「全米で続く外出制限への抗議デモは、“本物”の草の根運動ではない? 浮上した数々の疑問」の写真・リンク付きの記事はこちら

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための外出制限に対する抗議デモが、米国で大きな混乱を引き起こしている。この動きが草の根で始まった運動ではなく、市民運動に見せかけて展開される組織的な意見の主張「アストロターフィング(偽の草の根運動)」ではないかとの疑惑はある。だが、ソーシャル・ディスタンシング(社会距離政策)などの規制措置の解除を求めて、全米で人々が街に繰り出していることは事実だ。

デモでは「恐いのは本物のウイルスだ」「ウイルスよりも感染拡大防止策のほうが危険」といった、わかりやすいプラカードが掲げられていた。一方で参加者たちの関心は、コロナショックがもたらす経済的損害を超えたところにもあるようだった。参加者たちは銃所持の権利、社会主義、移民、憲法、医療、中絶といった問題に対しても意見表明をしていたのだ。

さらには、南北戦争時代の南部連合の旗を掲げる白人至上主義者たちの姿もあった。このグループは不満を抱く(白人の)米国民がいれば、必ずそこに集まってくる。

経済再開を求める企業が陰で煽動?

当然のごとく、報道機関はすぐに反応した。FOXコーポレーションの経営陣は自局の番組司会者に対して、ソーシャル・ディスタンシングを守るよう呼びかけるよう指示しているにも関わらず、FOXニュースのジェニー・ピロはデモの参加者たちを賞賛したのだ。

『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』などの主要紙は、抗議活動の背後でトランプ政権と関係の深い有力組織が動いていたと指摘する。単純に一般市民の不満が爆発したわけではなく、経済再開を強く求める企業などが陰で扇動していたのではないか、というのだ。

『WIRED』US版を含む多くのメディアは、抗議デモは局地的なもので、米国民の大半は政府の感染拡大防止策を支持していることを強調している。同時にこうした動きに関心を示せば、抗議者たちを勢いづかせるだけだと注意を促してもいる。

また、左派陣営は、今回のデモに強い懸念を示している。適切に対処しなければ、ティーパーティー運動のときのようにポピュリズムの台頭を許すことになるかもしれないからだ。

“捏造”された写真も

一方で、「Snopes」などのファクトチェックサイトは、“捏造”された写真を何枚も見つけ出している。参加者の数が明らかに多すぎるものや、写真を加工してプラカードの文言を書き替えたものなどが、今回のデモの写真として掲載されているという。

混乱してきただろうが、米国とはそういう国なのだ。現実は常に白黒のつけられないグレーゾーンにある。実際には、外出規制などに対するデモはいずれも小規模で、一部の地域でしか起きていなかった。ただ、Institute for Research and Education on Human Rights(IREHR)の調べによると、抗議運動への支持者はその後、Facebookを中心に140万人程度にまで拡大している。

資金力のあるグループが、デモが起きるようにあおり立てたことは確かであろう。だが、不満を抱く人たちはそれより前から存在した。極端な行動に出た少数派の危険な主張を大げさに書き立てるべきではないが、ピックアップトラックで大都市の目抜き通りを封鎖したり、手術着を着ている医療従事者をにらみ付けるといった行為を完全に無視することもできない。

重要なのは、デモを起こしたのはどのような集団で、参加者たちはなぜそのような行動に出たのかを理解することだろう。ワシントン大学教授で米国政治と社会運動を研究するクリストファー・セバスチャン・パーカーは、「参加者たちは、自由と憲法で認められた権利を守るためだ、経済不安が起きているのだと主張するでしょう。しかし、そんなことは後付けのでたらめにすぎません」と語る。

さまざまな疑いや仮説が入り込む余地

今回の抗議デモは、ティーパーティー運動の初期の動きと比較されることが多い。これは特に経済における政府の過度な介入への反発であり、ティーパーティー運動でも重要な役割を果たした保守系の権利擁護団体FreedomWorksのような組織が後押ししているというのだ。

ただ、ティーパーティーと同じで、経済的な問題はイデオロギーの出発点に過ぎず、着地点ではない。フォーダム大学の歴史学教授で社会運動の専門家であるマーク・ナイソンは、「自由市場を信奉する裕福な保守派の企てが裏目に出たのだと思います」と言う。「こうした保守の富裕層は、南部連合の旗を持った白人至上主義者たちと同じ社会的ネットワークには属していません」

抗議デモというものは一般的に、同じ懸念を共有するが利害対立することもある複数の集団がまとまって声を上げるというかたちで機能する。ただ、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)という今回の事態は普段とは事情が違うために、混乱が拡大した。

ニューヨーク市立大学で抗議運動の心理を研究するジェームス・ジャスパーは、「正直に言って、わたしたちは漠然とした知識しかもっていないのです。このウイルスについてあまり多くのことはわかっていませんし、感染方法や人体への影響も完全に解明されたわけではありません」と指摘する。「つまり空白の部分が多く、こうした隙間にさまざまな疑いや仮説を適当に当てはめることができるのです」

「貧困層のトランプ支持集会」

言い換えれば、抗議デモを支えたのは反ワクチン派や白人至上主義や、極右を引きつけそうな陰謀論なのだ。実際、新型コロナウイルスを巡る数々の不明点は、確実に陰謀論的な思考を誘発している。シンクタンクのピュー研究所によると、米国民の3割が新型コロナウイルスは自然発生したものではなく、研究所で人工的につくられたものだと信じている。

陰謀論の支持者たちは、たいていはひとつではなく、数のつくり話を信じており、反科学かつ反政府の立場をとる。銃規制にはもちろん反対で、民族主義的かつ自分たちは常に危険にさらされているのだという、こり固まった世界観を抱いている。

IREHRのデヴィン・バーガートは、「気候変動のようなものを論じるときと同種の力学です。イデオロギー的に同じ筋書きが使われています」と語る。「あっという間に広まったのはこのためです」

結局、抗議デモもその参加者も、果てはFOXニュースの司会者の好意的なコメントも、すべては事前に周到に用意されていたものだ。フォーダム大学のナイソンはこれを「貧困層のトランプ支持集会」と呼ぶ。大統領選が行われる今年、トランプがTwitterで彼らへの支持を声高に叫ぶのは、新型コロナウイルス対策であきれるような言動を繰り返して注目を集めるのと同じくらい単純な話なのだ。

選挙で力を発揮する「白人の恨み節」

こうした状況を見誤らないようにすることが大切だ。繰り返すが、米国民の大半はソーシャル・ディスタンシングを支持しているし、自宅待機令を無視して外出することもない。今回のデモは保守派ですら支持してはいないのだ。少なくとも「Make America Great Again」の赤い帽子をかぶらない、穏健な共和党支持者はそうだろう。

ただ、バーガートはFacebookで複数のグループと話した結果、デモ参加者たちは世間一般に受け入れられることを目指しているわけではないことに気づいたという。バーガートは「世の中の人など、どうでもいいでのす。参加者たちの目的は為政者を動かすことです」と説明する。

フォーダム大学のナイソンによれば、今回のような抗議デモを支える「白人の恨み節」は、選挙において最も力を発揮する。外出制限を巡るデモは、米国の個人主義に深く根ざしたアイデンティティ喪失の恐怖が、社会情勢に合わせて形を変えて表出したものだ。現在のような複雑な状況で、究極的には新型コロナウイルスからも自宅待機令からも離れて、すべてを説明できる答えを見つけ出すことは難しい。

ナイソンは「こうした人たちが主流になることはありません。ただし、いつもどこかに存在しているのです」と言う。そしていま、危険なほどの距離まで近づいてきている。

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