コロナで半分がなくなる?飲食店「倒産ドミノ」

写真拡大 (全3枚)


コロナショックで街の飲食店は危機に瀕している ※写真は本文と関係ありません(撮影:今井康一)

3月31日午後4時。東京・永田町の自民党本部に、10人の料理人が集まった。

落合務シェフやパティシエの鎧塚俊彦氏など有名料理人らは、いつものコックコートではなく、スーツを着用。マオカラースーツに身を包んだ服部栄養専門学校の服部幸應校長の姿もあった。彼らが訪ねた先は岸田文雄政調会長である。要望書とともに「このままでは倒産する飲食店がたくさん出てきます」と訴えた。

この日の陳情のために大阪から来京した米田肇氏(三つ星レストラン「HAJIME」オーナーシェフ)は、3月30日から発起人となって署名活動も開始している。飲食業界を救済するために、家賃と雇用者給与の補助を求める内容に対して、4日間で8万人近くの署名を集めた。「国内外から15万人は集めて国と自治体に声を届けたい」(米田氏)と力を込める。

新型コロナウイルスの影響で、日本中の飲食店が苦境に立たされている。インバウンド(訪日外国人観光客)の減少から始まり、日本人観光客や仕事での会食も激減。政府や地方自治体が外出自粛要請を出したことが決定打となり、飲食店を訪れる客数は激減している。

ロックダウンの前に、すでに瀕死状態

最も深刻なのは地方の名店だ。「地元の厳選された食材を使った客単価1万5000円程度の店は、観光客が多いために壊滅的な状態」(米田氏)。レストランの世界ランキングに名を連ねる名店さえ、親戚に金を借りながら何とか店を維持している状態に陥っている。

数カ月先まで予約で埋まる米田氏の「HAJIME」も例外ではなく、4月のキャンセルは200人超に上った。客単価8万円なので、ざっと2000万円近くの減収となる。4月は桜を目当てに訪れる外国人も多く、2019年末から予約で埋まり始めたが、キャンセルが相次いだ。九州や東京からの客も身動きが取れずにキャンセルが増えている。

富裕層が多い都心部の場合、さほど客数の減っていない人気店も少なくない。だが、カウンター形式や地下店舗の中には「感染者を出すと怖い」という理由から、休業を選ぶケースが出始めている。すでに極限まで厳しい状況だが、このまま感染者数が増えてロックダウン(都市封鎖)となれば、「飲食店の半分以上が潰れる」と米田氏は危機感を露わにする。

ロックダウンにならずとも、すでに瀕死状態に陥っている飲食店は数多い。3月27日に小池百合子東京都知事が「飲食を伴う集まりを控えるように」と自粛要請をしたことがトドメとなった。「飲食業が発生源になっているから自粛しろというが、それを補う経済政策は何もないではないか」と多くの飲食店経営者は怒り心頭だ。休業するにも補填はなく、営業を継続しても閑古鳥が鳴く、という生殺し状態が続いている。


飲食業界を牽引する有名料理人たちと服部幸應氏(左から3人目)が岸田文雄・自民党政調会長(同4人目)へ陳情に訪れた(記者撮影)

政府や自治体は飲食店など中小企業を対象とした補助金や助成金を増やしているが、「申し込みが殺到しており、融資が下りるのは3カ月後。助成金制度も複雑で非常にわかりにくく、手続きを待つ間に店が潰れてしまう」(米田氏)。実際にフランスでは、三ツ星レストランの有名シェフが署名を集め陳情したことで、ロックダウン中の経費や家賃、給与を補填する策が打ち出された。

多くの飲食店では、経費の3〜5割を人件費が占める。家賃が1〜2割で、残りが食材費となっている。もし緊急融資が降りても、それを元手に家賃や給与を払い続けるうちは、店の収入が激減しているために負債が膨らむばかり。感染がピークアウトして通常に戻っても、マイナスからのスタートとなる。いっそ店を潰すにも、元の状態に戻すのには費用がかかるため、進むも退くも茨の道が待ち受ける。

何よりも辛いのは、コロナが終息する見通しが見えないことだ。「飲食店の半数以上が3カ月後に潰れてしまう事態をリアルに感じている。2021年開催の東京オリンピックで、世界中から人が集まったとき、どこで食事をすればいいのか」(同)。強烈な危機感が署名活動へと突き動かす原動力となっている。

飲食店を救うなら予算は1兆円超え?!

もともと日本の飲食業界は、多くの店が薄利多売で商売をしてきた。数年前から深刻な人手不足に陥り、有名料亭さえも、後継者不在で閉店に追い込まれている。確かに、今や低賃金で修行を積むなどは昔話で、会社員と変わらない給与水準まで改善されている。それでも労働時間が長いゆえ、離職率の高さは変わっていない。


三つ星レストラン「HAJIME」の米田肇オーナーシェフ(48)は大学卒業後、エンジニアを経て料理の世界へ転身。革新的な料理人として世界中に知られている(撮影:梅谷秀司)

実際に50〜60代の有名シェフが集まると、「昔は厨房に着いたらピカピカに掃除されていたが、今は『俺が掃除するからいいよ。お前元気か?』と、気遣うようになった」という笑い話が出てくるほど。従業員の待遇が改善される反面、競争環境は厳しくなるばかりで、客単価は横ばいの店がほとんどだ。平時でさえ、どの店も固定費の増加に悩みながら、綱渡りで店を維持しているに過ぎない。

皮肉にも客から見たこのコスパのよさが、「日本のレストランは安くておいしい」と外国人観光客を呼び寄せた。涙ぐましい努力を続けてきた日本の飲食業界だが、現下のコロナショックによって、もはや崩壊寸前にまで迫っている。飲食店だけでなく、食材の生産者にも波及しており、事態は深刻である。すでに、高級食材や業務用食材がネット通販で安く流通し始めているが、全てをさばくには無理がある。

日本の外食産業の市場規模は26兆円。大手チェーンから家族経営の零細店まで、その裾野は広く、高級店やB級グルメなど独自の食文化を醸成してきた。政府や自治体がコロナによる飲食店の支援策として、家賃や給与補填を決めた場合、予算規模は1兆円を超える可能性もある。難しい判断が迫られるが、検討に時間をかけてしまうと、その間、倒産が相次ぐことも懸念される。事態は日々刻々と深刻さを増している。