ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 先週の桜花賞に続いて今週、牡馬クラシック第1弾のGI皐月賞(4月19日/中山・芝2000m)も無事に開催することができそうです。大変な状況のなか、そのことは本当にありがたいことだと思います。

 桜花賞と同様、皐月賞も今年はさまざまな路線から有力馬が集結。レベルの高い混戦模様といった雰囲気にあります。一冠目をどの馬が手にするのか、ということだけでなく、GI日本ダービー(5月31日/東京・芝2400m)に向けての争いにおいても、非常に重要な一戦となるでしょう。

 昨年は、年末のGIホープフルS(中山・芝2000m)を勝ったサートゥルナーリアが、同レース以来となる年明け初戦での皐月賞制覇という偉業を成し遂げました。私の現役時代と比べても、”休み明けの馬を走らせる技術”というのは、格段に向上しています。今や、トレセンを上回るような施設を持つ外厩もありますし、(馬を育成する)方法論も、トレセンの外で馬を扱うスタッフの意識も、昔とはだいぶ変わりました。

 余談ですが、私が皐月賞を勝たせてもらった時の相棒であるサニーブライアンは、前哨戦のGII弥生賞(中山・芝2000m)3着のあと、中山で行なわれたオープン特別の若葉S(4着。芝2000m)を挟んで、本番に臨みました。今では考えられないような使い方ですが、昔は普通だったんですよ。

 さて、今年はホープフルS(12月28日)の覇者コントレイル(牡3歳)と、GI朝日杯フューチュリティS(12月15日/阪神・芝1600m)の勝ち馬サリオス(牡3歳)という、無傷の3連勝でGI馬となった2頭が人気を集めることになりそうです。いずれも、それ以来となる今年初戦ではありますが、”休み明け”ということに関しては、心配する必要はないと思います。

 それでもこの2頭を比べると、安定感という点で、皐月賞ではコントレイルに軍配が上がるのではないか、と見ています。

 コントレイルがホープフルSに臨む前には、2000mの距離や小回りの中山コースに対して、不安視する声がありました。しかし、ふたを開けてみれば、好位で折り合って、すべての不安を払拭する完勝劇を披露。単純にこの時と同じ競馬をすれば、今回も軸として安泰と言えるでしょう。

 鞍上は、福永祐一騎手。大舞台で力のある馬に騎乗すると、折り合いを気にしすぎるあまり、消極的な競馬をしてしまうことが時に見られます。それこそ、中山・芝2000mのような立ち回りが問われるコースでは、取りこぼしの不安を抱いてしまうのですが、コントレイルなら問題はないでしょう。相当なスピードの持ち主でありながら、一度折り合えば、ピタッと収まりがつくのが強みですからね。

 片や、サリオスはここまでマイル戦に専念。そこから、今度は2000m戦の皐月賞という点が気になってしまいます。

 ポテンシャルの高さは、コントレイルにもまったく引けを取らないと思いますし、たとえばマイル戦が舞台となれば、サリオスが優勢でしょう。仮に東京・芝1800mで、サリオスとコントレイルが戦ったら、かなり面白い勝負になると思います。

 しかしながら、今回の舞台は中山・芝2000m。コントレイルはすでに同舞台を経験していますが、サリオスは2000m戦も、中山コースも、今回が初めてです。能力は五分だとしても、2頭の間には、皐月賞に臨むうえでの”準備の差”があるような気がします。

 この2頭のGI馬に割って入りそうなのが、弥生賞(3月8日)を快勝したサトノフラッグ(牡3歳)。人気のうえでも、GI馬2頭と並んで、三つ巴といった形になるのではないでしょうか。

 たしかに、前走・弥生賞の勝ち方が鮮やかでしたし、血統的な魅力もあります。さらに、鞍上にはクリストフ・ルメール騎手を配してきましたから、そうした評価となるのも当然です。

 ただ、前走は重馬場で、その馬場と展開を読み切った武豊騎手の好騎乗が光りました。つまり、サトノフラッグにとって、うまくハマりすぎたレースという印象があって、相手や頭数が変わる今回、同様の競馬ができるかどうかはわかりません。勝ち負けを演じるには、再び流れを味方につけられるかどうかが、カギになるのではないでしょうか。

 一方で、前走で連勝が止まって、評価を落としているマイラプソディ(牡3歳)は侮れない存在です。この馬も、新馬戦からGIII京都2歳S(11月23日/京都・芝2000mまで3連勝を飾って、2歳時は無敗でした。前走のGIII共同通信杯(2月16日/東京・芝1800m)を勝っていれば、コントレイルやサリオスに匹敵する評価になっていたに違いありません。

 個人的に同馬の評価を落とさないのは、4着に敗れた共同通信杯で、単純に言えば、主戦の武豊騎手が”皐月賞、ダービーのために脚を測った”レースをしたからです。勝ちにいくというよりも、馬のリズムに任せて、外を回してどこまで伸びてくるか、そんなことを試した競馬でした。もちろん、それで突き抜けていれば、本番に向けて、さらに自信を深めることができたと思います。

 しかし、あの日の馬場はやや重で、内が伸びる傾向でした。おかげで、結果を出すことはできませんでしたが、目標のGIのために「いい経験になった」と割り切っていいレースだと思います。

 馬券的には、このマイラプソディの巻き返しに期待するのも面白いのですが、さらに人気の盲点になりそうな馬がいます。「東のユタカ」こと吉田豊騎手が騎乗するクリスタルブラック(牡3歳)です。今回の「ヒモ穴馬」には、同馬を取り上げたいと思います。


皐月賞での一発が期待されるクリスタルブラック

 人気の馬たちに比べると、地味な存在ではありますが、クリスタルブラックも2戦2勝で、無敗の重賞馬です。前走、皐月賞と同じ舞台で行なわれたGIII京成杯(1月19日/中山・芝2000m)では、勝ちパターンだったスカイグルーヴを大外から差し切り。その勝ち方は、先週の桜花賞でレシステンシアを差し切ったデアリングタクトを彷彿とさせるものがありました。

 見た目には、折り合いをつけるのが難しそうに見える馬ですが、レースを見ていると、吉田豊騎手はしっかりと手の内に入れているように思います。序盤はガーッといくのですが、一度抑えが効いて折り合ってからは、ずいぶんと余裕があります。

 おそらく吉田豊騎手は、見た目以上に楽に乗っているのではないでしょうか。ゆえに、2戦ともしっかりと末脚を使えているのだと思います。

 2戦2勝という結果が示すとおり、中山向きであることは間違いないですし、最終週の荒れた馬場も向いていそうです。たぶん今回も、タメるだけタメて直線勝負、という形になると思います。展開次第で、いかにも2、3着に突っ込んできそうな1頭です。

 キズナの初年度産駒であるクリスタルブラック。先週の桜花賞を勝ったのは、エピファネイアの初年度産駒であるデアリングタクトでした。

 種牡馬になってからも、いいライバル関係にあるキズナとエピファネイア。現3歳世代においては、地方交流重賞を含めてここまで重賞5勝と、キズナ産駒の活躍が目立っていましたが、GI制覇はエピファネイア産駒が先を越すことになりました。 こうなれば、キズナ産駒も負けてられないでしょう。そういう意味でも、クリスタルブラックへの期待は膨らみます。なお、皐月賞には、ほかにも2頭のキズナ産駒(ディープボンド、キメラヴェリテ)が出走。こちらも注目です。