中国・湖北省武漢のショッピングモール入り口で自らの健康情報をスマートフォンで確認する買い物客(2020年4月18日撮影)。(c)Hector RETAMAL / AFP

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【AFP=時事】世界各国の政府や団体が新型コロナウイルス感染拡大対策のロックダウン(都市封鎖)や移動規制の緩和を目的とした証明書「免疫パスポート」の使用を検討し、激しい論争を呼んでいる。免疫パスポートは、致死性の新型ウイルスへの抗体があるため拡散リスクは低いとする身分証明書のようなもので、所持者の活動再開や職場の復帰につながり得る一方、世界保健機関(WHO)や専門家らは抗体検査の精度をめぐる懸念を指摘し、個人情報保護の問題や、パスポートの悪用の可能性についても警鐘を鳴らしている。

 アイデアの支持者らは、スマートフォンに表示される飛行機の搭乗券のように、デジタルまたは紙の証明書を受け取ることも可能だと主張する。

 英国を拠点とする新興企業Bizagiは、従業員を識別する「コロナパス(CoronaPass)」という証明書を企業向けに開発。フランスのIT新興企業Sociosは、スポーツイベント用の免疫パスを開発中で、「感染リスクが低いか全くないファンだけがまずは試合を観戦できるようにする」と宣伝している。

 チリは先月、新型肺炎から回復した人々に証明書の発行を開始。ドイツやその他の国でも同様の試みが進行中だ。

 WHOは先日、「感染リスクのない証明書」を発行できるだけの「十分な証拠はない」と警鐘を鳴らし、数時間後に、ややトーンダウンした見解を発表。感染者は「抗体反応を持つようになり、これが一定の防御につながることはあるだろう」とした上で、「ただし、その防御の程度や、その効果がいつまで続くかはまだ分かっていない」と指摘した。

 米ジョージタウン大学(Georgetown University)グローバル公衆衛生および安全保障センター(Center for Global Health Science and Security)で公衆衛生を専門としているクレア・スタンドリー(Claire Standley)教授は、こうした証明書に懐疑的な考えを示し、その理由の一部は「抗体があることで再感染がどの程度妨げられるのか、はっきりしたことが分かっていない」ことにあると述べた。

■職場復帰の証明書得るためわざと感染する人も?

 米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)の病理学者アラン・ウー(Alan Wu)氏もまた、慎重な姿勢を見せる。「抗体があれば自分には免疫があると誰もが信じたがる」とウー氏。「だがそれは確定できない。このウイルスの抗体検査は出回ってまだ日が浅く、抗体があれば誰一人再感染しないと示すまでには至っていない」

 免疫証明という考え自体は目新しいわけではない。学童の入学時には、はしかやポリオなどの予防接種を済ませている証明が必要とされることが多い。アダルト映画業界では、出演者がエイズウイルス(HIV)や性感染症にかかっていないことを証明するシステムが数年間導入されていたこともある。

 一方、中国で開発されたシステムではさまざまな個人情報が機器に表示されるため、免疫がない人への差別を懸念する声もある。

 だがデジタルIDを専門とする企業は、プライバシーを犠牲にすることなく免疫証明書を作るのは可能だと主張する。

 デジタルIDの新興企業オンフィド(Onfido)のフサイン・カサイ(Husayn Kassai)最高経営責任者(CEO)は、個人の写真と関連付けたQRコードをスキャナーで読み取ることで、プライバシーの維持は可能だと語る。

「免疫パスポートは、自分は誰々であるという主張を証明するもので、検査結果はその人のものだ。それ以上の情報を共有する必要はない」とカサイ氏は説明する。

 プライバシーを重視するデジタルID団体のコンソーシアム「ID2020」のダコタ・グルーナー(Dakota Greuner)代表は、証明に関わるすべての事業には「個人情報をその個人の管理下に置くID技術を使用」するべきだと主張する。

 だが免疫パスポートをめぐっては、これ以外にも問題がある。例えばスタンドリー氏が指摘するように、本来の利用目的に反し、職場や通常の活動に戻れるようにわざと感染して証明書を得ようとする人が出てくることも考えられる。

「経済的、社会的に本当に苦しんで人々がいる」とスタンドリー氏。「規制が長く続けば続くほど、これから起こり得そうなのは、ロックダウンから抜け出すために自らの健康を危険にさらすことを考える人が出てくることだ」

【翻訳編集】AFPBB News

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