YouTube作家として活躍する「こす.くま」のすのはら(24、左)と、たけちまるぽこ(24)。スタッフ15人を抱えて、企画や撮影準備、データ分析など幅広く手がける(撮影:佐々木仁)

【2020年4月14日10時00分 追記】記事冒頭の写真を差し替えました。

自分のアイデア1つで、自由に動画投稿できるのがYouTubeの魅力。しかし実際は、多くの売れっ子YouTuberには、裏方スタッフがついているのが実態だ。詳細がつまびらかにされることはないが、人気グループYouTuberの東海オンエアは、“ネタ”として構成作家が企画した動画を作ってみた。それに対する視聴者からの反応は、興味深いものだった。

「プロはすごい」「おもしろかった!」「全然気づかなかった〜」「ショックだな」

東海オンエアはチャンネル登録者数が508万人、動画再生回数が55億回超を誇る。個性豊かなメンバー6人が繰り広げるYouTube動画には、根強いコアなファンが多数ついている。だからこそ、視聴者はメンバーの少しの変化でも敏感に反応するが、ネタばらし後に構成作家が入っていることに気づいたというコメントは、ほぼ皆無だった。

年収は売れっ子のテレビ放送作家より多い

このときの動画を担当したのが、YouTube作家の「こす.くま」だ。すのはら(24)、たけちまるぽこ(24)の2人組で活動している。「東海オンエアの動画については、ツイッター上で残念、ショックを受けたという声が多く寄せられた。これは僕たちもすごく残念で、日本はプロが絡んでいることに興ざめする視聴者が多い」(すのはら)。

欧米のYouTube業界では、プロによる企画や編集など、分業化が進んでいる。だからこそ豪快な仕掛けや大胆なアイデアの動画が生まれやすい。トップYouTuberになると数十億円を稼げることもあり、一攫千金を狙って斬新な動画が世界各国で制作されている。過激動画で炎上を回避するためにも、プロを入れるのは賢明な判断なのかもしれない。

プロ化のトレンドは日本にも波及している。「大物YouTuberほど、自分でできる企画はやり尽くしている。世界に出て行くため、人の力を借りて大規模な企画を考えたがるようになる」(たけちまるぽこ)。こす.くまは全ジャンルのチャンネルを対象に活動しているが、手がけた動画は平均再生回数が5〜10倍伸びるという。クライアントとは月額契約で、定期的な打ち合わせを通し企画を練り上げている。

こす.くまの2人は19歳のころに出会い、テレビの構成作家としていっしょに仕事を始めるが、長く続かなかった。「YouTuberを扱うテレビ番組で起用されたが、当時19歳だった僕たちの若い脳が生かされることはなかった。何が面白いかは、大人のディレクターが決めて、それを演出とプロデューサーが決める。テレビは大人が決めるメディアだから、仕事をする意味がないと思った」とすのはらは振り返る。

そんな2人も、現在は40チャンネル以上を担当し、データ分析や撮影先のアポイント、道具の手配も行う。スタッフ約15人を抱え、撮影前になるとフル稼働で準備に追われるのは、テレビ業界と変わらない。視聴回数が伸びやすい繁忙期の夏休みシーズンになると、期間限定で作家を入れるYouTuberも増えてくる。気になる年収は「売れっ子のテレビの構成作家と同等か、それ以上」(たけちまるぽこ)。

ただし、テレビの放送作家が安易な気持ちでYouTubeに参入しても、成功する確率は高くない。「『黄金伝説』や『大食い』など、テレビ番組の流行がYouTubeに遅れて入ってくることが多いが、それをネットに最適化する必要がある」とたけちまるぽこは言い切る。テレビ番組のノウハウ以外に、動画の視聴回数や離脱率などデータ分析に精通する必要もある。

今後は将来の夢にYouTube作家を挙げる子供が出てきそうだが、「必要なことはどれだけYouTubeを好きなのか。加えてYouTubeのアルゴリズムも相当分析したうえで企画を考えていること」(すのはら)。作家としての文系力、データを分析する理系力の両方が求められる。YouTubeのトレンドはめまぐるしく変わるため、つねに視聴データを分析しながら企画に反映させることが、プロならではの仕事なのだ。

今や子ども向けコンテンツは激戦区!

実際にトレンドについて行くのは至難の業だ。子ども向けチャンネルを運営するママYouTuberのなーちゃんは、5年前から動画をアップし続けている。最初は子どもがお菓子を食べたり、ジュースを飲んだり、他愛のない内容だった。しかし、2年目から子ども向けチャンネルが激増し、凝った作りの動画が主流となると、風向きが変わった。

多くの子ども向けチャンネルが淘汰されていく中、なーちゃんは試行錯誤で研究を重ねたことが転機となった。動画の総再生回数は13億回を突破し、ファミリー系YouTuberとしての地位を手に入れたのである。だが、2019年に入って、再び転機が訪れる。YouTubeがアルゴリズムを変更し、子ども向けコンテンツへの規制を強めた結果、「再生回数が伸びなくなり、子ども向けは苦難の時代になってしまった」(なーちゃん)。

現在も動画投稿は続けつつ、YouTube専門家として、プロデューサーの活動も開始している。「YouTubeという戦場で生き残ったYouTuberじゃないと、具体的なアドバイスやメンタルのサポートは難しい」(なーちゃん)。自らのキャリアを生かし、数十チャンネル以上の運営をサポートする裏方のプロとして、活躍の場を広げている。

ママYouTuberなーちゃんが投稿した動画は総再生回数13億回を突破。長男・こうちゃんが干潟で遊ぶ動画は再生回数3億回を超える大ヒットとなった(動画:なーちゃんねる

今年に入り、多くの芸能人がYouTubeに参入しているが、足並みをそろえるように裏方の仕事も急増している。ある若手IT社長は2019年から動画編集の受託も手掛けるようになった。「動画撮影・編集は1本1万〜3万円が相場で、スタッフ2〜3人がつきっきりで、撮影はほぼ毎日。慣れた人でも20分動画の編集に5時間以上かかる」と説明する。

決して実入りはよくない仕事だが、最近になって、元アイドルグループのメンバーが動画編集の仕事をしていることを知り、驚いた。「ビジネスのスキルがないので、芸能関係のつながりを利用し、YouTubeのノウハウを学んでいた」(前出のIT社長)。自らのYouTuberデビューを意識しているのかもしれないが、いずれにしても、動画撮影・編集のスタッフは引く手あまたの状態だ。テレビ業界から移ってくるスタッフも多いという。

YouTubeでも一発屋はすぐに消える

YouTubeプロダクションなどを展開するビットスターの渡邉拓社長は、「所属YouTuberに対しては、企画や編集、データ分析を、標準サポートとして組み入れている」と語る。芸能人のYouTube参入で競争環境は厳しいが、「バズるコンテンツを目指すよりも、地道に毎日動画をあげてPDCA(計画→実行→評価→改善)サイクルを回しながら、改善することが大事」と指摘する。アイデア1つの”一発屋”では、すぐに淘汰されてしまうわけだ。

最近は大食いYouTuberのはらぺこツインズをはじめ、所属YouTuberのテレビ出演が増えているが、「テレビ局側からのオファーも増えている」(渡邉社長)。テレビ出演後は、YouTubeチャンネルの再生回数も増えるため、シナジーは高いという。今後を見据えて芸能プロダクションのように、キャスティング営業の組織化を進めている。

逆に、今年に入り、YouTuberのテレビ出演が増えるなど、テレビとネットの境界線は一段と薄れてきている。まさに動画メディアは、映画からテレビ、そしてネットへと、移り変わる過渡期にある。成熟化へと向かい始めたYouTubeが、映画やテレビと肩を並べるような一大産業となる日は、そう遠くないのかもしれない。