現役時代にはジーコ氏(写真後方)とマッチアップ。「後にも先にもこの1本だけ」と語るパスを通されたという。(C)SOCCER DIGEST

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 サッカーダイジェストでは今年1月から風間八宏氏の連載コラムがスタート。その技術論や、サッカー哲学などを余すことなく語ってもらっている。リーグ中断が続くなか、自身のSNSなどで自宅で試せるトレーニング法やテクニック動画なども伝えている風間氏の、記念すべき第1回目のコラムを紹介しよう。

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 今回からサッカーダイジェストで連載コラムを始めさせてもらうことになりました。タイトルは教え子たちによく送っている言葉「自分に、期待しろ」。どの人にも無限の可能性があり、自分たちの意識次第で世界は大きく変わる。そう信じ私なりのサッカーの見方、捉え方などを伝えられればと思っています。

 さて初回のテーマは“見る”。メッセージは「あなたは何が見えていますか?」です。

“見る”という行為は、“言葉”“触る”というキーフレーズとともにサッカーを伝えるうえで重要なファクターです。例えば味方にパスを出す時、皆さんはどこを意識しているでしょうか。

 ひとつエピソードがあります。先日、名古屋でトレセンの選手20人と、指導者の方約90人が集まってサッカークリニックを開催しました。テーマは「どうやってペナルティエリアに入るか」。そこで「止める・蹴る」の重要性を説明しましたが、ゴール前で相手を外すためには、受け手の動きも大切ですが、パサーも相手を外す必要があります。

 ではどうするべきなのか。パスの出し手と受け手、そしてDFひとりを置いた練習で、最初は上手くいかなかった選手に、私がアドバイスしたのは「相手の膝の動きを見てみなさい」ということ。「相手の膝がどちらかに動いたら逆に出してみなさい」と。パスの受け手も相手の膝と逆に動いてみる。すると相手の体重移動の逆を突き、動きを封じることができるわけです。
“止める・蹴る”を意識するのは重要です。ただ、その言葉に縛られすぎている気もします。大切なのは、相手の動きをどう見て、“止める・蹴る”を実践するか。そこがベースになります。その基本をしっかり押さえておかないと、先につながりません。一方でそこを理解できれば、驚きのあるプレーがたくさん見られるようになるのではないでしょうか。ちなみに現役時代、私は相手のつま先の動きがはっきり見えたので、そこを確認するようにしていました。そうすると、膝の動きを見るよりも難易度は高いですが、一瞬で次の判断ができる。そういった自分に合ったやり方を見つけることも大切です。
 
 また現役時代にこんな経験もありました。ジーコさんと対峙した時に、私が一歩足を出した瞬間にスッと、体重がかかった足の目の前にパスを通された。後にも先にもこの1本だけでしたが、「なるほどな。この人はここがはっきり見えるんだな」と彼に見えているものを感じることができた。そうした感覚は分かる人には分かって、指導者としてそれをどう伝えていくのか。そこは考えさせられる部分です。

 先ほどのように2対1という状況を抜き取って、膝を見ることを意識してみると、パスは通るようになるかもしれない。でも実際の試合では、多くの選手がいるなかで、何をどう見るか、いつ見るか、目を揃えられるようにならないといけない。その感覚をどう養うか。
 
 また“見る”重要性はサッカーを観戦する人たちにとっても同様です。最近はシステムや戦術論などがひとり歩きしている気もしますが、大事なのは自分の目で見て何を感じるか。

 例えば、ある選手が一本のスルーパスを出したとする。そのプレーを「あれは凄かったね」で終わらせるのではなく、「あのパスはどこを見ていつ判断して出したんだろう」と突き詰めて考えれば、世界は広がる。
 もし3つ星レストランがあったとして、その店の料理は皆が美味しいと感じるでしょう。でも1つ星のレストランにだって大きな可能性があるかもしれない。それを見つけることも、楽しいことだと思います。繰り返しになりますが、重要なのは言葉に惑わされずに自分の目で見ること。そうすれば、新しい楽しみ方がある。固まっている従来の世界観を捨て、新しい視野を持てば、成長にもつながる。

「あなたは何が見えていますか」。この言葉を意識してサッカーに接すれば、新しい発見が必ずあるはずです。

■PROFILE
かざま・やひろ/1961年10月16日、静岡県生まれ。現役時代はドイツのレバークーゼンやレムシャイトなどでプレーし、89年の帰国後にはマツダSC(現・広島)に加入。93年のJリーグ開幕戦(対市原/現・千葉)では、開始1分にチーム第1号&日本人Jリーグ初ゴールを決めた。97年の引退後は解説者を務め、97年から04年まで桐蔭横浜大、08年から12年まで筑波大を指揮。12年4月からは川崎、17年1月からは名古屋を率い、魅力的なパスサッカーで大きな話題を集めた。

構成●サッカーダイジェスト編集部

※『サッカーダイジェスト』2020年1月23日号より転載。