「河童発見」という衝撃的スクープで、某スポーツ紙が世間を騒がせたことがある。

岩手県遠野市の小学校裏で、先生と児童が目撃した、という見出しが付いていた。もちろん写真付きで、「全身緑色、頭にはお皿も」という小見出しも付けられていた。

遠野市にはカッパ淵と呼ばれる場所があり、カッパ伝説が残されている土地として知られている。まさか? と思いつつも、もしかしたら......と食い入るように写真を見つめた人が多かったに違いない(筆者もその一人だ)。

河童といえば、日本の代表的な妖怪で、伝説上の動物だ。全国各地に河童の伝承が残されている。それだけ身近で、気になる存在なのかもしれない。ひょっとしたら、実際にいるんじゃないか、誰しもそう思っていないだろうか。

2020年4月17日、次のような写真付きのツイートが投稿され、話題となっている。

近所の池の注意看板だというが、河童の絵が「センスありすぎ」だ。

どす黒い不気味な姿、大きな口をいっぱいに開けて気味の悪い長い舌を出している。手に持った青い玉はいったい何だろうか? 「あぶない」と書かれた文字が、かすれていて、まるで血糊でなぐり書きしたように見えるではないか。あまりにも怖すぎる。

だが一方で、とても素人が描いたとは思えない、芸術性の高さを感じる。いったいどこの誰が描いた看板だろう。そんな興味も湧いてくる。

Jタウンネット記者は、投稿者の青硝子(@putitomatoPOP)さんに詳しい話を聞いた。

「河童がいてもなんら不思議ではないかも......」


あぶない。青硝子(@putitomatoPOP)さんのツイートより

投稿者の青硝子さんによると、この看板は大阪府の南部に位置する和泉市の、とある池に数年前から立てられているという。

「池の前の道は木立の中にあるので昼でも薄暗く、昔から不気味でした。近くを通ると何かが鳴いて飛び跳ねる水音が聞こえるので、幼い頃は本気で河童がいると思っていました(音の正体はウシガエルです)」

河童の伝説も残されているのだろうか?

「個人的には知りません。ただ、大阪では、何気ない近所の池が実は古墳の堀だったとか、行基が造った池だとか、そんな話は珍しくありません。河童がいてもなんら不思議ではないかも......」

例の看板については、まったく見当もつかない、ということだった。

そこでJタウンネット記者は、 和泉市の広報担当に問い合わせてみた。

担当者は八方手を尽くして聞いてみたのだが、看板の設置者、描いた人については、まったく手がかりがなかったということだった。ご近所の有志が、個人的に立てたものかもしれない。看板の設置者の捜索は断念せざるをえなかった。

「ところで和泉市には河童の伝説は残ってないのですか?」と聞いてみた。すると、「こんなものがあります」と教えてくれた。「和泉のむかしばなし」という書籍の中の、「がたろ」という話だ。

「川や池には、『がたろ』がすんでいます。『がたろ』が、どんなすがたをしているのか、だれもしりません。
わかっているのは、ちいさな子どもが川や池であそんでいると、底のほうから、音もなくやってきて、つれていってしまうということだけです。
そこからさきのことは、だれもしりません。うわさでは、川や池の底までつれていかれ、尻の穴から、生き血をぜんぶすいとられてしまうというはなしです。
だから、ちいさな子どもだけで、川や池にちかづくのはよしましょう。ちかづいただけで、きっと、『がたろ』が、ニヤニヤしていますよ。」(「和泉のむかしばなし」より)

「がたろ」の話は、和泉市周辺に多数残っており、いろいろな形で伝わっているという。看板に描かれた恐ろしい河童は、和泉市に伝わる「がたろ」の姿なのかもしれない。