新型コロナウイルスの感染拡大で実店舗を休業にしたアパレル各社が、ZOZOの集客力に注目している(画像:ZOZOTOWNのホームページより)

ファッション業界が大きな危機を迎えている。ZOZOTOWN(ゾゾタウン)の販売力で業界を下支えしたい」。4月28日に動画配信で開かれたファッション通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOの決算説明会で、同社の澤田宏太郎社長はそう力を込めた。

同社の創業者である前澤友作氏が、社長を電撃退任したのは2019年9月のこと。今回は、前澤氏の退任後初めての本決算発表だった。

ゾゾタウンの伸びは鈍化

ZOZOの2020年3月期決算は、売上高1255億円(前期比6.0%増)、営業利益278億円(同8.7%増)で着地した。

1年半ほど前に相次いだ出店ブランドの「ゾゾ離れ」は沈静化したものの、アパレル各社が自社サイトでの販売を強化する流れもあり、ここ数年2ケタ増収を続けてきた勢いはもはやない。


消費増税の実施や暖冬の影響もあり、昨年秋以降はゾゾタウンの商品取扱高の伸びが大幅に鈍化。2019年3月期に大赤字を計上したPB(プライベートブランド)事業の関連費用が減ったため増益は死守したが、売上高、営業利益ともに期初に掲げた計画を下回った。今2021年3月期については、新型コロナの終息時期が不透明であるため、会社予想は非開示とした。

苦しい船出を切った新経営陣。ただ、多数の実店舗が休業となってEC(ネット通販)の販路に頼らざるをえないアパレル業界では、ゾゾの集客力や販売力に再び注目が集まりつつある。

「いまやECが事業運営の命綱だ」「ゾゾタウンで売れなければ終わりだ」――。澤田社長によると、多くのアパレルからZOZOにこのような声が寄せられているという。


前澤氏の後任となったZOZOの澤田宏太郎社長(中央)(写真は2019年9月のもの、撮影:風間仁一郎)

ゾゾタウンへ出店するアパレルの多くは新型コロナウイルスの影響で、都心を中心に3分の2程度の実店舗を閉めないといけない状況に追い込まれた。本来ならば春夏商品が定価で売れる商戦期に売り場を失ったアパレルから、在庫の消化依頼が急増しているようだ。

アパレルから販売委託商品が増えている状況に対し、ZOZOは4月に、送料無料キャンペーン(通常は送料一律210円)を6日間実施。澤田社長は「プロモーションコストをかけて、販売力を高めていく」と強調する。

ECで実店舗の補填には限界

ゾゾタウンへの販売依頼が増えている裏には、自社で在庫をさばき切れない状況に陥ったアパレルの苦しい事情がある。

「休業している実店舗の損失を自社ECでカバーするなんて無理。4月以降もECは大して伸びていない」。緊急事態宣言発令後、大半の店舗を休業しているSC(ショッピングセンター)向け中堅アパレルの幹部はため息をつく。SC系や百貨店系などジャンルを問わず、複数のアパレルからは「実店舗が閉まっても、自社ECの売り上げが想定ほど取れない」といった声が漏れ伝わってくる。

都市部を中心に外出自粛ムードが高まった3月のアパレル各社の月次売上高を見ると、セレクト大手のユナイテッドアローズは実店舗(既存店、以下同)の売上高が前年同月比で40%減だったのに対し、EC売上高は同24%増。実店舗とECを合計した売上高は同24%減に沈んだ。

「アンタイトル」や「タケオキクチ」を展開するワールドも、3月の国内実店舗売上高は前年同月比で40%減だった。EC売上高が13%増だったものの、合計売上高は35%減に落ち込んだ。

もともと多くのアパレル企業の売上高に占めるEC比率は1〜2割程度。大半の売り上げは実店舗で稼いでいただけに、ECが多少伸びても実店舗の売り上げ喪失分を補填することは難しい。さらに、4月以降は在宅勤務や「ステイホーム」の風潮が一層広まり、外出する機会も激減した。新しい服を着ていく場面がなくなれば、ファッションの需要自体も大幅な減少が避けられない。

また、サイズ感や着心地が重視される衣料品については、実店舗で試着や素材感のチェックをした後にECで購入する、あるいは商品情報をECで事前チェックした後に実店舗で最終確認して購入する消費者も多い。

アパレル側も消費者の購買行動に寄り添うかたちで、店舗別の在庫状況の表示や試着予約などのサイト機能を充実させてきた。実店舗の休業は、こうした店舗との連携を前提としていたアパレルが運営するECにも大打撃となった。

自社ECでの集客増に限界

アパレル各社は会員顧客向けに新商品や限定セールの案内の発信を強化するものの、自社サイトだけで新規客を獲得して顧客の裾野を広げるハードルは高く、春夏商品の在庫をさばくことは不可能に近い。

窮地に立たされる中、コロナ禍でも営業を続ける有力な販路として、年間800万人超の購入者を抱えるゾゾタウンに期待する機運があらためて高まっているのだ。

ジーンズ量販大手のライトオンは4月下旬、ゾゾタウンに再出店した。同社は2019年2月、ゾゾタウンでの有料会員向け割引サービス導入をきっかけに、ブランドイメージなどへの影響も考慮してゾゾタウンなど複数のECモールから撤退。自社サイトでの販売強化に向けて経営資源を集中させてきた。


実店舗が大苦戦し、自社ECでも想定ほど新規客を獲得できなかったライトオンは、ゾゾタウンへの再出店を決断した(編集部撮影)

が、その後は自社サイトでの新規顧客取り込みが想定ほどうまくいかず、実店舗の販売も大苦戦を強いられている状況で、2019年秋頃からゾゾタウンを含めたECモールへの再出店を模索していた。

同社の藤原祐介社長は、「販路拡大を進めるうえで、ファッションサイトの中ではゾゾタウンは外せない。以前は(販売手数料やクーポン値引きで)利益率が低かったが、ZOZOの経営体制も変わり、われわれのゾゾタウン上での商売のやり方を変えれば、よりよいビジネスができるのではと考えた」と話す。

同時期にゾゾタウンから撤退したほかのブランドの中堅社員も、「今のままでは自社ECの飛躍が見込めず、ゾゾタウンへの再出店も選択肢の1つ」と明かす。

ブランドからの販売依頼が増えているZOZO。ところが、手放しで喜べる状況というわけでもない。

ゾゾタウンの4月の商品取扱高は公表されていないが、ZOZOの広報担当者は「外出自粛によりECに追い風がある点ではポジティブだが、巣ごもりに伴うファッション需要の減退はネガティブであり、両影響が相殺し合っている」と話す。出店するアパレル企業の幹部も「ゾゾタウンでの売り上げは、それほど伸びていない」と肩を落とす。

ZOZOは今後も、送料無料キャンペーンのようなプロモーションを強化して、販売力を高める方針だ。それでも、プロモーションが想定ほど寄与しなければ、販促費用がそのまま利益圧迫要因となる。

また、ゾゾタウンで販売する商品は千葉と茨城にあるZOZOの物流拠点に保管されているが、倉庫内での仕分け・発送作業は人海戦術に依存している面が大きい。「三密」状態を避けるべく、ZOZOでは倉庫での稼働人員を抑えたうえで、即日配送サービスを停止するなどの措置を取っている。アパレル側からの商品の入荷も一定の制限を行わざるをえない状況と見られ、倉庫の稼働率アップは当面難しいだろう。

求められるテクノロジー活用

新型コロナ収束後のファッション業界の先行きについて、ZOZOの澤田社長は「実店舗を含めてデジタルシフトが加速する。われわれが持つノウハウや顧客基盤をフル活用して、デジタルシフトの波を先導していきたい」と述べる。ゾゾタウン上でも、出店ブランドの店舗別の在庫表示機能を備えるなど、実店舗とECのさらなる連携強化を検討しているという。

新型コロナの影響は長期化が懸念され、緊急事態宣言の解除後も他者と距離を置く「ソーシャル・ディスタンス」を徹底する傾向は当面続くことが想定される。アパレルの実店舗が営業を再開しても、商品の試着や販売員の過度な接客は避けられる可能性が高い。

こうした状況下では、試着しなくても自分に最適なサイズが把握できたり、接客を介さなくても自分に似合う商品を提案したりする、テクノロジーを活用したサービスが一層求められそうだ。


コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

2018年に大量配布した採寸用ボディスーツ「ゾゾスーツ」は、採寸精度などの問題により生産中止に追い込まれたが、ZOZOは今後の成長の柱としてファッションとテクノロジーの両面強化を打ち出す。今年3月には、足を自動計測する「ゾゾマット」を活用し、相性のよいサイズの靴を提案するECモール「ゾゾシューズ」を開設したばかりだ。

コロナショックに苦しむ業界を下支えする役割を果たし、ZOZOの存在感を再び高めるチャンスに変えられるか。販売力の強化だけでなく、ゾゾスーツでは大失敗に終わったテクノロジー活用による利便性向上策をどこまで追求できるかが、再成長のカギを握ることになる。