(写真1)東京・新大久保の店頭で売られているマスク

写真拡大 (全2枚)

 新型コロナ対策で配布される「アベノマスク」こと、2枚の布マスクが、そろそろあなたの自宅にも届くはずだ。が、これに先立ち妊婦に配られていた布マスクに、髪の毛混入などの不備があったと報じられている。となると、やはり頼れるのは使い捨ての「不織布マスク」……? あるところにはあるのに、近所では売っていない。そんなマスク事情に流通アナリストの渡辺広明氏が迫った。

 ***

 前回「コロナで続くトイレットペーパー品薄 試される民度…買い占め不要を数字で読み解く」記事で紹介したのは、トイレットペーパーの「供給量」は「消費量」に対して十二分にあり、だから買い占めは不要という話でした。今回は不織布マスク(以下、マスク)についてですが、こちらは“デマ”がきっかけで始まったトイレットペーパー不足と違い、実際に消費量が世界的に増えているため、品薄は続くでしょう。

(写真1)東京・新大久保の店頭で売られているマスク

 コロナウイルスの拡大前、アジア以外の国々では、一般の人はよほどの病気のとき以外、マスクを着ける習慣がなかったといいます。それが一転、世界人口77億人がマスクを求める環境となってしまった。世界のマスクの約半分が中国で作られていると言われますが、供給量は1日当たり約2億枚だそう。となると、世界中にマスクが十分に行きわたることは考えにくいわけです。

 こうした需要拡大により、中国では今、原材料である不織布「メルトブロー」の値段が高騰しています。中国の通信社CNSが報じたところによれば〈医療用マスクの「心臓」といわれるメルトブロー式不織布の価格は10倍以上に跳ね上がった〉(3月27日)とのこと。マスクを中国に頼る日本も、この影響をもろに受けています。

(写真2)「イスラム横丁」では簡易包装の品も

 コロナ前に1枚あたり売価10円ほどだった中国製のマスクは、品質にもよりますが、いまや80〜100円で売らなければもとがとれなくなっている。1箱50枚入りとすれば、4000〜5000円ほどにもなります。3月末にスーパーマーケットチェーンの「イズミヤ」が、50枚入りマスクを税抜き3980円で販売し、「高すぎる」とネットで炎上していました。税込み価格でいえば4378円。メディアの取材に“原材料が高騰したため”とイズミヤの広報は説明していましたが、実際、仕方のない話でもあるわけです。けれども“便乗商法”と批判されることを恐れ、小売店は、高い価格でマスクを販売することができなくなってしまっています。

 ところが――東京・新大久保の韓流ショップには、ひと箱3500円前後で売っているところがちらほらあるのです。なぜなのでしょうか。

「イスラム横丁」はもっと安い

 掲載の(写真1)は、4月17日の金曜日に、新大久保を訪れたときに撮影したものです。店先に並ぶのは50枚入りで「税込み3780円」や「税込み3800円」といった売価のマスクです。それも一軒や二軒ではありません。高いことは高いですが、いずれも、先の“炎上価格”よりは500円も安い。いわゆる韓流エリアとは別の「イスラム横丁」エリアには、税込みで3500円というものもありました(写真2)。

 新大久保エリアに通う知人によれば、

「マスクは3月の終わりごろからちらほら売ってはいました。新大久保に来る人ってだいたい決まっているから、売っている光景にも慣れちゃって、いまやわざわざ買う人はあまり見かけませんね」

 だそう。前からマスクは新大久保で売られてはいましたが、この日、店員さんに聞くと「今日から再び“箱”で入ってくることになりました」とのことでしたので、改めて供給ラインが確保されたということかもしれません。

 なぜ、新大久保エリアではマスクを売っているのか。チェーン展開する小売り店と違って、高い売価で売っても批判されにくい、ということもあるでしょう。ただ、それにしても安い。この違いは、“仕入れ値”に原因があるのです。

 中国からマスクを調達し、小売店に売るビジネスを行っているブローカー氏によると、売り先への卸値は1枚あたり33〜55円とのこと。コロナ前には3〜10円だったといいますから、高騰のほどがよくわかります。これを卸業者が仕入れ、小売りに回すとなると、やっぱりどうしても“炎上価格”になってしまう。一方、新大久保のお店は、大手のチェーンと違う独自のルートで、卸しを介さずに仕入れられる。中間マージンが浮く分、価格を安くできるわけです。

中国からのお達し

 もっとも、こうした状況は今後また変わってくるかもしれません。3月末、中国製のコロナ検査キットが粗悪品だとして、輸入したスペインが約5万8000個を返品する騒動がありました。検査キットと同様、マスクもその“質”が問われる品であることは間違いありません。そのため、先のブローカー氏によると、4月18日付で、中国はマスク輸出の取り締まりを厳しくしたそう。〈「医療用」といえるか否か、基準を明確にし、そうでなければ「非医療用」と包装に明記しなくてはならない〉〈メーカー名や生産日などの情報は包装に印刷しなくてはならない(シールでの後付けはNG)〉といったルールの厳格化のお達しがあったといいます。今後の輸出に影響するため、粗悪品は輸出しないという、中国共産党の決意の現れでしょう。

〈包装は小売りのできる形で〉というのも新たなルールです。こうなるとバルク包装、つまり先の(写真2)のような簡易包装で中国から仕入れることもできなくなります。包装がしっかりすると、そのぶんモノの容積は増える。「輸送時に積み込める量が減り、コストアップにつながります」と先のブローカー氏は嘆いていました。となるとそのコストは、売価にも反映されます。

 日本ではシャープなど、マスクの生産を始めた企業があります。シャープは4月21日から、個人に向けてネット販売も始めました(50枚で税抜き2980円、別途660円の送料)。こうした新たな生産体制があるから安心だ、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本国内生産の一日当たりの供給量は推定650〜850万枚です。これとは別に、ソフトバンクが中国の自動車メーカーBYDと連携し、医療現場を中心に1日1000万枚を5月から供給すると発表しています。それでも日本の人口は1億2596万人ですから、やっぱり品不足は続きそうです。

 ここまで見てきたように、使い捨てマスクの価格高騰は、日本ではコントロール出来ないため、やむを得ません。医療従事者など、使い捨てできる不織布マスク不足に困っている人は多いです。いろいろ言われても、一般人は、使い捨てから布マスクにシフトするべきかもしれません。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、デイリースポーツ紙にて「最新流通論」を連載中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月22日 掲載