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新型コロナウイルスの影響により外出自粛が広まった結果、自宅で食事をとる人が増えました。売上の減った飲食店は、テイクアウトやデリバリーに活路を見出しましたが、そんな彼らにとって泣きっ面に蜂なのが「注文の無断キャンセル」です。

関東にある人気パン屋の店長も「無断キャンセル被害」を4月にツイッターで報告しました。複数の注文を受けて、100個以上のパンを焼いて箱詰めし、配送しようとしたところ、すべてドタキャンされたそうです。

店頭で販売しようにも、「コロナの影響でただでさえ客足は良く無いのよ?」と店長は嘆きます。

被害額は明かされていません。ですが、同店のウェブサイトで紹介されている商品の中でもっとも安価なパンでも1個313円(税込)。単純計算で、少なくとも3万円強の被害になります。

注文した相手の素性や連絡先はわかっているようです。このような場合、店長は注文者たちに計約3万円のパン代を請求できるのでしょうか。中島宏樹弁護士に聞きました。

●契約は成立したのか?

「店長は、注文を受けてパンを製造して販売することを業としていると思われます。その場合、パンの販売は、『製造販売契約』に該当することとなります。『製造販売契約』は、当事者双方の意思表示が合致(合意)した時点で成立する『諾成(だくせい)契約』です。書面での契約締結も不要で、口頭で成立します。

今回のケースでも、パンの注文が入り、店長がそれに応じた時点で、契約は成立しています。そして、店長は成立した契約にもとづき、パンを製造した以上、注文者に対する代金の請求権を取得しています。

したがって、店長は、注文者に対して、代金を請求することができることとなります。代金の請求には、特段の様式は求められていません。注文者の名前や電話番号がわかっていると思われることから、電話にて代金の請求を行えば良いでしょう。

もし注文者が支払いに応じない場合には、住所が分かっていれば、内容証明郵便による督促も有効です。それでも応じなければ、裁判所を利用して、支払督促の申し立て、少額訴訟という手続きもあります。

住所がわからないようであれば、調査が必要となりますので、弁護士にご相談されることをお勧めします」

結果的には、店長のツイートに同情した人々から多くの注文が入ったことで、被害額を帳消しにするほどパンが売れたようです。GW期間中にデリバリーを利用する人たちは、くれぐれも無断キャンセルなどしないようにしましょう。

【取材協力弁護士】
中島 宏樹(なかじま・ひろき)弁護士
京都弁護士会所属。弁護士法人大江橋法律事務所、法テラス広島法律事務所、弁護士法人京阪藤和法律事務所京都事務所を経て、平成30年7月、中島宏樹法律事務所を開設。京都弁護士会刑事委員会(裁判員部会)、民暴・非弁取締委員会(副委員長)、法教育委員会、弁護士法23条照会委員会、日本弁護士連合会「貧困問題対策本部」。
事務所名:中島宏樹法律事務所