消化試合だったが、退任する岸野監督の下、劇的な逆転劇を披露した。ⒸJ.LEAGUE PHOTOS

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 高校卒業までの約18年間、鳥栖で暮らしていた筆者にとってサガン鳥栖は、サッカーに興味を持たせてくれたきっかけだった。こうした仕事に就いたのも、やはり地元クラブの影響が大きい。

 高校の校舎からはスタジアムが一望でき、ホームゲームがある日は毎回、スタジアムに足を運んだ。さらにはボールパーソンを務めた試合もあった。なかでも記憶に強く残っているのが2009年のJ2最終節のC大阪戦だ。

 鳥栖は09年シーズンの最終節の勝敗に関係なく、5位が確定。C大阪戦はいわゆる消化試合だった。ではなぜ強く印象に残ってるのか。2-1の逆転劇に鳥栖らしさが凝縮されていたからだ。

 試合は8分に先制を許す苦しい展開で、当時2位のC大阪は山口蛍や乾貴士などを擁し、実力差は確かだった。それでも鳥栖らしく相手を上回る走力を見せ、球際では身体を投げ出すような守備。攻撃では前線のハーフナー・マイクが高さを活かして基点を作り続けた。

 

 懸命なプレーが報われたのは終了間際の89分だ。左サイドでパスを回しながら隙を窺うと、途中出場の野崎陽介がゴール左でフリーになった郄地系治へスルーパス。郄地は冷静にGKの股間を通してネットを揺らした。

 ここで終わらなかったのがこの日の鳥栖で、再び郄地が得点を奪う。ゴールを背にしてボールを受けると、ワントラップでDFの股を抜いてGKと1対1となり、左足で流し込んだ。

 劇的な逆転弾に選手たちは、今季限りで退任が決まっていた岸野靖之監督のもとへ駆け寄る。もみくちゃにされた指揮官が肉離れしたのは、“名誉の負傷”といったところだろうか。

 当時は11年にJ1昇格の立役者となる豊田陽平もキム・ミヌもいなかったなかで、試合終了まで90分間、足を止めることなく走り続け、チーム一丸となって戦って強敵C大阪を撃破。まさに鳥栖らしく、クラブ名の“サガン”(砂粒が固まって砂岩になるように小さい力を終結させること)を象徴する試合だった。

 観客数は8466人と決して多くはなかった。だが、この光景は今でもファン・サポーターの脳裏に深く刻まれているだろう。

文●古沢侑大(サッカーダイジェスト編集部)