WBFホテル&リゾーツは民事再生法の適用を申請した(記者撮影)

インバウンドの蒸発と外出自粛で刀折れ矢尽きた。

ホテル運営会社のファーストキャビンおよび子会社4社は4月24日、東京地⽅裁判所に破産⼿続開始の申し⽴てを⾏った。負債は合計約37億円となる模様だ。破産に伴い、直営5施設は営業を終了する。

同じくホテル運営会社のWBFホテル&リゾーツも27日、大阪地方裁判所に民事再生法の適用を申請し、同日に監督命令を受けた。負債総額は約160億円と、コロナ関連では最大の倒産となった。代理人を務める弁護士は、「複数の企業がスポンサーとして名乗りを上げているが、運営から撤退する施設も出て来るだろう」と話す。

もともと苦しい経営状況

2社の倒産の直接的な原因は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うホテルの休業だ。他方で、ホテル業界の苦境は今に始まったわけではない。いずれも新型コロナが引き金を引いたというよりも、もともと苦しい経営状況に追い打ちをかけたというほうが正確だ。

ホテルの月次データを公表している3つのREIT(上場不動産信託)のRevPAR(平均客室単価に客室稼働率を掛けた経営指標)を集計したのが下図だ。新型コロナのあおりをもろに食らった今年3月の下落が突出しているものの、業績自体は昨年中頃から軟調に推移していることがわかる。


昨年はホテル業界にとって悪いニュースが相次いだ。昨年7月、これまで増加の一途を辿っていた国内の延べ宿泊者数が横ばいとなり、8月には2年ぶりに前年割れへと転じた。日韓関係の悪化に伴い、韓国からの訪日客が減少したことが響いた。10月には台風19号が3連休を直撃したことも痛手となった。

需要が冷え込んでも、インバウンド需要や東京五輪特需を当て込んだホテルの新規供給は止まらない。厚生労働省によれば、ホテルや旅館、簡易宿所といった宿泊施設数は、2013年度の7万9519から2018年度には8万5617へと増加。市場の需給バランスは著しく緩んだ。

冷え込む需要と止まらぬ供給。「以前は各店舗の稼働率は9割超だったが、足元では8割5分」。昨年7月、記者の取材に対してファーストキャビンの幹部はこう答えていた。限られた客をホテル同士が奪い合い、稼働率を維持するために宿泊単価を削るダンピング合戦の様相を呈した(2019年11月13日配信「過剰供給のツケ、『関西ホテルバブル』に変調」)。

大阪市内に本社を構えるWBF自身も、競争に巻き込まれたホテル会社の一つだ。市内で運営する「WBF淀屋橋南」について、WBFは「ホテル同士の競争が激しく、思ったほど収益が上がらないため撤退したい」と、ホテルを保有する投資法人みらいに対して通達。契約はまだ長期間残っていたが、違約金を払ってでも解約を進めたい意向だった。

不動産業界にも飛び火

ホテル業界には日々、不穏なニュースが飛び込む。東京商工リサーチによれば、今年2月から4月27日までの間で、宿泊業の倒産は21件を数えた。さらに3月から4月にかけて、上場するほとんどのホテル運営会社が業績予想の下方修正を発表するなど、まさに総崩れだ。営業再開の見通しが立たないため、業績予想を「未定」とした企業も多く、日銭商売であるホテルの資金繰り不安は日増しに高まる。


外出自粛が長引けば、影響はホテル業界の外へと飛び火していく。筆頭は、ホテル運営会社から賃料を得ている不動産会社だろう。WBFの倒産を受けて、同社が運営する「ホテルWBFアートステイなんば」を保有するスターアジア不動産投資法人は、「今後の方策を検討する」とリリースを発表した。中堅デベロッパーのタカラレーベンに至っては、今年2月に京都市内で「ホテルWBF五条堀川」を開業させたばかりだ。今後の運営方針について、同社はコメントを避けた。

WBFが運営するホテルについて、東洋経済が不動産登記簿を取得したところ、複数のホテルの所有権が信託銀行に移転していた。このうち「ホテルWBF京都東寺」は、不動産ファンドのケネディクスが組成した私募ファンドに含まれている。ケネディクスは「運用方針についてはコメントできない」としているが、同ファンドには九州電力も出資しており、運営会社の倒産は投資家のリターンにも跳ね返る。

ホテルの賃料は一般的に、売り上げに連動する変動賃料と、売り上げにかかわらず毎月一定金額を支払う固定賃料とで構成される。ホテルの売り上げ減少を受け、受け取る変動賃料を「0円」と見積もる不動産会社は多いが、収入が途絶えているホテル運営会社にとっては固定賃料の支払いさえ難しい。運営会社の倒産を防ぐためにも、不動産会社は固定部分の減額にも踏み込まざるをえないだろう。

「回転型」ビジネスの功罪

現在進行形でホテルを保有している不動産会社だけでなく、開発したホテルを売却する不動産会社への影響も無視できない。不動産登記簿によれば、大阪市内に立つWBFが運営するホテルのうち少なくとも4棟は、関西地盤のデベロッパーである日本エスコンが開発、売却していた。

関西国際空港のすぐ近くでは、東急リバブルが「ホテルWBFグランデ関西エアポート」を開発中だ。今年7月の竣工予定で、その後は投資家へと売却する予定だが、「現時点では開発計画に変更はない」(同社)。


2019年9月にオープンした「ファーストキャビン柏の葉」。来海忠男社長は「ファーストキャビンを占う重要な店舗」と意気込んでいたが、わずか半年での閉店となった(記者撮影)

ホテル業界が沸いていたここ数年、不動産各社はこぞってホテル開発に参入した。多くは開発したホテルを系列REITや外部の投資家に売却し、回収した資金でさらに多くのホテルを開発するという「回転型」ビジネスだ。「昔は興味を示さなかったマンションデベロッパーが、宿泊単価上昇を受けてホテル開発に参入してきた」(大手デベロッパーのホテル開発担当者)。


コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

インバウンド需要を追い風に、オフィスや商業施設よりもホテルの収益性が勝った時代には、投資家もホテルを欲しがり、物件と資金がうまく「回転」していた。好循環が続く間は爆発的な利益をもたらす回転型ビジネスだが、ひとたび開発物件の売却が滞れば、資金繰りに窮するおそれがある。

もともと負債総額が多く、行方が注目されていたファーストキャビンとWBF。2社の倒産劇は、これから起こる波乱の幕開けにすぎない。