「エール」20話 「最初のコンサート必ず来て」と鉄男に言う裕一。その言い方が彼女みたいだった
第4週「君はるか」19回〈4月24日 (金) 放送 演出・松園武大 脚本・吉田照幸〉
え〜〜
なぜか突然、裕一(窪田正孝)の留学を、茂兵衛(風間杜夫)が認めた。5年間行っていいという大判振る舞いである。ものごとがトントン拍子に進むのは朝ドラあるあるだが、コンクール入賞、音(二階堂ふみ)と文通、留学許可……と一週間のうちにいいことが盛りだくさん。
ただ、今週から極度にコミカルな小劇場的な雰囲気になってきているので、トントン拍子も気にならない。
そして、落とす
茂兵衛が急に態度を変えたことには理由があった。裕一の祖母・八重(三田和代)が留学させて英語を学んだり人脈を増やさせたりすると事業に有利と言い出したのだ。音楽の成功は「万に一つもないね」と八重は高をくくっていた。そうとは知らない裕一は大喜び。
さっそく音に手紙で報告するが、ぷっつり返事が来なくなった。
最高の理解者が現れて創作にも興が乗っていた裕一はすっかり落ち込んでしまう。
音としては順風満帆な裕一の単なるファンに過ぎない。母(薬師丸ひろ子)も、先生(古川雄大)、梅(森七菜)もみんな音の熱を冷ますようなことを言う。墨をすりつつみんなの言葉を反芻しながら、音は自分の置かれた立場を改めて実感してしまったのである。
古山裕子
明るかったトーンはすっかり沈みがちに。でも「嫌われたんだーわー もう生きていけない〜〜」「あ〜〜〜」(裕一)と大仰な演技で暗くなりきらないような気遣いがある。「えーーー」とか「わーーー」「あ〜〜」とかもう大騒ぎ。
諦めきれない裕一は、親が反対しているのではないかという川俣銀行の仲間たちの助言で、古山裕子という女性名に変えて手紙を送る。バレバレだと思うが……。
案の定、バレバレ。しかも、鈴木の予想はまったくのはずれで、家の人が男女交際を反対しているわけではないのであった。
裕一にすっかり信頼されていることに音は嬉しくなりつつも、自分は裕一に比べて何者でもないからとお別れの手紙を書く。音は以前、見合いをしたとき、男の後ろについていくのではなく「一緒に歩きたい」と宣言しているので、いまの状態では自分を許せないのだろう。玉の輿に乗ってやれ!という発想がないところが立派である。
音からきっぱりお別れの手紙が送られてきたが、裕一は諦めきれず豊橋へ向かう。休みをもらって。いくらヒマだからって、もう少し仕事してくれー。仕事を全然しないで恋に夢中な感じ、「恋つづ」に似ている。
次週、豊橋編。ついに、裕一と音が出会う。亡くなった志村けんも登場するらしい。盛り上がりそう〜。
名優ぞろい
コミカルな内容は、ともすると安っぽくなるのだが、巧い俳優が集まっているので、安心して見られる。銀行シーンは、支店長の落合吾郎(相島一之)、行員の鈴木廉平(松尾諭)、松坂寛太(望月歩)、事務員の菊池昌子(堀内敬子)のおもしろカルテットがしっかり守っている。
堀内敬子は、藤堂先生(森山直太朗)に一目惚れして会いに行き、そこでコメディエンヌぶりを発揮した。
笑いのシーンではないが、三田和代がさすが。「万に一つもないね」のときの表情が、ここだけ横溝正史の描く、濃い血族によるミステリーのようであった。しかも、風間杜夫と語り合うとき、わずかな時間ながら黙って突っ立って科白を言わない。静かに歩いて風間杜夫の前を横切る。それがあまりに自然で、横切ることに意味が感じられる。茂兵衛よりも八重に主導権があることを感じさせる。空間の使い方の巧さ。これがいまの朝ドラに欠けている。80年代の「おしん」や「はね駒」ではそれは当たり前のように俳優たちによって成されているのである。
今日の窪田正孝
「最初のコンサート必ず来て」と鉄男(中村蒼)に言う、その言い方が彼女みたいだった。しかもやっぱり体育座り。裕一は音より鉄男ともっと仲良くしてほしい。(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)
(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)
番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和