将来を嘱望されたこのボージャンもトップチームでは結果を残せずにクラブを追われた。(C) Getty Images

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 バルセロナは、伝統的に数多くの選手を自前で育ててきた。

 ジョゼップ・グアルディオラ、セルジ・バルファン、アルベルト・フェレールに始まり、シャビ、ガブリ、カルレス・プジョール、オレゲル・プレサス、ビクトル・バスケスも一時代を飾った。そしてリオネル・メッシを筆頭に、ジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケッツ、セルジ・ロベルト、ジョルディ・アルバは、今なお主力を担っている。ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタも、その一人だろう。

 GK、サイドバック、センターバック、アンカー、インサイドハーフ、サイドアタッカー、ゼロトップーー。ほとんどあらゆるポジションの選手を輩出している。アルベルト・セラーデスのように、プレーメーカーだけでなくサイドバックも任されたケースもある。オランダのアヤックスもそうだが、選手はユーティリティー性を求められ、その中で力量を高めてきた。

 しかしながら、バルサが一つだけ“鬼門”としているポジションがある。

 それが、センターフォワードだ。最前線で体躯を生かしてポストプレーを行ない、基点になりながら、ゴールを決める。いわゆる「背番号9」というのだろうか。

 ロマーリオ、ロナウド、サビオラ、クライファート、サミュエル・エトー、ダビド・ビジャ、そしてルイス・スアレスーー。バルサのゴールゲッターは、“外部発注”だった。ジョルディ・クライフのような選手も出てきたが、定着はできていない。ボージャン・クルキッチも、ストライカーとしては飛躍できずに苦しんでいる。

 下部組織ラ・マシアは、世界的な背番号9を育てられていないのだ。
 
 そもそも、ゴールゲッターのポジションがラ・マシアには存在しなかった。ボールを回し続け、相手を篭絡する。そのためには、エゴの強いFWは必要ない。さらに言えば、テクニックが常にフィジカルより重視されたチームで、いわゆる点取り屋気質はスカウティングから必然的に漏れたのだろう。プレー構造的に、CFの場所がないのだ。

 ユース年代であれば、それでも天下を取れる。

 しかしプロ同士の戦いでは、老獪さが求められる。高いレベルの駆け引きの中で、相手を体力的に精神的に消耗させられるFWも欠かせなくなる。そこで、気が強く体力的にも優れ、戦術的に賢く、ゴールセンスもある選手を外から獲得せざるを得ないのだ。

 ただ、バルサでストライカーがプレーする難しさは厳然としてある。いくら選手として優れていても、エゴが出ると失格。ズラタン・イブラヒモビッチなどその典型だった。FWがバルサに適応しなければならない環境なのだ。

 その点、バルサは欧州、南米でも特異なチームと言える。

 来シーズンに向けては、スアレスのバックアッパー探しが急務と言われる。有力候補はインテル・ミラノのアルゼンチン代表ラウタロ・マルティネスか。ゴールゲッターとしての資質は申し分ない。しかし、活躍できるかどうかは適応力次第だ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。