●担当業務未経験者に任せてRPA導入がスムーズに

○RPAで複数のシステムを横断した業務の生産性向上を

小菅不動産は、神奈川県の中央部に位置する大和市で1968年から地域密着型の不動産会社として事業を展開してきた。賃貸管理事業・賃貸仲介事業・売買仲介事業・リフォーム事業・資産コンサルティング事業と不動産に関わる広い範囲のサービスを提供している。

東京都心部と神奈川県内の両方に通いやすく、鉄道路線が複数通っていることから市内に8つの駅があるなど生活しやすいことで人気の大和市で事業を拡大してきた小菅不動産が、RPA導入に興味を持ったのは2019年初頭だったという。

「AIやIoTといった技術が進化する中、契約申し込みなど不動産業界でもWebからできることが増えてきました。それぞれの機能に対してすぐれたサービスを導入したいのですが、標準ではサービス間の連携が難しいのが現状です。こうした中、RPAなら、さまざまなサービスを連携して業務の効率化を図ることができるのではないかと考えました」と語るのは、小菅不動産 取締役の飯嶋実氏だ。

小菅不動産 取締役 飯嶋実氏

いくつかの製品を検討する中で出会ったのが、2019年1月にNTT東日本がリリースしたばかりの「おまかせRPA」だった。同製品は、日本語手書き文字を高精度で読み取るOCRサービス「AIよみと〜る」と、RPAツール「WinActor」に導入運用サポートを組み合わせたサービスだ。

「おまかせRPAは、対応できる業務の範囲が広く、サポートもあった点が魅力でした。今後、RPAをさまざまな業務に導入していくことを計画していたので、対応力の高さは導入の決め手となりました。7月には導入を決定してテストを開始しました」と、飯嶋氏は選定の経緯を振り返る。

○OCR+RPAで不動産契約業務を効率化

最初にRPA化が行われたのは、契約関連業務だった。利用客が手書きした契約書をスキャンし、OCRで読み取り、データ化するという仕組みだ。

「一番負担が大きく、ミスが出やすい業務ということから、契約関連業務から手をつけました。従来は手入力をしながら自己チェックを行っていましたが、自分でミスを見つけるのは難しいものです。そのため、第三者のチェックを入れていたのですが、それでは時間がかかります。しかし、OCRで自動的に読み取り、ロボットに入力を任せられるようになれば、最終チェックを行う1人で業務が回るようになります。2回目のチェックを担当していた人は他の業務ができるようになるわけです」と、飯嶋氏は契約業務にRPAを導入する狙いを語った。

導入にあたっては、OCRで対応しやすいように契約書の書式を変更するなどの準備も行った。店頭では手書きで書き入れてもらい、書類のまま支店から本社へ回収した後、本社でOCR業務を行っているという。

「お客様の書き損じや大きく枠をはみ出して書かれた文字などには対応できませんが、OCRの読み取り精度は期待以上です。複合機のスキャナ機能ではズレが出るため読み取りにミスが出やすいけれど、シートフィーダー型ならうまくいくなど、経験で学んだこともあります。OCRのミスはチェックしなければならないため、完全に自動化はできませんが、スムーズに利用できるようになりました」と、飯嶋氏はRPA導入の満足度を語る。

WinActorを活用した「おまかせRPA」の画面例

AI-OCRサービス「AIよみと〜る」の画面例

○業界経験なしの新人担当者もすぐに一人前に

現在、従来型の手入力作業も残しているものの、OCRで処理する件数が増えたことで、業務的な負担は大きく軽減しているという。

「年間1400件ほどの契約があるのですが、そのうち1000件くらいはRPAで対応できそうです。RPAを導入した結果、残業も減りました。3月は繁忙期なのですが、例年ならば平日は22時くらいまでかかるのが当たり前、時には休日を変更して対応しなければならないこともありました。ところが今年は、定時に帰れる日もあるくらいです。さらに、ミスも大きく減りました」と飯嶋氏。

大きな手応えを得ている小菅不動産だが、最初からスムーズに進んだわけではなかったという。本社に対応端末を1台用意してスタートしたが、その端末がしっかりと使われるようになってきたのは2019年の末だった。

「はじめはエラーを出すこともあったり、担当者が慣れたやり方のほうが早いと言ったりするなど、利用が進みませんでした。しかし、人事異動があり、不動産業界で働くのは初めてかつ別部署で1カ月仕事をしただけという人が契約関連の部署に配属されました。契約業務を行ったことがないその人にRPAを担当してもらったのですが、2カ月もするとベテラン担当者と同じレベルのスピードで、契約全体の6割ほどの業務量がこなせるようになったのです。今では1人でRPA業務を担当してくれています」と飯嶋氏は語る。

RPAを導入するにあたっては、現場からの抵抗が出てきやすいと言われているが、先入観のない担当者を得たことで、小菅不動産ではRPAの効果を出すことができ、周囲の理解も進められたようだ。

●お客さまの大事な財産を預かる不動産業にRPAは不可欠

○データ集計や社内システム間の接続にも導入予定

契約業務のRPA化に成功した小菅不動産では、今後、RPAを導入する業務を広げて行く予定だ。特に社内にある各種データの集計や工事発注業務に生かしたいという。

「当社はオーナーへのコンサルティング業務も行っているのですが、その根拠となるデータの集計や分析をもっとしっかり行いたいですね。エリアごと、間取りごと、入居人数ごとにどのような傾向があるのか。どんな設備があると物件価値が上がるのか。そうした分析を行うためのデータ集計が、今は通常業務の忙しさから年に1度程度しかできていません。しかも、全体を見渡すのが難しいため、集計エリアを区切っています。市単位などの大きなくくりではなく、地域ごとに狭く細かいデータを取得できるのが地元業者の強みなので、しっかり対応したいですね」と飯嶋氏。

現在は不足するデータを担当者の経験や感覚で補っているところがあるが、データ集計・分析が進めば根拠のある数字を示すことができ、経験の浅い担当者でも十分なコンサルティングを行える可能性が高くなる。

「データの転記など、現在は社員がやっている雑務もRPA化していきたいですね。契約業務は、夏頃には100%RPA対応にしたいと考えています。今後もやりたいことはたくさんあります。例えば、工事発注システムや夜間コールセンターなどについても考えています。RPAに各システムのつなぎ役をどう担ってもらうかがカギとなります。今は、NTT東日本にロボット作成をしてもらっていますが、いずれは内製したいと考えています」と、飯嶋氏は展望を語った。

小菅不動産では現在、基幹システムのリプレースや工事一括発注システムの導入などを予定している。また、契約申し込み自体をタブレットで直接入力する「スマート申込み化」を導入する予定もあるという。各種システムが刷新されて体制が整えば、さらにRPA化が進められ、業務の効率化を図ることができる見込みだ。

○RPAにミスのない事務処理を任せ、人は会う・見る・提案に注力

業務の中からロボットに任せられる作業を探し出し、RPA化する。その先には、人間には人間にしかできない業務を担当してほしいというのは、RPAを導入するすべての企業に共通することだろう。当然、小菅不動産でも同じ狙いがある。

「社員には、提案など人にしかできない業務をしてほしいと考えています。手間や時間を削るのは社内のことだけで、お客様に対する業務は効率化してはいけないはずです。会いに行く、見に行くという手間は削らない。それが地元企業の強みですから。物件を見に行けば、書類ではわからない建物の傷み具合もわかりますし、オーナーと会話する中でメンテナンスを勧めることもできます。顔を合わせる機会が少ないことで他社に発注されていたメンテナンス工事を取得できるようになることも期待できますね」と飯嶋氏。

導入から半年がすぎ、一定の効果を出した上で、さらなるRPA活用を狙っている飯嶋氏は「不動産業界の事務処理にはRPAが必要」と指摘する。

「不動産業は、法律に従って何でも書類で残す必要があります。また、自社製品を販売しているわけではなく、お客さまの財産を預かって権利を売る業務ですから、間違えた時の対応も大変です。しかし、人はミスをするものです。ですから、正確でミスのないロボットは魅力的なのです」と、飯嶋氏は力強く語った。