こんにちは、テレビウォッチャーで、ライター・エディター・コラムニストのかわむらあみりです。Suits WOMANでテレビをテーマにした連載コラムを書いています。

今回は、NHK連続テレビ小説『エール』(NHK総合 月〜土曜 午前8:00〜8:15ほか)をご紹介します。

作曲家・古山裕一役の窪田正孝さんと、妻・関内音役の二階堂ふみさんは息もぴったり!

激動の昭和と同じく、コロナの影響で不安定ないまの日本を励ます音楽

連続テレビ小説『エール』は、昭和という激動の時代に、人々の心に寄り添う数々の曲を生み出した福島県出身の昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而さんと、その妻で歌手の金子(きんこ)さんをモデルにした物語です。

古関さんと聞いてもすぐにピンとこない人もいるかもしれませんが、手掛けてきた曲である夏の全国高等学校野球選手権大会の歌「栄冠は君に輝く」、阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」、1964年開催の東京オリンピック開会式で演奏された「オリンピック・マーチ」といえば、思い浮かぶ人もいるのではないでしょうか?

そんな古関さんのことを調べていたら、筆者が幼少時に父から聴いて童謡だと思っていた「緑の丘の赤い屋根〜」という歌い出しで始まる歌「とんがり帽子」(1947年発売)が、実は戦時中の子どもたちを応援する内容のラジオドラマ『鐘の鳴る丘』(NHKラジオ 1947年〜1950年)の主題歌で、古関さんが作曲していたことがわかりました。

こうしてエンターテインメントに活用される歌から軍歌まで、実にさまざまな作曲をしていた古関さんと妻の金子さんをモデルに、『エール』では窪田正孝さん演じる主人公の古山裕一と、二階堂ふみさん演じる裕一の妻・関内音が連れ添いながら、ヒット曲を生み出していく姿を描いています。

さらに、裕一の父・三郎役に唐沢寿明さん、母・まさ役に菊池桃子さん。音の父・安隆役に光石研さん、母・光子役に薬師丸ひろ子さんといった名優ぞろい。唐沢さんと菊池さんは、昨年放送された日本テレビ系のサスペンスドラマでも夫婦役でしたが、以前はスリリングすぎる内容だったので今回はほっこりできて安心。

光石さんのいぶし銀の演技もさることながら、薬師丸さんは、上品だけれど芯の強さが光る演技で、チャーミング! 筆者が小学生のときは角川映画全盛期時代で、数々の映画で主演していた薬師丸さんを好きになり手紙を書こうと思い、初めてファンレターというものを書いて送りました。ただ、その後ポストに封筒が届き「返事が来た!」と大喜びして封を開けると、そこにはお返事ではなく(そりゃそうですよね〜)、薬師丸さんが出演する映画DVDの宣伝チラシが送られてきて、子ども心にショックを受けたのもいまとなってはいい思い出。

そして『エール』の主人公のモデルとなった古関さんが生き抜いた昭和だけでなく、平和なはずの令和という現代も、いまは新型コロナウイルス感染拡大の影響が全世界的なものとなり、まさかの激動のとき。ほんの数か月前までは、お正月でのんびりムードだった日本が、春を迎えたはずなのに、すっかり不安定なムードが漂っています。緊急事態宣言を受けて活動を自粛しているなか、お仕事をしている方もリモートワークが中心になるなど、かつてない事態に遭遇していますよね。

各方面に影響を与えているコロナ問題ですが、『エール』を含めたドラマなどテレビ業界でも撮影延期を余儀なくされることもあったり、放送開始時期を遅らせているものもあったり。スタジオに人が集まる設定の番組では、リモート出演やソーシャルディスタンスを徹底させることで、なんとかこの急場をしのいでいるといった現状です。

そんななか、『エール』にこれから登場していく予定だった志村けんさんが、新型コロナウイルス感染症による肺炎のため2020年3月29 日に亡くなりました。志村さんは、童謡「赤とんぼ」で有名な作曲家の山田耕筰さんをモデルとした役で、窪田さん演じる裕一が尊敬するという役柄。すでに収録を終えているものもあるそうで、思いがけず今作が遺作となった志村さんの姿を、これから私たちが目にすることになります。

志村さんはほかにも、今年12月公開予定の山田洋次監督の最新作『キネマの神様』にも生前に主演する予定でしたが、闘病で出演辞退してしまいました。志村さんが演技をするのは映画『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年)以来、21年ぶりとなるうえ、日本の喜劇王が俳優として最後に印を残した『エール』でのその姿、必ず目に焼き付けたいと思うのは筆者だけではないでしょう。

また、『エール』の見どころともいえる、音楽に縁のあるキャストにも注目したいところです。

森山直太朗ら音楽人が演じることで、画面からにじみでるメロディー

 『エール』の主人公・裕一は気弱な少年でしたが、音楽に出会うとその秘めた才能を発揮し始めます。そんな裕一の素質をいち早く見抜き、両親にまで「類稀な音楽の才能があります」と助言をしにくる、裕一の恩師・藤堂清晴役を演じているのは、シンガーソングライターの森山直太朗さん。

撮影自体は昨年収録されたようですが、今年に入ってからオンエアされた土曜ドラマ『心の傷を癒すということ』(2020年1〜2月 全4話)、今回の『エール』と、直太朗さんは立て続けにNHKドラマに出演しています。

阪神・淡路大震災をテーマにした『心の傷を癒すということ』では、主人公の兄役を演じていた直太朗さん。阪神・淡路大震災を経験した大阪出身の筆者は、その後「生きている限りやりたいことを叶えよう」とより心に誓い上京したことを思い出しながら少しシビアにドラマを観ていましたが、本業はアーティストである直太朗さんの俳優としての演技に、不自然さはまったくありませんでした。

そもそも直太朗さんが演技をするのは、木村拓哉さん主演の月9ドラマ『HERO』(フジテレビ系 2014年)の第1話にゲスト出演して以来ですが、アーティスト活動の一環として、実は2005年から定期的に歌と芝居を融合させた劇場公演を開催しています。そういった舞台での演技力と、今回の『エール』での、音楽に情熱を傾ける先生役という本業にもリンクする部分のある今回の役柄は、はまり役だといえるでしょう。

また昨年から直太朗さんは、長年共作者としてタッグを組んできた詩人で演出家の御徒町凧さんと離れ、アーティストとしての新たな段階に入っています。これからも歌だけではなく、演技でも、新たな表現活動を私たちに見せてくれるでしょう。

『エール』では直太朗さん以外にも、“東京編”のメインキャストとして、今後はロックバンド・RADWIMPSの野田洋次郎さん、ミュージカル俳優の山崎育三郎さんや古川雄大さんといった音楽に縁のある人たちが登場します。野田さんは、窪田さん演じる裕一が勤めるレコード会社「コロンブスレコード」の同期の作曲家・木枯正人役。山崎さんは裕一の小学校の同級生で、後に東京の音楽学校を卒業し、歌手となって裕一の曲を歌い人気を博すという、佐藤久志役。古川さんは、音の歌の先生・御手洗清太郎役です。

第2週までは子役のみなさんのみずみずしい演技を観ながら『エール』の世界にグイグイと惹き込まれていましたが、第3週からはいよいよ窪田さんが登場。成長してからも裕一を見守る藤堂先生役の直太朗さんも、いい感じです。

窪田さんといえば、若手の中でも高い演技力を誇る実力派。これから物語がどんなふうに展開していくのか、毎朝を楽しみに『エール』を観賞していきたいと思います。

NHK連続テレビ小説『エール』 https://www.nhk.or.jp/yell/

写真提供=NHK