笑顔を見せるパルメイラス時代のザーゴ(下)とエジウソン(上)。ふたりはのちにJリーグでプレーすることに。写真:徳原隆元

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 20年ほどの時を経て、かつて撮影した“選手”に向けて再びシャッターを切る機会を得た。その人物はアントニオ・カルロス・ザーゴ。今シーズン、鹿島アントラーズの監督に就任したブラジル人だ。

 取材ノートを紐解いてみると、現役時代のザーゴをブラジルで撮影したのは20回を数えた。フィルムの中に刻み込まれた彼は、守備の中心選手としてパルメイラス時代では主将を務め、ときにブラジル代表でもキャプテンマークを巻いてプレーしていた。

 彼を最初に撮影したのは1993年4月11日に行なわれたパルメイラス対ポルトゲーザ戦。会場となった州営パカエンブーは、ピッチの外周を囲む金網のすぐ向こう側でサポーターが立ち見で観戦している、試合展開によっては物騒なことになりそうなスタジアムだった。

 ピッチを隔てる金網からスタンドまでの幅数メートルのスペースに、サポーターが陣取っていていいのかは不明であったが、とにかく当時のブラジルのスタジアムはそうしたフレキシブルなところがあった。

 写真は72分、エジウソンがゴールを決め、喜びのあまり金網によじ登って、パルメレンセ(パルメイラスサポーター)にアピールしたところをザーゴが肩車した場面だ。笑顔のふたりは、のちに日本でプレーすることになる。

 ただ、ブラジル時代のザーゴに関しては、写真のような笑顔だけでなく、激しい感情と闘志を前面に出して相手FWと対峙する姿も記憶に残っている。

 94年5月1日、モルンビーでのサンパウロFC対パルメイラスの一戦は、彼が“闘う選手”であることを実感した試合だ。この日はイタリアのイモラで、ブラジル人F1ドライバーのアイルトン・セナがサーキットで散った悲劇の1日でもあった。
 
 試合は、ハーフタイムにオーロラビジョンで告げられた国民的ヒーローの死に対する悲しみと、両サポーターが作り出す強烈なライバル心から生み出される危ういまでの熱狂が相まって、異様な雰囲気で進んでいった。

 試合を支配したのはサンパウロFC。スコアは2-1と僅差ながらリードを得たサンパウロFCがパルメイラスを圧倒し、後半の半ばには張り合いのないライバルを挑発するようにボール回しを始める。パスが繋がるたびに、スタンドのサンパウリーノ(サンパウロFCサポーター)からは「オーレ、オーレ」の大合唱が起こり、ボランチのバウベルはラボーナで味方に繋げる余裕のプレーを見せつけた。

 劣勢に立たされたパルメイラスの選手たちは、次第に苛立ちを深めていく。ピッチの各所で小競り合いが起こり、選手同士が激しく詰め寄るシーンが何度も起こった。荒れた試合は終盤に2得点を挙げたパルメイラスが逆転勝利を飾るドラマティックな結末で幕を閉じるのだが、この90分で最も激しく感情を露わにして戦っていたのが、パルメイラスのザーゴだった。
 
 現役時代のザーゴはキャプテンや守備の要といった、チームにおいて重要な立場であったからか、ピッチでは血気盛んに喜怒の感情を剥き出しにしていた。相手に負けたくないから激しく戦う。相手に勝ったから喜ぶ。こうした高ぶる感情表現は、サッカーにおいて自分が他者より劣ることを極度に嫌うブラジル人の典型とも言える。

 しかし、年齢を重ねて選手から指揮官へと転身したザーゴには、選手時代とは違う印象を受けることになる。撮影取材した今季開幕前の宮崎キャンプでの練習試合や、水戸とのいばらきサッカーフェスティバルでは、感情を前面に出すような姿はほとんど見ることはなかった。

 水戸戦の試合前の練習中にカメラを向けると目が合ったので、こちらが笑顔でウインクをしたら、それに応えるように、ウインクを返してきた。遊び心ある一面さえ垣間見えた。試合でも派手なアクションや檄を飛ばすことなく、思慮深く采配を取っていた。

 チームを束ねる指揮官という立場になった近年は、ザーゴの感情表現にも変化があったのかもしれないが、現役時代に見せていた勝利への熱き思いを忘れたわけではないはずだ。きっと、胸の内に秘めているのだろう。
 
 鹿島のチーム編成を担う鈴木満取締役フットボールダイレクターは、「監督には(スタイルの)方向性をしっかりと示せる人物が必要」と考え、複数人の候補者からザーゴを選んだという。

 昨シーズンは“四冠獲得”のチャンスから一転して無冠に終わった鹿島。なにより勝負どころでことごとく敗れた終盤での失速には、鹿島らしさが消えていた。試合に勝っても、負けても、さすが鹿島と納得させる存在感がなかった。

“らしさ”を取り戻すために必要なことは、目指すスタイルの明確化と勝利に対する強い意志だ。新監督に託された最重要ミッションは、鹿島を本来の「常勝軍団」に戻すこと。現役時代に見せた熱き思いを胸に取り組む、その手腕に期待がかかる。

取材・文・写真●徳原隆元

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