40代で「うつ」にならない人のちょっとした習慣

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あれこれ考えすぎると、うつになる可能性がある。うつを寄せ付けいない、マイナス思考を変える7つの方法を紹介(写真:nonpii/PIXTA)

新型コロナウイルスによる外出自粛や社会活動の低下、将来への不安などにより、私たちの心も大きな影響を受けている。

もとより、うつは身近な病気。私が編集長を務める雑誌『ハルメク』の読者は50代以降の女性が中心だが、介護や子どもなどの問題で気分が落ち込み、うつを心配する方は少なくない。放っておくと将来、認知症になるリスクも上がるため、早めに確実に治すことが重要だ。そこで今回は、うつのサインの見つけ方、予防法、最新治療法を紹介する。

単なる「気分」ですませないで

気持ちが落ち込んだり、やる気が出なかったりすることは、誰にでもある。しかしそんな状態が2週間以上続き、日常生活にも支障が出ているなら、うつかもしれない。

厚生労働省による「2017年患者調査」によれば、うつ病をはじめとした「気分障害」(躁うつ病も含む)は、男性より女性に多く発症する。年代別に見ると、女性の発症は40代でグンと増え、50〜70代でも多い状態が続く。

「女性の場合は、人間関係、とくに子どもや夫など家族の悩みから、うつになる方が多いですね。子どもが巣立った寂しさや一人暮らしになった孤独感を訴える方もいます」。こう話すのは、うつの治療に詳しい川村総合診療院院長の川村則行さんだ。

うつの症状というと、憂うつな気分や気力の低下などを思い浮かべるが、ほかにも意外に多いのが「眠れない」「疲れやすい」「食欲がない」といった体の症状だ。「痛みがしつこく続く、耳鳴りやめまいがなかなか治らないという背景に、うつが隠れていることもあります」と川村さん。

また、頭が思うように働かず、もの忘れも増えるため、「もしや認知症では?」と心配する人もいるという。「脳の前頭葉の働きが低下するのが原因です。うつが長い間続くと将来、認知症になるリスクが上がるという報告もありますから、放置せず、きちんと治すことが重要です」(川村さん)。

さて、あなたは大丈夫だろうか? まずは下のチェック表で、うつの症状がないかどうか確認してみよう。

うつには大きく9つの症状がある

☑気分が落ち込んだり、悲しくなったりする
☑ものごとに対して興味がなくなり、楽しめなくなる
☑疲れやすく、気力がわかない。何をするのもおっくうに感じる。
☑食欲がない、あるいは食べすぎてしまう
☑なかなか眠れない、あるいは眠りすぎてしまう
☑自分には価値がない、まわりに申し訳ないと思ってしまう
☑頭が思うように回らない、ものごとに集中できない
☑そわそわして動き回る、あるいは動作や話し方がゆっくりになる
☑生きていても仕方ない、死にたいと思ってしまう

うつには上記のように大きく9つの症状がある。最初の2項目の両方、またはどちらか1つに該当したうえで、残りの項目も合わせ、全部で5項目以上に当てはまる状態が2週間以上続いている場合、うつと診断される。

そもそも、なぜうつになるのだろうか。「うつの患者さんの脳の中では、神経細胞が炎症によるダメージを受け、神経伝達物質が足りなくなっています」と川村さん。

うつに関わる神経伝達物質にはセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンの3つがある。セロトニンは気分を安定させ、不安や恐怖を軽くする。ノルアドレナリンは思考力や集中力、意欲に、そしてドーパミンは気分の高揚や幸福感などに関係している。うつになると、これらの物質が不足することで、不安や意欲の低下、楽しみの喪失などの症状が表れることに。私たちの感情は脳内の物質によって大きく左右されているのだ。

「ストレスを抱えて悩んだり、過去のつらい経験を何度も思い出したり、マイナス思考でくよくよしたりしていると、神経伝達物質がどんどん使われ、減っていきます。“考えすぎ”はうつにつながりますから、要注意です」(川村さん)

考えすぎ、悩みすぎ、ものごとをつい悪い方向に捉えてしまうマイナス思考……。心当たりのある方は、うつになりやすいタイプと言える。うつを寄せ付けない「心の習慣」を、川村さんに聞いた。

考えすぎないための7つの習慣

習慣1:眠る前はお花畑にいる気分で

不安があると眠れなくなりがち。眠れないとさらに不安が増すから、まずは睡眠の改善が重要だ。そこで川村さんがすすめるのは、寝る30分前から“自分をやめる”こと。

「とにかく自分のことを考えないようにします。頭の中に自分が登場すると、どうしても考えが暗くなるからです。寝る前は、きれいな景色やかわいい動物など好きなもの思い浮かべ、心軽やかな“お花畑状態”にしましょう」

習慣2:初めて会った人を1分間褒める

日本は自分を下げることで相手を上げる謙遜の文化。でも自分を下げすぎると自己肯定感まで低下してしまう。そこで川村さんが提案するのが、「自分を下げずに相手を上げる方法」。つまり相手を褒めることだ。

「褒めグセがつくと思考が前向きになります。初対面の人を1分間褒め合う集団心理療法を行うと場が和み、人間関係もよくなります」

習慣3:「わからなくて、できないこと」は諦める

問題には解決できるものとできないものがある。「悩みすぎないためには、できないことは諦めるのが一番。その問題が解決可能かどうか、まずは仕分ける習慣を」と川村さん。

例えば「死んだらどうなるの?」といった問題は、そもそもわからないことなので捨てるが勝ち。勉強は自分の努力次第なので、実行あるのみ。病気は治療法がわかっても1人では解決できないので、他者のサポートを。

習慣4:週に1回、別人のように振る舞ってみる

「私はこういう人間だから」と、自分で自分のことを決めつけていないだろうか? 「今ある自分の考え方や行動が“自分”なのだとガチガチに捉えず、服を着替えるように別の考え方や行動を試してみてください」と川村さん。

例えば「内気だから自分からは話しかけられない」と思っている人は、週に1回でいいので自分から笑顔で「おはよう」と言ってみる。すると先方からも笑顔の「おはよう」が返ってきてハッピーな気持ちに。そんな小さな成功体験が自分自身を変えてくれる。

これはものの見方を修正して行動や気分を変える「認知行動療法」そのもの。お試しを。

大事な場面では感情を優先させよう

習慣5:せっかちをやめる

例えば「家族関係が悪化しているので、1日でも早く改善したい」。うつになる人は、こんなふうに“せっかち”な傾向が強いそう。「性急に結論を出そうとするとストレスが増すだけ。家族との関係がこじれても、1、2年後によくなっていればいいと、ゆっくり構えましょう。せっかちは禁物です」(川村さん)。

習慣6:時には理屈よりも感情を優先する

感情に振り回されると判断を誤るが、その一方で感情を優先すべきときもあるという。

「人生の重大事項を決めるときに、好き、嫌いといった感情をないがしろにすると、後になって悩みが深まります。選択の際は自分の心の動きに注目し、どんな感情がわいてくるか、ぜひ検討してみてください」(川村さん)

習慣7:人はみんなアホだと割り切る

“人は生まれながらにしてアホである”。大阪育ちの川村さんは、こんな「性アホ説」を唱えている。

「要は、人間は不完全な存在だということ。誰でも失敗するし、見栄も張るし、ストレスに押しつぶされそうにもなります。そういうアホな存在だということを認めると、心の中の葛藤が減り、素直になれるのです。あなたも『アホやなぁ』とつぶやいてみてください。肩の力がスーッと抜けますよ」

うつ発症から治るまでの期間を、川村さんは“冬”から“実りの秋”までの5段階に分けている。

例えば“冬”は最もつらい時期。うつの9症状のうち5つ以上に該当し、仕事や家事もできず、「本当に治るの?」と悲観的になりがちだ。このとき、脳内では多くの神経細胞が炎症によって死滅し、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質も非常に少なくなっている。

“初夏”から“夏”にかけて気をつける

川村さんは、このような状態を“田んぼ”にたとえる「田んぼ理論」を提唱している。「脳を田んぼに置き換えて考えると、複雑な脳の中の状態が理解しやすいのです。“冬”は田んぼが荒れて、稲、すなわち神経伝達物質を作れなくなった状態ですから、助っ人の力を借りて田んぼを復活させます。この助っ人に当たるのが、薬や運動、心理療法といった治療なんですね」(川村さん)。

田んぼは治療とともによみがえり、最終段階の「実りの秋」には稲がたわわに。ここまでくると治療が完了する。

治療内容は各段階で変わり、“冬”は抗うつ薬の服用が中心。その効果を実感し始める“春”からは、歩く運動療法も加える。「運動をすると神経細胞の回復を促す『BDNF(脳由来神経栄養因子)』という物質が増えます。家事に励むのもいい運動に。光を浴びることもおすすめです」(川村さん)

また調子がよくなる“初夏”から“夏”にかけては、考え方や行動の仕方を修正して、うつになりにくい自分を作る心理療法にも取り組む。

実は5段階の中で最も危うい時期が“初夏”だとか。症状が消えて「もう治った」と勘違いしやすいためだ。「この時期は急性期が終わっただけで、まだ完全回復には至っていません。薬をやめると“冬”に逆戻しやすいので気をつけて」と川村さん。

自分の今の状態とやるべき治療を確認することが、「実りの秋」、すなわちうつ卒業への第1歩なのだ。

【監修】
川村則行(かわむら のりゆき)/川村総合診療院院長。1961年生まれ。東京大学医学部医学科卒業。同大学院博士課程(細菌学)修了。国立精神・神経センター心身症研究室長などを経て、2011年開業。臨床分子精神医学研究所所長。近著に『うつ病は「田んぼ理論」で治る』(PHP研究所刊)

(取材協力:佐田節子)