新型コロナウイルスの流行を受け、人けが少なくなった米首都ワシントンのナショナル・モール(2020年3月31日撮影)。(c)Andrew CABALLERO-REYNOLDS / AFP

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【AFP=時事】わずか3週間前、米首都ワシントンの郊外、メリーランド州の高級住宅街にあるフレンチ・レストラン「ラ・フェルム(La Ferme)」のウエーターだったミゲル・ロドリゲス(Miguel Rodriguez)さん(55)は人生を楽しんでいた。米経済は好調で、ロドリゲスさんの暮らしぶりも良かった。

 ところが一夜にして、すべては変わってしまった。新型コロナウイルス流行による州規模の封鎖に伴い、ロドリゲスさんが20年勤めてきた店は閉店を余儀なくされ、別のレストランでウエートレスをしていた妻も職を失った。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)で米国では瞬く間に数百万人の労働者が収入を失い、貧困に陥った。この危機によって露呈したのは、世界一の経済大国・米国でますます広がる深刻な格差だ。

 真っ先に打撃を受ける中低所得家庭には、貯蓄というものがほとんどない。「2008年の金融危機からようやく立ち直った数百万人の米国人にとって、とてつもない打撃だ」と、米シンクタンク「外交問題評議会(Council on Foreign Relations)」のエドワード・オールデン(Edward Alden)氏は言う。

 同氏によると、実質賃金は経済危機後8年かかって回復したが、低所得労働者の間でも伸びるようになったのはここ2年ほどのことだ。昨年は一部の州が最低賃金を引き上げたことなどで、過去20年間で最も賃上げペースが加速した。だが、「今回の危機によって失業が大幅に増え、賃上げの効果は消えてしまうだろう」とオールデン氏は指摘する。

 3月の非農業部門の就業者数は前月比70万1000人減となり、約10年続いた伸びは突然止まった。失業率は過去45年で最高の4.4%に上った。3月の最後の2週間で1000万人近い労働者が失業保険を申請した。米国は社会的セーフティーネットが乏しく、貯蓄率は約8%と極端に低い。英拠点の民間調査・コンサルタント会社オックスフォード・エコノミクス(Oxford Economics)の首席エコノミスト、グレゴリー・ダコ(Gregory Daco)氏は「突然の失業は、サービス部門の低所得層に集中している」と話す。

■貯蓄はほとんどなし

 1983年にエルサルバドルから移住してきたロドリゲスさんは突然、初めて失業保険に頼らざるを得なくなった。だが、失業保険の給付額はロドリゲスさんの収入の大半を支えていたチップを考慮に入れずに決まるため、3人の子どもを養っていけるのか不安だ。「多少の貯金はあるが、数か月しかもたない」とロドリゲスさんはAFPに語った。

 ロドリゲスさんだけではない。オックスフォード・エコノミクスの調査によると米国人の半数は、予期していなかった経済的打撃に対処できる緊急時のための貯蓄を持たない。

 低所得世帯になると状況はさらに深刻で、4分の3はいざというときの蓄えがない。「最も必要な人々こそ、ほとんど何も持っていない」とダコ氏は指摘する。おまけに新型ウイルスの流行による経済の停滞はいつまで続くのか、全く見当もつかない。

 アメリカン大学(American University)のブラッドリー・ハーディー(Bradley Hardy)教授は、「雇用と賃金に対する影響は少なくとも2021年初めまで続くと考えて、備えなければならない」という。そして「米国の多くの家庭は、貯蓄率が低い一方で抱えているローンが多く、今起こりつつある経済的逆風を乗り切るために必要な備えがない」と指摘する。

■特に懸念される黒人中流層

 2008年の世界金融危機のときと同様、「今回も多くの米国人の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにしている」とオールデン氏は言う。低所得層は痛ましいほど引退に向けた備えがなく、多くの米国人は70代、80代になっても働き続けなければならないだろう。

 セントルイス連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of St. Louis)によると、高校を卒業していない人のうち引退後の貯蓄計画を持っている人はわずか22%で、しかも計画があったとしてもその中央値は3万5000ドル(約380万円)程度だという。

 ハーディー氏はさらに「今回の不況は一見、裕福に見える家庭も含めすべての所得層に打撃を与えるだろう」と予測する。「黒人の中流家庭への影響が特に大きいだろう」

 ロドリゲスさんは住宅ローンと自動車ローンを抱えているが、どうにか前向きでいようとしている。「この危機が去れば、経済はもっと良くなると思う」

【翻訳編集】AFPBB News

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