『鬼弁〜強面パンクロッカーの弁当奮闘記〜』著者、TOSHI-LOW氏(BRAHMAN、OAU)インタビュー後編では、予測のつかない世界に生きる上で、親が子どもたちに見せるべき姿、伝えていけることは何か、たっぷり語ってもらった。

【インタビュー前編】
子どものお弁当や食事、プレッシャーや決まり事から解放されるには?

■この状況下において、子どもたちは子どもたちで色んなものを感じ取ってるはず



TOSHI-LOW氏(撮影 西槇太一)

――今、すごく世の中がピリピリしていて、しんどいって言い出しにくい空気を感じます。
「私も我慢しているんだから、あなたも我慢してください」みたいな、まるでチキンレースのような状態だなって感じるんですけど、分かります?

TOSHI-LOW:もちろん分かるよ。俺はそういうのには乗らないけどね。

――こういうときこそクールに、冷静でいようとしていますか?

TOSHI-LOW:いや、笑ってるな。何が楽しいかなってことばっかり考えているから。

――家庭やバンドや、その他たくさん関係者を引っ張っていかなきゃいけないプレッシャーとかはないんですか。

TOSHI-LOW:こうなっちゃうかもって不安になっても考えるだけムダで、ライブができないならできないで、それ以外のところの話だもん。家にいる時間があるんだったら、時間のかかる煮込み料理でも作って、夜みんなでご飯食べられたりしていいなとか。

子どもたちも学校ないから、上の子は昼まで寝てるし、下の子は起きたら毎朝YouTube見て、その後ゲームしてって、それを「楽しそうでいいなー」って見てる。でも、子どもたちは子どもたちで、こういう状況の中、色んなものを感じ取っているから、それを大人になった時に出せばいいんだと思う。

だから家で学校と同じ分だけ勉強させようとは思わない。そもそも親は先生じゃないし、無理に学校の真似事をする必要はないのかなって。今後、何が起こるか分からないのに、心配して予防線張るより、今のうちに見たいYouTubeを見れるだけ見とけ、飽きるまで見ればいいって言ってるよ。

■誰もが薄くて揺れている橋の上を歩いているって思っている方が、生きていくためのカンも身に付く


――たしかに、見たいだけ見ていいよって言われたら飽きるの早そうですしね(笑)
もはやいい学校やいい企業に入れば安泰でもない、この先行きの見えない状況で親は子どもたちに何を伝えればいいと思いますか?

TOSHI-LOW:それでも楽しむ姿だと思う。社会がこんなに変わっていっても、自分の心の中にある楽しみだけは持っていかれないから。音楽を奏でるでも、絵を描くでも、想像上の物を作るでも、子どもたちが心の中に楽しみを持っていれば、誰にも侵略されることはないって、そういうことに時間を与えていけばいいと思う。

いい学校だとかいい企業だとか、そういうもので安心って思っていても、コロナひとつで経済もこんな風になっちゃうわけでしょ。だから社会的な指標に頼って「自分だけは大丈夫」って思っているよりも、誰もが薄くて揺れている橋の上を歩いているんだって思っている方が、生きていくためのカンも身に付くし、どうやって生き延びていくかってことや、どんな世界になっても自分らしく、楽しく生きていくことを伝えられると思う。

――親が常に示していく必要があると。

TOSHI-LOW:学歴社会だって残るとは思うけど、今後それで恩恵を受けられるのかは全然分からないし、生きていくのは自分たちじゃなくて、その子たちだから。でも、親は子どもに安定してほしいって思う生き物なんだよね。俺だって、子どもが「音楽で食っていきたいんだけど」って言ってきたら「知らない人からヘタだとか、なんだって文句ばっかり言われるんだぞ、苦労するからやめときな」って思うもん(笑)

だから親はいつだって面白くない方向に子どもを向けるし、そういう生き物なんだってことも重々承知してる。だから、「親」なんだけど人間っていう付き合い方をしていこうというか、間違いがあってもいいんだよ。

――間違ってもいいって言ってもらえると心強いです。

TOSHI-LOW:「この間はああいう風に言ったけど間違ってたね、ごめん」って言えば子どもだって納得するだろうし。それを親だから嘘つかないとか、それ自体がもう嘘なのに、子どもにだけ「嘘をつくな、正直に生きろ」って言っても信用されないよね。「嘘もつくさ、間違いもあるさ、そのときは謝るね」でいいんだよ。だから「親らしくする=謝ったら死ぬ」ではない!(笑)

■難しいご時世こそ、自分が好きなものや必要なものを見つめ直せるいい時期


――でも、正しくあらねばと思うあまり、間違いを認められなくて「謝ったら死ぬ」病に罹患している人はいますよね、親に限らず(笑)
ただ、正解を見つけたいって思う気持ちは分かります。水泳でもバレエでも、物にするために少しでも早く始めなきゃいけないって焦りがちで。

TOSHI-LOW:何かひとつを究めなきゃいけないなんてことはなくて、子どもは色んなことをやり散らかしていいと思うの。俺だってずっと音楽やってたのかっていうと全然そんなことはなくて、子どものときに習いに行けって言われたピアノは半年も続かなかったし、何にも覚えなかったよ。3歳から始めて物になる子もいれば、遅くから始めて物になる子もいるし、やり続けるのは子どもなんだから、本人が好きだって思えないとやっていけないよね。

行動に対価が欲しいのかもしれないけど、「大人になったときに成功するから」とかやる意味を求めるんじゃなくて、子どもは楽しいからやるんだし。「ずっとバレエやってたけど、やっぱり蕎麦打ち職人になりたい!」でもいいじゃん(笑) バレエで鍛えた体幹が蕎麦打ちに活かされるかもしれないでしょ、それは全然無駄じゃないよ。

――難しいご時世だけど、「楽しい」や「好き」って大事ですもんね。

TOSHI-LOW:難しいご時世だからこそ、自分がどうしたら楽しいかを考え直せるときなんじゃないかな。俺たちだったらライブができない状態が続いて、「やっぱ人前で歌いたいな」ってライブの大切さが身をもって分かるわけじゃん。

閉塞感があるときこそ、自分の今までやってきたこと、普段の生活だったことがすごく尊いものなんだって分かり得るんだから、自分は何があったら楽しいだろうかって考えてみれば、みんな100個も200個もないと思う。

たとえば家族や子どもたちが健康で、自分もライブができて、酒が飲めて、とか考えると両手いかないくらいだから、そうするとみんな好きなものが分かってくる、感じ取れるいい時期なのになって思う。

ライブも「できない」じゃなくて、逆にやったことなかったけどこれはできそうだな、とか今後はこういう風にやればいいのかなって考えてるから、決して悲観的にはなっていないよ。そうやって楽しく生きてれば、不安だからってトイレットペーパーを買い占めることもないと思うし。

■不安は不安で解消しないから、自分が生きていく姿を見せることが子どもといる間の教育になる


――情報に流されずに、自分で考えて自分の目で確かめることを親が教える機会だと捉えればいいと。

TOSHI-LOW:この先、もっと大変なことがあるかもしれないし、さらに別の自然災害があるかもしれないし、別のもっと強い菌が出てくるのかもしれない。子どもたちが大人になればなるほど、それに遭遇する確率は増えるんだから、これはいい教育の現場だし、こういうときに大人たちが何をしてくれるかを子どもたちは見ているし、俺はダメなところも含めて人間なんだって教えてる。

だけど、トイレットペーパー買い占めてる人はそれが正しいと思っているわけだから、正しさなんて追い求めることが正しくないんだよって、これひとつでも禅問答みたいな話ができるのはリアリティのある教育だよね。

――では最後に、今しんどくなっちゃっている読者にメッセージをお願いします。

TOSHI-LOW:不安を不安で解消することはできないから、情報を集めるとか、誰かの意見を聞くとかじゃなくて、この際だから今まで出来なかったけどやってみたいことをやってみるとか、自分のやり方で、生きていく姿を見せること自体が、子どもといる間の教育だと思う。

本当は常にそれができなきゃいけないんだけど、本当に自分が好きなもの、必要なものは何だろうって、まず大人が見つめ直して、子どもに伝えるチャンスが今なんじゃないかな。自分を安心させてくれる何かを、誰もが自分の中にきっと持っているはずだから。

TOSHI-LOW氏プロフィール
1974年茨城県水戸市生まれ。1995年にパンクバンド BRAHMAN 結成。1996年、初のミニアルバム『Grope Our Way』をリリースし、1999年にはメジャーデビュー。ライブパフォーマンスが注目を集める。2003年に女優のりょうと結婚。
2005年にはアコースティックバンド OAU としての活動も開始する。東日本大震災以降はさまざまな災害への支援活動を継続して行い、音楽性以外でも、バンドシーンに大きな影響を与え続けている。
OAU書き下ろしによるNHKみんなのうた『世界の地図』が、2020年6-7月曲として放送予定。

真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。