里帰り出産がむずかしい状況になってきています。妊活の先の先の話ではありますが、今、妊活中の方、これから妊活を始めようと考えている方は「妊娠にともなうリスク」をしっかり知り、向き合う必要があります。認定不妊カウンセラーの笛吹和代さんにうかがいます。

どこで出産できる?産み場所の確保がむずかしい

4月初めに日本生殖学会が発表した声明で、「国内でのCOVID-19感染の急速な拡大の危険性がなくなるまで、あるいは妊娠時に使用できるCOVID-19予防薬や治療薬が開発されるまでを目安として、不妊治療の延期を選択肢として患者に推奨してほしい」とされていることについて、不妊治療界ではいろいろな反応、意見があります。

ただ、これは不妊治療で妊娠する人だけに限った話ではありません。自然に授かった、自己流の妊活で授かった人にも同様のリスクがあります。

今、妊娠すること、妊婦には平時とは異なるリスクがあります。これについて、ぜひ知っておいていただきたいと思います。

すでに里帰り出産が難しい状況です。

4月23日に、危惧した事態が起きました。都市部から所要で帰省していた臨月間近の妊婦さんが破水し、病院に向かったのですが、新型コロナ感染リスクをおそれた病院から受け入れて貰えなかったのです。結果的には別の病院でPCR検査の結果を待って帝王切開で出産できたのですが……平時であれば移動先で何かあってもここまで受け入れに頭を悩ます事もなかったでしょうが、新型コロナウイルスの流行下では他の入院患者さんの事も考えれば慎重にならざるをえなかったのでしょう。こういうことは今後も起こりえます。

里帰り出産については、受け入れ先の病院が、「妊婦さんが帰省してから2週間、自宅待機し、症状が出なかったことを確認したあと受け入れ」といったルールを敷く病院が増えています。現在、臨月間近の妊婦さんは急いで帰省する必要があります。クリニックによっては「妊娠〇〇週に受診できるようにその2週間前には帰省していてください」と指示されているところもあります。

しかし今後、こうした受け入れがいつまで可能なのかわかりません。もうすでに新規の里帰り出産の予約に関しては受け付けてないところもあるでしょう。半年後、1年後、事態が落ち着いているのかどうかわかりません。悪化している可能性も考えなくてはなりません。「里帰りできない」事態も十分考えられます(ここでは現在感染者の多い都市部から比較的少ない地方への里帰りを前提にしています)。

そうなると、妊婦さんは都市部の病院での出産を選ばなくてはなりません。都市部の病院は今どこも非常時で、余裕がありません。そこに加えて、平時なら里帰り出産していた妊婦さんが集中するのです。出産する病院の確保が難しいということです。

私の近所の数少ないNICUを備えた総合病院でも院内感染が発生し その科では医療スタッフの自宅待機に伴い新規受け入れが出来ない状態になっていました(今は徐々に通常受け入れに戻っているようです)。産科やNICUで起こった事ではありませんでしたが、こうした事態が、いつどこでどの科で起きてもおかしくありません。

産前、産後のケアも平時と同じとは限らない

出産する病院が限られるということは、出産前後のケアも、これまでのような手厚いケアは期待できないと思います。産前の妊婦診断が初期は4週間/2週間に1度のペースで行なわれますが、この間隔が長くなるかもしれませんし、マタニティクラスも対面はなくオンラインやDVDになるかもしれませんね。産後、病院に入院していられる期間も短縮される可能性があります。

このほかにも、妊婦さんには通常時にはなかったストレスが重なることが予想されます。親が離れていても、夫が頼りになるならまだしもですが、夫の仕事がテレワークできないものであったり、協力が見込めなかったりする場合は、さらに計画を考え直す必要があるでしょう。産後すぐからワンオペになるからです。

平時であれば、夫が頼りにならなくても産後ヘルパーさんやお料理やお掃除の代行業者さんを頼むという事も可能でしたが、今のタイミングではなかなかそれらも難しいかもしれません。

今「妊活する」ということは、こうしたリスクを踏まえて考える必要があると思います。

それでも年齢は待ってくれません。1年後にコロナが収束しているというなら、1年ガマンする選択もありますが、そんなことは今わかりようもありません。年齢的に待っていられないという方は、腹をくくって、覚悟を決めて妊活に取り組みましょう。そのためにはパートナーとしっかり話し合い、計画を立てておくことが、いつにも増して必要だと思います。

夫婦だけで産後を乗り切った……、そんなご夫婦が身近にいれば先に話を聞いておくことも一つかもしれません。何より女性からあれこれ伝えるより、すでに父親として経験している立場の人から話してもらうほうが、男性もすんなり理解できるかもしれません。

新型コロナをきかっけに、妊活について夫婦で話し合えるようになれば……。



■賢人のまとめ
新型コロナウイルスの収束のメドが立たない今、妊婦さんの抱える不安も大きくなっています。里帰り出産、都市部で産むこと、どちらもこれまでと同じケアが受けられるとは限りません。妊活を進めるなら、どこで出産するか、どこで妊娠中のケアを受けるか、候補をいくつか考えておきましょう。

■プロフィール

妊活の賢人 笛吹和代

働く女性の健康と妊活・不妊に関する学びの場「女性の身体塾」を主宰する「Woman Lifestage Support」代表。日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー。臨床検査技師でもある。化粧品メーカーの開発部に勤務中、29歳で結婚。30代で不妊治療を経て出産。治療のために退職した経験から、現在は不妊や妊活に悩む女性のための講座やカウンセリングを行なっている。