多くのエリートを輩出している名門男子校。

卒業生と聞いてあなたはどんなイメージを持つだろうか。

実は、思春期を"男だらけ"の環境で過ごしてきた彼らは、女を見る目がないとも言われている。

高校時代の恋愛経験が、大人になってからも影響するのか、しないのか…。

社会人となった彼らの不器用な恋愛模様を覗いてみよう。




<今週の男子校男子>

名前:良昭(25歳)
学歴:早稲田中学校・高等学校→早稲田大学商学部
職業:外資系投資銀行
住所:日本橋
デート相手:日系証券会社エリア総合職

僕の卒業した高校は、“早稲田高等学校”だ。

早稲田といっても首都圏に4校あるが、その中でも僕が卒業した“早稲田高校”は特に真面目で大人しい雰囲気の学生が多い。

僕も例に漏れず卓球部の芋学生で、楽しみといえば、部活帰りに学校横のファミマで買い食いすることや仲間と早稲田駅前のマックでモンハンをひたすらやり込むことだった。

有名高校ということで盛り上がる文化祭の「興風祭」。

毎年ナンパを試みたが、女子高生に睨まれてばかりで成功した記憶は一度もない。

そして、大学に入ってからも状況は何も変わらなかった。

僕は入学式の後、サークル勧誘で熱気溢れるキャンパス内を高校の同級生と歩いていた。

「楽しいサークル入って、可愛い彼女作ろうぜ!」

人混みの中をもみくちゃになりながら一歩進むたびに、色とりどりのビラが押し付けられる。

ようやく大隈銅像までたどり着いた時、人混みを押しわけて一人の女子が駆け寄ってきた。ふんわりとカールがかかった茶色の髪にショーパンから覗く細い脚。

「男子は早稲田、女子はインカレのテニスサークルだよ♡」

ーうわ、なんて可愛い女子なんだ!それに、なんだかいい匂いがする。


ビラに手を伸ばした瞬間に女が放った、男のプライドを傷つける一言とは


「ごめん、こっちの彼なの」

ビラに手を伸ばした瞬間、その女は僕の手を払いのけ、すぐ横にいた高身長の新入生にビラを押し付ける。

思わず僕と同級生は顔を見合わせたが、見慣れたはずのそいつの伸び放題の髪が、妙に脂ぎって見えた。

確かに高身長の男は端正な顔立ちをしたイケメンだった。でもせめて、オマケでもいいから、手を伸ばした僕にだってビラくらいくれてもいいだろ。

「インカレの女どもが。どうせ早稲田の男にたかりに来たくせに…」

結局僕たちは華やかなサークルには勧誘されず入学初日にして、劣等感を味わうこととなった。1人になり歩いていると、人混みの中から高校の先輩が声をかけてきた。

「久しぶりだな、元気か?俺が幹事長の株サークルに入ろうぜ!」

そのサークルは早稲田高校出身者が立ち上げた経緯がゆえに、自然と見知った顔が集まっていた。

株サークルに株式・投資コンテスト、飲み会、バイトに徹夜で麻雀。女っ気は全く無かったが、大学生活に不満はなかった。

だが、今でもたまに思い出すことがある。文化祭や新歓で味わった、男としての劣等感を…。


サラリーマンの頂点に、のぼり詰めた男


社会人になってから僕の生活は一変した。

サラリーマンカーストの頂点、外資系投資銀行に就職したからだ。

とある金曜日、21時の麻布十番。

お食事会ってやつに同期3人でやってきた。相手は同期が西麻布のバーでナンパした同い年の3人組だ。

先輩に「とりあえずここ行っとけ」と教えてもらった『Mancy's Tokyo』

海外のレストランのような開放的な1階を抜け、シックな2階へ足を踏み入れるとなんだか落ち着かなくてソワソワしてくる。

気合いを入れるかのようにネクタイをキュッと締める。

「お待たせしました〜!」

待ち合わせ時間に15分遅れて、個室のドアが勢いよく開き2人の女子が入ってきた。

身体のラインを強調したワンピースにハイブランドに疎い僕でも一目で分かるルイ・ヴィトンやシャネルのバッグ。甘ったるい香水の匂いが鼻をかすめる。




「とりあえず乾杯は泡だよね!よろしく」

−泡じゃなくてシャンパンだろ。

心の中で毒づく。

「リサっていいまーす♡趣味はヨガと料理です」

薄っぺらい自己紹介がはじまった。

「良昭です。趣味は麻雀です」とぶっきらぼうにつぶやく。

女達は6人では食べきれないほどの食事を、気ままに注文しはじめた。真っ赤なグロスが塗られた艶やかな唇や、妙に違和感のある昆虫の足のようなつけまつ毛は、インカレサークルの勧誘をしていた女たちを彷彿させる。

「何でも好きな物食べていいよ」
「お腹空いちゃったから嬉しい!」

普段鬼気迫る勢いで財務分析をやっている同期2人は、人が変わったかのようにデレデレしている。

小学校では運動神経がいいヤツが、中高では遊んでるヤツが、大学では高学歴のイケメンがモテる。

だけど社会人になった今、一番モテるのはいずれでもない。金を持っている奴だ。

ーこいつらも僕たちが普通のサラリーマンだったら来なかったんだろ?

女子から相手にされなかった学生時代の嫌な思い出が蘇り、1人輪に馴染めずにいた。

しばらくしてドアが開き、最後の1人が入ってきた。小さな顔にほどこされた控えめなメイクにつやつやの黒髪。

「遅れてすみません…。隣、いいですか?」


遅れてやってきて隣に座ってきた、“清楚系女子”の正体とは?


香菜と名乗る女は、ぺこりとお辞儀をして僕の横に座ってきた。他の女子とは違い、優しげな色で統一された服に白のシンプルなバッグ。

「こういう場所、慣れてなくて」
「俺も。麻布十番なんてたまに来るくらいだよ」

薄ピンクの柔らかそうなニットから覗く、華奢な鎖骨に思わずドキッとする。

「実は私リテールやってて、同業者なんです…」

どうやら香菜は日系の大手証券会社でリテール営業をしているらしい。毎朝の日経新聞の読み込みに外回り営業。部門や会社は違えど、同じ証券業界ということもあり、気がつけばお互いの仕事の話で盛り上がっていた。

体力的にも精神的にもタフさを求められる環境で、見た目の印象とは裏腹に粘り強く努力を重ねているようだ。

「支店で働いている私からすると投資銀行って華やかなイメージがあったんですけど、実情は泥臭いんですね」

香菜はくすっと笑った。

食事会にくる女たちはどうせ肩書き狙いだと諦めていたが、彼女は見た目も可愛い上に仕事にも真剣だ。

気がつけばシャネルの女と同期が肩を組みながらカラオケを熱唱している。もう1人の同期はヴィトンの女とお手洗いに行くと出ていったまま、帰ってくる気配がなかった。

「良かったら今度一緒にご飯でも行かない?」

こくんと、恥ずかしそうに頷く香菜。

付き合うなら見た目や肩書で判断しない、素直で優しい女の子がいい。僕は先輩に教えてもらったデート向きのお店を頭の中でリストアップしていた。


香菜の正体


六本木の高級レジデンス。

大理石の玄関でマノロ・ブラニクのパンプスを脱ぎ捨てる。

私はお食事会を終え、欧州系投資銀行で働く彼氏のマンションに帰ってきた。

彼は激務とパワハラに3年間耐え抜いてきたが、最近は睡眠薬を飲んでも眠れないと言っている。

「ごめん、俺はもうダメかもしれない」

今朝もそう言い残し、会社へ行ったまま帰ってくる気配はない。

私は女子大の英文科で一緒だった同級生2人と、外銀マン相手のお食事会をこなしている。

優良株でポートフォリオを組んで、もしもの時の暴落に備える。

−男だって、株と同じ。1人の男に集中するのは危険だ。

だけどこの前、丸の内にある投資銀行のディレクターのバースデーパーティーに参加した時、ジュニアの男の子たちが「あの女、元カレ全員がうちの業界らしい」と友人の話を耳打ちしているのを聞いてしまった。

狭い業界ゆえに、すぐに噂がたってしまうことは分かっている。  

だからこそ、派手でパーティー好きな2人とは違い、私は地味専と決めている。それに外銀マンはモテるからすぐに女を見る目が厳しくなる。だから目が肥えていない若手を狙うに限る。

きっと良昭くんは彼氏にねだって買ってもらったValextraのバッグとサマンサタバサの違いなんてわかってないんだろう。

ーそれにしても、リテール話への食いつきよかったな。

社会人になってからの食事会では、仕事の話をするようになったからか、若さだけが取り柄だった大学時代よりも確実に手応えを感じている。

「香菜は絶対リテールに行った方がいいよ。人当たりもいいし、ガッツがあるから売れると思う」

就活で大手メーカーの一般職と証券会社のエリア総合職に内定した時、良昭くんと同じ会社のトレーダーだった元彼に言われた言葉を思い出す。

ーブルル。

良昭くんからLINEだ。長文のお礼と共に、次回のデートのお店が送られてきた。

西麻布の和食。ここは外銀男子と訪れるのは3回目になるけど、新卒3年目の男子の提案にしては合格点かな。まあでも、このチョイスは絶対会社の先輩に教えてもらったんだろう。

太い眉毛が印象的な野暮ったい彼の顔を思い出す。食事相手のポートフォリオになら入れてやってもいいかも。

そういえば良昭くんは中学から早稲田だと話していた。

ーきっと、昔から冴えない真面目くんだったんだろうな…。

あーいうタイプは、社会人になってから女子アナとかCAとかわかりやすい肩書がある女子を手に入れたいと思うタイプと、真面目な清楚系女子を好むタイプにわかれる。

私が遅れて入ってきた瞬間の彼の表情をみて、すぐに後者だとわかったから隣に座った。

窓の外に広がる煌々と明かりの点いた六本木の夜景に背を向け、丁寧なお礼とうさぎのスタンプを返すと1人ベッドに潜り込んだ。

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