■東京都知事の小池百合子です

「東京都知事の小池百合子です」。こういった冒頭で始まる東京都が制作した「新型コロナウイルス対策用」のネットでの動画配信、そしてCMが、物議を醸している。小池知事が全面に押し出される内容だけに「都知事選が近いのに流していいのか」「やりすぎなのでは」「非常事態で、選挙を意識しすぎなのでは」といった批判の声が上がることを受け、さまざまなメディアで、

「小池百合子の“血税9億円CM”隠しきれない『出たがりな性分』」
「小池知事、CMやネット 連日発信 7月に都知事選『出過ぎ』の声」
「小池都知事が『違法CM⁉ コロナ終息後は日本子女初の女性創立を本格的に視野に入れている⁉』」

といったタイトルで“小池批判”をあおり立てている。

小池パフォーマンスを非難する一方、Twitterなどでは「良くも悪くも知名度は抜群」「全世代に伝わるのではないか」「星野源とコラボした安倍首相の動画に比べたら、常識的」といった正反対の評価の声も上がる。非難と称賛が分かれる小池都知事の動きを、改めて検証してみた。

写真=都庁HPより

18日まで放送していたCMというのは、小池知事が自己紹介をした後、「都民一丸となってこの難局を乗り越えましょう」と呼び掛けたり、「外出を控えて」「買い物は必要な量に」など具体的なメッセージを込めたりした5つのパターンで、知事が全面に立って、コロナへの危機感や注意を訴えていた。民放6局が9日から、1時間に1本ペースで放送し、アルタ前など都内9カ所の街頭ビジョンでも流していた。

■9億円の宣伝予算は使いすぎか

都は8日、緊急事態宣言に伴い、都の準備を活用してコロナ対策を行うと発表。「Web広告の拡充」に7000万円、「テレビ・ラジオCM枠の確保・CM制作」に5億6000万円、「新聞広告」に2億3800万円など、宣伝広告に9億円ほどの予算が組まれた。

金額だけみれば、「使いすぎ」と感じられることは、間違いなく一理あるだろう。

とはいうものの、都政担当の全国紙記者はこう効果を指摘する。

「小池さんは確かに目立ちたがり屋。ただこういった前代未聞の非常事態では、なによりも、メッセージのわかりやすさやインパクトが大切なのは間違いありません。都知事自身が出れば、著名なタレントを活用するよりも経費はかからず、なおかつ小池都知事の知名度は抜群。ストレートなメッセージをただ呼び掛けるだけで、『緊急事態なんだな』と老若男女に訴えかけることができるのです」

小池都知事に人気があるか否かは別な議論だが、連日全国ニュースに流れる“顔”だけであって、ほとんどの人が顔と名前を一致できる人物といえる。東京都のトップが、ストレートな発信をすることで、わかりやすく伝えられているという見方もあるようだ。

ちなみに、都知事出演のCMは終了した。19日からコロナ対策のCMとして、人気ユーチューバーのヒカキンさんら4人が呼び掛けるバージョンに変更されている。

■目立ちたがり屋でも役に立てばいい

小池叩きが過熱している中、与党のある国会議員は、都知事出演のCM効果を数字で示すことはできないとした上で、

「必要で急ぎのCMやPR動画を作るのに、自らが出演するのが最も手っ取り早い方法。普段の振る舞いに賛否あるが、今は選挙よりも早期終息が一番大切と、本人も重々承知しているはず。総理の“星野源とのコラボ動画”や“アベノマスク”に比べたら、世の中の空気感をちゃんと読んでいる。どちらがやるべきことをやっているかは明確じゃないでしょうか」

と、一定の評価と理解を示した。

メディア上で“叩かれる”ことが多い小池都知事。もう忘れられてしまっているかもしれないが、小池都知事は就任後、「自らも身を切る改革が必要」として、小池百合子都知事給与半減条例案を提出。これまでの都知事給与は年間2900万円程度だったが、2018年度の所得報告書によると、小池都知事の報酬は1253万円。なんと、47都道府県の中で最低所得の知事ということになっている。

■日本で一番報酬が安い知事・小池

17日の記者会見で小池都知事本人が「私の報酬は全国一お安い知事になっている」と、質問の返答として発言したことも重なり、ネット上では

「業務量に対して少なすぎるのでは……」
「一般企業の役員の年収に満たないぐらいの年収じゃん」
「国会議員は4300万円以上もらっているのに」
「好き嫌い以前にそんな年収であんな仕事できない」

といった驚きの声が上がっている。年収1300万円で“あれだけの責任”を背負っていると考えると、強靱(きょうじん)なエネルギーを持っていると言わざるを得ないだろう。

小池都知事は新型コロナの感染拡大を防ぐため、10日には娯楽施設や大学、劇場などに5月6日まで、休業を要請すると発表している。実効性を高めるために要請に応じた中小の事業者に1店舗50万円の「協力金」を給付する方針も示し、都の置かれている状況を改めて伝えた上で、お願いと同時に具体的な支援策も打ち出した。

こういった新型コロナに関する対応で、SNS上ではハッシュタグをつけて、トップらのこれまでの対応を採点する動きもみられている。

■奮闘する吉村大阪府知事

迅速な動きで評価を高めている大阪府の吉村洋文知事。同様に、支持を集めているのが小池都知事なのだ。東京五輪に関してはくすぶった評価が目立っていたものの、緊急事態宣言後は休業要請をめぐって、国と真っ向から対立した。「経済より人命」を優先させる方針を一貫したことや、1事業者あたり50万円の協力金を支払う、わかりやすい策も大きな評価を集めた。国との対立をめぐっては、「社長かと思ったら中間管理職」といった、小池節を交えた名言も秀逸で、「#百合子ありがとう」とたたえる声が相次いでいる。

はたして、都知事として人気があるのか、否か。歴代の都知事取材を重ねる記者は「パフォーマンス先行なのは事実」と指摘した上で、こう分析を加える。

「なんとも世論を掴(つか)むのがお上手な小池都知事。猪瀬、桝添都知事と比べて、メディア活用がうまいのは間違いないのですが、ついつい自身が前に出すぎてしまう。パフォーマンスをした上で、経済施策などを打ち出すといった、後から結果をつけようとしているのが現状なのでは。転んでもただでは起きないといった『執念』を感じ、バッシングされても負けずに、次のパフォーマンスに動き出すのが、都知事の強さですね」

■批判だけしかしないマスコミ

こういった冷静な見方もある。

「吉村大阪府知事の方が、いま本当に必要なことやっているという見方もある。病院で不足している防護服、ポンチョを募集し、ふるさと納税を使って医療従事者を支援しようとしたり、地に足がついた支援策を打ち出しています。小池都知事にしてみたら、世間とズレた安倍首相と比較されることが多いだけに、ラッキーなのです」(全国紙デスク)

都知事選が遠くないだけに、新型コロナ収束に向けた対策と同じくらい、パフォーマンス強化も重要になるだろう。

17日の記者会見で小池都知事は、

「コロナにかかってしまうと都庁が動かなくなってしまう。まず自分自身かからないために免疫力を落とさないよう心がけております。体調は大丈夫です」
「とにかく都民の命を守ることが私の最大のミッションだと思いながら、それがエネルギーになって、みなさんとともにコロナに打ち勝っていきたいと思います」

と、改めて力強い決意を述べた。

非難されながらも、ここまできっぱりと決意表明をできるのは簡単なことではない。パフォーマンス先行と言われても仕方ない側面も見え隠れするが、知名度抜群の知事が先頭を切って、コロナを少しでも抑えることができるのなら、東京都民にとって、日本にとって大切なことだ。杓子定規に、マスコミが選挙運動だと断じるのは自由であるが、これこそがマスコミがいつも批判するところの「揚げ足取り」なのではないか。コロナショックに関係なく、権力者をただ批判すればいいというのがマスコミなら、マスコミなど要らないと思う。

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麹町 文子(こうじまち・あやこ)
政経ジャーナリスト
1987年岩手県生まれ。早稲田大学卒業後、週刊誌記者を経てフリーランスとして独立。婚活中。
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(政経ジャーナリスト 麹町 文子)