1/10フランス人写真家のマガリ・シェネルは、2人乗りウルトラライトプレーンから航空写真を撮影している。PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL 2/102016年、南仏のカマルグ地方にある色鮮やかな塩沼地帯を自転車で走っていたときのことだった。この景色を空から見たらどんなだろうと、シェネルは思った。2人乗りウルトラライトプレーンでの45分間のフライトを宣伝するパンフレットを彼女が目にしたのは、ちょうどそのときだった。PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL 3/10めまいに悩まされているシェネルだが、カメラを片手に搭乗を申し込んだ。自分でも驚いたことに、彼女はウルトラライトプレーンのとりこになった。気がつくと、無我夢中で眼下の景色を撮影していた。PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL 4/10熟練した画家でもあるシェネルによるとその景色は、20世紀半ばに活躍したアメリカの画家マーク・ロスコの絵を思い出させたという。PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL 5/10シェネルが撮影したなかには、ピンクやオレンジに変色している湿地があった。ドナリエラサリナという藻が繁殖しているためだ。PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL 6/10塩類化の度合いや藻の種類によっては、グリーンやゴールデンイエロー、ブラウンになっている湿地もあった。PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL 7/10シェネルは撮影した写真をオンラインに投稿し、フォトコンテストにも出品した。そして『National Geographic』誌や『The Independent Photographer』誌、『All About Photo』誌から賞を与えられた。PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL 8/102018年、シェネルは前年に巻き込まれた大きな自動車事故から回復したものの、ウルトラライトプレーンに乗っての空撮はできない体になってしまった。ドローンを使った撮影に手法を切り替えたが、それは飛行機からの撮影とは比べものにならなかった。PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL 9/10「ドローンでもいい写真は撮れます。でもウルトラライトプレーンなら、こんな素晴らしい体験もできるんです」とシェネルは語る。「空の上にいると、自分に対して穏やかな気持ちになれるんです。そこには、人生最高の瞬間があります」PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL 10/10その平穏感は、シェネルの航空写真にも見て取れる。そこには、禅のような穏やかさがたたえられている。「地上から見ると、まったく魅力的に見えないものであっても、空から見ると美しくなるのです」と彼女は言う。PHOTOGRAPH BY MAGALI CHESNEL

マガリ・シェネルは、めまいに悩まされている。そんな彼女がのめり込んでいるのは、空高くから写真を撮ることだ。めまいのせいで彼女が空撮をやめることはない。

「大空から見下ろした世界が、まるで抽象画のように見えてくる:ある写真家が南仏で捉えた10のシーン」の写真・リンク付きの記事はこちら

母国であるフランスのカマルグ地方にある色鮮やかな塩沼地帯を、2016年に自転車で走っていたときのことだった。2人乗りのウルトラライトプレーン(超軽量動力機)での45分間のフライトを宣伝するパンフレットが置いてあるのを、シェネルは目にした。数十年ほど前から人気を集めるようになったハンググライダーのような飛行機だ。

やや不安もあったが、カメラを片手に搭乗を申し込んだ。機体が離陸すると、彼女は驚いた。気がつくと無我夢中で眼下の景色を撮影していたのだ。

「うまく説明できませんが、自分だけの世界にいるような気分でした」とシェネルは振り返る。「安らかさと心地よさを感じていました。もしガラスの橋の上に置かれたら、きっと足がすくんでしまうだろう、このわたしがです」

南仏の海辺の風景は、空から見ると抽象画のように見えることをシェネルは知った。鮮やかな色の帯が、互いににじみ合っている。その眺めは、まるで20世紀半ばに活躍したアメリカの画家のマーク・ロスコの絵を思い出させた。

そこにはドナリエラ・サリナという藻が繁殖しているせいで、ピンクやオレンジに変色している湿地があった。塩類化の度合いや藻の種類によっては、グリーンやゴールデンイエロー、ブラウンになっている湿地もあった。

「絵画と写真の境界線に挑むのが好きなんです」と、シェネルは言う。画家としてのキャリアを積んできた彼女は、こうして最近になって写真家に転身した。

人生最高の瞬間

シェネルは撮影した写真をオンラインに投稿し、フォトコンテストにも出品した。そして『ナショナルジオグラフィック』や『The Independent Photographer』『All About Photo』といった雑誌から賞を与えられたのだ。

ところが、17年にフランスの一大写真フェスティヴァル「Les Rencontres d’Arles」に参加していたシェネルは、自動車事故に巻き込まれてしまった。そして脊椎の手術を繰り返し受け、歩けないまま次の1年を過ごした。一時的に空を飛べなくなってしまった彼女は、ドローンを買って航空写真の撮影を続けた。

ようやくシェネルが歩けるようになったのは、18年も後半になってからだった。しかし、彼女のお気に入りだったパイロットは、すでに引退してしまっていた。ほかのパイロットが操縦する飛行機で撮影を試みたものの、結果は満足のいくものではなかった。

「わたしにとって必要なのは、その人が何を求めているのかわかってくれるパイロット、眼下のエリアのことを熟知しているパイロットなのです」と、彼女は言う。ドローンがもつ柔軟性は評価しているシェネルだが、実際に自分が空を飛ぶ体験とは比べものにならないという。

「ドローンでもいい写真は撮れます。でもウルトラライトプレーンなら、素晴らしい体験もできるんです」と彼女は語る。「空の上にいると、自分に対して穏やかな気持ちになれるんです。そこには人生最高の瞬間があります」

禅のような穏やかさに満ちた世界

その穏やかな空気は、彼女の航空写真にも見てとれる。そこには禅のような穏やかさがたたえられている。シェネルの願いは、これらの写真を観る人が、しばし日々の悩みから解き放たれて、新たな視点で世界を俯瞰できるようになることだ。

「地上からではまったく魅力的に見えないものであっても、空から見ると美しくなるのです」と彼女は言う。めまいを感じるかどうか、それもすべては世界をどう見るかによる、ということのようだ。