(c)カメラを止めるな!リモート大作戦!

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の上田慎一郎監督が、全くスタッフとキャストとが会わず、完全リモートという形で短編映画を撮った。奇策に見えるが、それだけではない。は、「映画館ではなく、パソコンで見る映像作品」というフォームから逆算された、様々なアイデアが凝らされた作品なのだ。

日暮さん、今度は完全リモートで再現ドラマを撮ることに!


『リモート大作戦!』は、『ハリウッド大作戦!』に続く『カメラを止めるな!』のスピンオフである。主要キャストが再集結して撮影された新作ではあるのだが、しかしスタッフとキャストは一度も顔を会わせていない。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出自粛のため、大人数が一箇所に集まる映画の撮影などはもってのほか。にも関わらず、ちゃんと『カメラを止めるな!』のシリーズ作品として成立している。

今回も一応の主人公は映像監督の日暮隆之。彼はリモート会議の席で、プロデューサーの笹原から「犯罪ものの再現ドラマを撮ってほしい」と仕事の依頼を受ける。しかし折からのコロナウイルスで、人を集めての撮影はご法度。それならということで、リモートで役者自身が撮影した映像を送ってもらい、それを編集して一本のドラマにまとめることを提案される。無理めな依頼を、日暮は乗り切ることができるのか。

本編のあらすじは、かくのごとくシンプルなものである。しかしその中身は、ちょっと一筋縄ではいかない。役者たちがマジで自分のスマホで撮ったと思しき自撮りの映像がそのまま劇中で使われ、さらにはSNSで募集した普通の人の自撮り映像もはめ込まれるインタラクティブな作り。どうせ撮影ができないならと、転んでもタダでは起きない姿勢が見える。単に「スマホで撮ってみた」というだけには止まらず、『カメラを止めるな!』の登場人物たちの近況が盛り込まれているのも楽しい。

「パソコンで見る」ことに特化した短編映画の在りようとは


それ以上に唸らされたのは、この映画はどういったデバイスでどのように視聴されるのかがきっちりと考えられている点だ。というのも、劇中にはZOOMでのビデオ会議の、あのそれぞれのカメラで撮った四角い画面が並ぶ映像がそのまま挿入されたり、動画サイトのシークバーがそのまま出てきたりする。パソコンで見れば、『カメラを止めるな!』の登場人物たちの会議にそのまま参加しているような感じになるし、彼らが撮影した映像をそのまま再生しているようにも見えるのである。

今のご時世、ホイホイと映画館に映画を観に行くわけにもいかないし、そもそも映画館自体が営業していない。だからこそのオンラインでの新作公開である。そうであるならば、やっぱりスマホやパソコンで見る人が多いだろう……。その条件を逆手に取った演出として、この「デバイスで表示される画面をそのまま劇中に挿入する」というのは賢い。パソコンやスマホでの画面だけで物語が展開される『search サーチ』というサスペンス映画があったが、あれにも通じる演出である。


さらに言えば、もともと『カメラを止めるな!』の出演陣は虚実の境目がかなり曖昧である。日陰者たちが集まってド根性でワンカット撮影を成立させるストーリーと、お世辞にもさほど名前が売れているとは言えない役者たちが集まって奇跡的な成績を叩き出したこの映画の興行は、不思議な形でリンクしている。もちろんフィクションだし脚本もあるのだが、演者とキャラクターが普通の映画より近い感じが漂っているのだ。

『リモート大作戦』では、その虚実の境界線がさらに曖昧になっている。映っているのはおそらく出演者の本物の自宅から撮影されたであろう映像なのだが、彼らがやっているのは演技である。しかしそもそも役者とキャラの境界線が薄いので、どこまで現実でどこからが違うのかはなんだか曖昧。おまけに動画を投稿した一般の人々の映像も混じるので、もう虚実はぐちゃぐちゃ。オンラインで公開される短編映画ならではのギミックと言えるだろう。

「映画館で映画を公開できない/見られない」という状況を逆手に取り、最後には自分たちのフィールドである小劇場を救うためのミニシアター・エイド基金への支援のルートも設けられている『リモート大作戦』の作りは、さすがによくできている。フレッシュなトンチも効いているし、「完全リモートでこんなことができるのか!」という驚きもある。しかし、これだけ出来がいいと、やっぱり新作を映画館で観たくなるもの。「パソコンから見る」という視聴体験について考え尽くされた本作をひとまず自宅で鑑賞しつつ、また映画館に出かけられる日を待ちたいと思う。
(しげる)