湘南ベルマーレ・岩崎悠人インタビュー@後編

 現在21歳の岩崎悠人は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、1年の延期が発表された東京五輪世代の選手である。

「滑り込みでもいいから、メンバーに絡んでいきたい」

「湘南ベルマーレ・岩崎悠人インタビュー@前編」はこちら>>>


東京五輪世代の岩崎悠人に今の心境を聞いた

 東京五輪への思いは強く、それが今シーズン、湘南ベルマーレに期限付き移籍する決め手にもなった。

 昨シーズン在籍した北海道コンサドーレ札幌では、リーグ戦わずか8試合の出場。京都サンガで迎えたプロ1年目から主力として活躍してきた岩崎にとって、「初めての大きな挫折」だった。

 ただ、湘南でプレーするようになって、札幌でもがき苦しんだ1年間が無駄ではなかったことを知った。

「コンサドーレでは(3−4−2−1の)シャドーでプレーすることが多かったんですけど、ミシャさん(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)はDFの背後に抜けるプレーに関して、ゴールから逃げるように相手の背後を取る動きを求めていたんです。ゴールから遠ざかるような、プルアウェイの動きとでも言えばいいんですかね。


 それまでの自分はどちらかというと、縦に背後へと抜ける動きが多かったんです。ベルマーレは主に3−5−2なんですけど、自分が2トップの一角に入った時、やはりプルアウェイの動きでボールをもらう回数が多かったんです。

 後方のDFからボールを受ける時、斜めに走って裏でもらう。まさにミシャさんに求められていた動き。その時、自分のなかにその感覚があるな、ということを感じたんですよね」

 インタビューは新型コロナウイルス対策の一環で、お互いにマスクを着用し、距離を取って行なっていたが、岩崎は自分が座る椅子の前にある机をピッチに見立てて説明してくれた。

「だから、札幌での日々は無駄にはなっていなかったんですよね。まだまだ完全に身についたとはいえないですけど、一瞬の動き、オフザボールの動きは、ミシャさんのおかげで勉強になりました。自分のなかにストライカーとしての引き出しが増えたなということは今、すごく感じているんです」


 浦和レッズとのJ1開幕戦にFWではなく右サイドで途中出場したように、湘南では新境地にも挑戦している。京都時代に4−4−2のサイドMFを経験したことはあったが、3−5−2の右ワイドでプレーするのは初のことだという。

 新たな環境で、新たな自分に挑戦していく。札幌時代に失いかけた自信を徐々に取り戻していった先にあったのは、新しい発見だった。

「今までもそうだったんですけど、自分が躍動しているときってどんな時だろうと考えたら、ゴール以外の部分では、サイドでドリブルしている時だったんですよね。自分はドリブルしている時、ストライドが大きいんです。

 サイドだとスペースもあるので、ストライドが大きくても、スピードの変化で相手を抜けていたところがありました。中央でプレーすると、ステップを細かくしなければいけないですし、ストライドの大きなドリブルはできない。そういう部分でも、自分の新たな課題が見えてきたと思っています」


 身長173cm。決して体格に恵まれているとはいえない岩崎の強みはどこあるのか。それは、本人の口からも出たように「ドリブル」にある。

 やはり本人が語ってくれたように、試合ではストライドの大きなドリブルで前線へと駆け上がり、一気にチャンスを作り出す躍動感がある。

 さらに特筆したいのは、「もうひとつ前にボールを運べる」という加速力であり、推進力だ。それにより、ゴール前では抜け出すこともできるし、サイドでは相手を抜き切ってクロスを上げることもできる。擬音で表現すれば、まさに「ギュイン」。

 それを本人にぶつけると、岩崎は大きくうなずき、マスクからこぼれそうな笑顔を見せた。

「たしかに、たしかに。それは最大の特徴かもしれないですね。細かいところかもしれませんが、苦しいところからちょっと足を出せたり、寄せられたところから身体をグニャッと入れられたり、そこは特徴かもしれません」

 まるで野生の動物のようなしなやかな動き。その秘密は、6年目に突入したというパーソナルトレーニングにあるという。京都橘高校時代に出会い、今なお続けているという『JARTA(ジャルタ)』だ。


「ひと言で言えば、動物的な動きに寄せていくトレーニングで、無駄な動きをそぎ落としていくんです。ドリブルしている時や、切り返しの時もそうですが、余分な力を出しすぎないようにしているので、だから最後まで行き切れるのかもしれません」

 その強みが最大限に発揮されるのは、カウンターである。

「ひとりでボールを奪って、ひとりで仕掛けていく。切り返しをする場面でも活かせるように、身体の重心の乗せ方とかもトレーニングしているのですが、ちょっとずつ速くなってきている手応えはあります。だから、カウンターではひとりで最後までフィニッシュできるように、この1年でさらにパワーアップしたいですね」

 一方で、湘南に来て、新たに見つけた課題にも向き合っている。

「ベルマーレは今まで、粘り強く戦ってカウンターで仕留めるというイメージだったんですけど、(浮嶋)敏さんが監督になって、今シーズンはとくにボールをつなぐこと、自分たちでボールを保持していくことにもトライしています。まだまだ、チームも、自分自身も、ボールを奪ったらカウンターに行ってしまうところがあるので、そこは変えていかなければと思っています。


 カウンターができない時に、どう攻撃のバリエーションを増やしていくか。自分としては6年間、パーソナルトレーニングを行なって、ストライドの大きなドリブルが身体に染みついてしまっているところもありますが、それを活かしつつ、狭いスペースでは細かいステップで相手を抜けるように、さらに改善していければと思っています。

 でも、この中断期間中にそこに気づいたり、修正できてきているだけでも、自分にとっては大きなことですよね」

 自分自身のプレーを振り返れば、高校時代や京都時代には、積極的にシュートを狙いにいっていたのにパスを選択したり、躊躇したりする場面も増えていたという。それも、浮嶋敏監督にポジティブな言葉をかけてもらったことで、かつての自分を取り戻しつつある。

「今は常に自分のプレーができることと、常にゴールを目指すプレーを意識しています。監督もそこに気づいてくれて、言葉をかけてくれるんです。それを思い出させてくれた敏さんにはすごく感謝しています」


 野望を聞けば、急に21歳の青年に戻り、イタズラっぽく「僕、アーティストになりたいんですよ」と笑った。

「アーティストの人って、たとえばライブをすればスポットライトを浴びて、ずっとゴールパフォーマンスしているみたいなものじゃないですか。ピッチに立つと、目立ちたいという欲は強いかもしれません。だからサッカーは、自分を表現する場所なんですよね。それこそゴールを決めた瞬間は、それが最大級になりますから」

 プレーだけでなく、ファンサービスにも積極的である。聞けば中断期間中にクラブが行なうようになったインスタグラムでのライブ配信は、岩崎の発案だという。その後、クラブと選手会長の大野和成が話し合い、実現に至った。

「みんな、いろいろなことを我慢して生活している。たとえばベルマーレのサポーターであれば、ベルマーレロスになったりしているわけじゃないですか。暗い話題も多いので、できる範囲にはなりますけど、いろいろなことをして、みんなを勇気づけられたらと思います。


 再開した時には、いい状態でまたサッカーが楽しんでもらえるように、自分も前向きに生活しているので、みなさんも手洗いうがいをはじめ、体調管理には気をつけて生活してもらいたいなと。だって、サッカー選手だけでは、試合は盛り上がらないですからね」

 1年延期された東京五輪に出場する夢や目標も、あきらめてはいない。

「きっと個人競技の方や減量などをしてきた選手にとっては、1年という数字は気が遠くなる期間だと思います。でも、昨年アピールできなかった自分にとっては、こうしてまた1年、時間をもらえたと思うと、プラスに考えられる。

 ただ、それがプラスだったと言えるのも、来年、メンバーに入って初めて言えること。延期された分、また競争も激しくなると思いますけど、2021年になったことで、自分にとってはチャンスが増えると思っています」

 ゴールを決めて、スタジアムに詰めかけたサポーターから歓声を浴びる。再びスポットライトに照らされる日を思い描きながら、岩崎は日々前進している。

 そこには確実な成長の足跡がある。なにより今の彼は、しっかりと自分自身を見つめている。

【profile】
岩崎悠人(いわさき・ゆうと)
1998年6月11日生まれ、滋賀県彦根市出身。2017年、京都橘高校から京都サンガF.C.に入団。2年プレーしたのち、北海道コンサドーレ札幌に移籍する。今シーズンより期限付き移籍で湘南ベルマーレに加入。日本代表にはU−17から世代別代表に選出されている。ポジション=FW。173cm、70kg。