビ視聴で楽しむ、その他多くの人たち』という二極化が進むのではないでしょうか」と述べるのは、同社の宮下和之氏だ。

「それならば、今からつくるスタジアムは数万人規模ではなく、数千人、もしくは数百人のVIPに向けたものでもいいのではないかという議論が出てくると思います。限られた人数で、コロナウイルスの心配もなく、安全かつ快適に現地観戦できるのであれば、プレミア価格を払う顧客は一定数いると思います。スタジアムの収益性を考えると、そのほうがよいと言えます」

 近年のスタジアムは低コストでつくられた一般席と、VIP向けのホスピタリティルームに分かれているところが多い。たとえば、マンチェスター・シティのホームスタジアムの一般席は、驚くほど簡素なつくりだ。一方、ホスピタリティルームは豪華で、食事が楽しめたり、試合後の取材エリアを覗くことができたりと、様々な特典がある。両者のチケット代は10倍以上の開きがあるが、好評を博しているという。

「アフターコロナのスタジアムづくりとしてイメージしているのが、シンガポールのアワータンピネスハブという複合施設内にある『タンピネススタジアム』です。シンガポール1部のクラブが使っているスタジアムで、座席はメインスタンドのみ。収容人数は5千人程度です。バックスタンド、ゴール裏は商業施設になっていて、図書館などが併設されていて、そこから試合を見ることもできます」(宮下氏)

 戸田氏が補足する。

「今後はスタジアムの収益性を、より追求していく時代になると思います。コロナウイルス感染のリスクが残るのであれば、数年の間は中間ファン層を中心に、スタジアムに足を運ぶ人口が減る可能性があります。現地観戦はホスピタリティルームとゴール裏とで二極化し、中間層はオンラインを通じて、スマートフォンなどで視聴する形がスタンダードになるかもしれません。

 いちばん高額な席を買う人のなかには、金額に見合ったサービスをしてくれるのであれば、もっと高いお金を出してもいいと思っている人は多いでしょう。スタジアムの設計もリッチな空間を拡大し、高級な椅子を設置してスペースもゆったりとるなどして、他の席との差別化を図る試みもされていくと思います」

 ウィズコロナ、アフターコロナの時代で「3密」を避けるためには、集まる人を少なくするしかない。そうするとチケットの価格は上がり、少人数高単価にシフトしていくのは自明の理だ。ビフォーコロナとアフターコロナを比べると、現場で観戦するという体験は、非常に価値の高いものになるだろう。

 コロナの影響により、サッカーに限らず、すべてのスポーツが、否が応でも、収益構造の見直しを突きつけられている。はたして、ウィズコロナ、ビフォーコロナの観戦体験はどうなっていくのか。世界中が変化を強いられる昨今、生き残るためには、知恵を絞って、行動に移すしかない。