早くも2021年シーズンの入団内定が決まった樺山(興國高→横浜FM)、佐藤(明治大→G大阪)、森岡(法政大→磐田)。写真:浦正弘(左)、金子拓弥(中)、茂木あきら(右)。

写真拡大 (全2枚)

 感染拡大が続く新型コロナウイルス。日本では感染者数が8000人を超え、サッカー界でもJFAの田嶋幸三会長やヴィッセル神戸の酒井高徳などが感染し、大きな影響が出ている。

 現時点で2月21日に開幕したJリーグは開催を延期。6月から8月を目安にリスタートが考えられているが、依然として明確な再開の目処は立っていない。育成年代にもその影響は波及しており、ほとんどの大学、ユース、高校で試合が行なわれていない状況だ。

 関東大学サッカーリーグは3節まで中止を決めており、2種年代最高峰の戦いU-18高円宮杯プレミアリーグも現時点で開幕日が確定していない。ほとんどのチームは試合だけでなく、活動自体を自粛しており、自宅調整を余儀なくされている。この状況が長期に渡れば、コンディションの維持が難しくなり、彼らの進路に大きな影響を及ぼすのは間違いない。

 サッカー界はドラフト制度を敷いているプロ野球とは異なり、自由競争の下で新人選手の獲得が行なわれている。大学、ユース、高校の新卒選手は早い選手で昨季のうちに内定を決めているが、新シーズンの2月あたりから夏にかけて有望株の行き先が続々と決まっていく。実際に興國高の樺山諒乃介、平井駿助、田川知樹は、2月11日に横浜F・マリノスへの来季加入内定が発表されており、大学でも4月10日に明治大の佐藤瑤大が来季からG大阪でプレーすることが決まった。

 あくまで早期に決まる選手は昨季よりも前に目を付けられていた選手。その他の多くの者は、今季の活躍によってプロ入りの道を切り開かなければならない。となると、活動を行っていない現在はアピールする場がなく、ボーダーライン上にいる選手たちからすれば大きな痛手だ。

 実際にJクラブのスカウト陣も頭を抱えている。あるスカウトは2月初旬までは何事もなく視察が行なえていたが、2月中旬から徐々にクラブから行動自粛を通達されるケースが増えたとし、視察する場合は公共交通機関を使わない場合に限定されたクラブも出てきたと振り返る。
 
 感染拡大の地域差があり、高校年代では3月中旬まで各地で練習試合を実施してきた。大学年代でも3月下旬までトレーニングマッチを行なっていたため、選手をチェックする機会は少なからずあったとも話す。しかし、現在はそうした情報を入れる機会は一切なくなった。

 スカウト陣が一番気に掛けているのは、選手たちの未来である。「子どもたちが一番可哀想」と前述のスカウトが話すように、アピールする場がないことが最大の問題。特に影響を受けるのはボーダーラインにいる子どもたちで、昌平高の藤島崇之監督も「去年の選手権で活躍し、まだJクラブの練習に参加していない選手がうちにもいる。そのような選手が陽の目を見られないかもしれない」と頭を抱えている。

 昨季までにアピールに成功し、目を付けられていた選手は早々にピックアップされていく。しかし、今季の活躍や成長度合いによって見極められる選手たちや、最終学年で可能性を示す“隠れた逸材”たちがこのまま埋もれていく可能性が高い。さらにここから影響を及ぼすのは、次の進路を決める作業だ。

 例えば、高校年代では夏のインターハイでチームが収めた結果が大学の推薦に関わってくる。万が一中止になれば、大学側の判断材料がひとつ減ってしまう。もちろん、大学側も何らかの救済処置を考えるはずだが、例年通りに事が進まないのは明白だろう。“コロナ禍”が夏頃までに収束しなければ、早めにプロ行きを断念する選手が増える可能性もあり、大学の推薦枠を巡る競争がより激化したとしても不思議ではない。

 逆に大学生で生じる問題は、就職である。例年、一線級の選手がJ入りを決めた後に、次のボーダーラインにいる選手たちが進路を決めていく。特にJ3は10月以降にラストチャンスを生かした大学生を獲得していく傾向がある。しかし、新型コロナウイルスの影響で経済が悪化すれば、例年以上に就職活動が難しくなるのは想像に容易い。早々にプロ入りを断念し、一般企業への就職を決める選手も出てくるはずだ。
 こうした状況を踏まえると、高校3年生や大学4年生でプロ入りを目指す選手に求められるのは、言うまでもなく再開後のアピールだ。前述のスカウトは言う。

「今後は自粛中にどういう取り組みをしていたのかを見ますし、再開した後が絶対にチャンス。スカウト陣は限られた時間で選手を見出さなければいけないので、なり振り構わずに視察に行く可能性が高いと思います。そこでアピールができれば、可能性は十分にある」

 一生に一度しかない高校や大学の最終学年で、彼らは未曾有の危機に見舞われた。現在はサッカーをやっている場合ではないし、人生を考えれば、サッカー選手になる事が正解とも限らない。しかし、彼らにとっては幼い頃から描いてきた夢を簡単に諦めるわけにはいかないのも事実だ。

 与えられた環境でどれだけのアピールができるか。プロへの切符を掴み取ろうとする選手たちの取り組みを、きっとスカウト陣もつぶさに見ていることだろう。

取材・文●松尾祐希(フリーライター)