「BNA ビー・エヌ・エー」吉成曜監督は手塚治虫の絵が好き アニメーションも物語も“変化”が醍醐味

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(C) 2020 TRIGGER・中島かずき/『BNA ビー・エヌ・エー』製作委員会

TRIGGERが新たに放つテレビアニメ「BNA ビー・エヌ・エー」(以下、「BNA」)は、「リトルウィッチアカデミア」の監督・吉成曜と、「プロメア」「キルラキル」などの今石洋之作品でおなじみの脚本家・中島かずきがタッグを組んだオリジナル作品。獣人特区「アニマシティ」を舞台に、人間からタヌキ獣人になってしまった女子高生の影森みちるが、オオカミ獣人の大神士郎らと自分が獣人になった謎に挑んでいく。アニメーターでもある吉成監督が監督として仕事をするさいに心がけていることを、「絵が好き」だという手塚治虫作品への思いを交えながら話してもらった。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)

――企画の経緯から聞かせてください。吉成監督は当初、変身ものをやりたいと考えられていたそうですね。

吉成:作品を立ち上げるときに、前にやっていた「リトルウィッチアカデミア」のような魔法ものと変身もの、どちらにしましょうかみたいな提案をいただいて、最終的に変身ものになりました。「BNA」は、僕が最初に発想した変身ものとはちょっと違った感じになっていて、内なる衝動のようなものが獣の変身として表に現れ、社会的には悪といわざるをえない衝動と主人公がどう折り合っていくかをテーマにしたらどうか、みたいなことを最初は考えていました。

――変身ものから獣人ものへと、企画はどう変化していったのでしょう。

吉成:「リトルウィッチアカデミア」の主人公がちょいちょい変身していたので、そうした部分を強化できないかと提案され、話していくなかで「変身少女ものはどうだろう」と言われましたが、自分としてはあまりピンとこなかったんです。だったらバケモノ的というか、狼伝説のような方向のほうが面白いんじゃないかなと。Netflixでは「デビルマン」(※「DEVILMAN crybaby」)などもヒットしているし、ちょっとハードな要素を入れたほうがいいんじゃないかと思ったんです。手塚治虫でいったら「バンパイヤ」みたいなものがいいんじゃないかなと。

――手塚治虫の名前が挙がりましたが、「BNA」のキャラクターは手塚治虫のようなシンプルな線で描かれていて、獣に変身するギミックも手塚作品のような、ちょっと懐かしいテイストを感じます。と同時に、今の技術でつくるとフレッシュな感じもしました。

吉成:チャンスさえあれば、昔っぽいものをやりたい気持ちはあります。それを、どう今風(いまふう)にやるかが大事なんですけれど。制作的にも「なるたけ手間をかけるな」と言われているので(笑)、キャラクターデザインの段階から、できるだけ線を減らすよう意識しています。動物だとキャラクターの崩しなども、あまり気にならないんですよね。だからといって、きちんと四つ足で歩いたり走ったりは得意な人でないと上手く描けないのですけれど。
 本格的に獣を描くのは難しすぎるので、自由に表現していい方便として獣人にしているところもあります。極端な性格がかたちとして現れていて、そのキャラクターの分かりやすさを強調したら、そう見えるという。例えば、一匹狼の大神士郎がオオカミの姿になっているとかですね。それは、ある種の偏見でもあるわけですが、そういうことがかたちとして現れている人たちが獣人であるという考え方です。

――3話まで拝見しましたが、「BNA」はオール手描きのようですね。クレジットには3DCGもありましたが、車やトラックも手描きに見えました。最近のTRIGGER作品は、「プロメア」「SSSS.GRIDMAN」ともに3DCGを本格的に取り入れているなか、今回はなぜCGをほとんど使っていないのでしょうか。

吉成:やっぱり、CGはCGで難しいんですよ。「プロメア」の現場はすごく大変そうだったので、これはちょっと自分にはできないかもしれないなと思いました。今石(洋之)さんはCGと手描きの中間的表現に、ずっとチャレンジしていて、「プロメア」はその集大成的なものだと感じています。あれは続けているからこそできることで、僕がちょっと手をだしてできる感じではないなと。

――リアル方向ではないシンボリックな美術は、「BNA」と「プロメア」で共通しているように感じました。「BNA」ではコンセプトアートとして、Genice Chanさんという方が立たれています。

吉成:たしかに「プロメア」も海外のアーティストの方にコンセプトを頼んでいて、海外とはちょっとコネクションがあるんですよね。「BNA」はこれまでとは毛色の違った方とやってみたいなと思い、都市の色彩をおしゃれな感じに表現できる方を探して何人かに描いてもらったなかから、Genice Chanさんにお願いすることになりました。前々から目をつけていたというより、ほぼ初めましての状態で頼んだ感じです。

――Genice Chanさんには、どんな絵を描いてもらっているのでしょうか。

吉成:最初に頼んだのは町のイメージでした。描いてもらったら、いろいろと頼んでいないことまで描いてくださって、しかもアイディアが豊富な方なので、いろいろ提案をいただくことになりました。

――その流れで、エンディングも担当されているのですね。

吉成:普通だったら、そこまでやってくれないと思うんですけどね(笑)。Genice Chanさんはデザイナーですが、CMなどがメインのカナダの会社「Giant Ant」の人でもあり、スタッフと一緒にエンディングもつくれますと話が進んだんです。

――「BNA」には今石監督がアクションディレクターとして立たれていて、1話の絵コンテは吉成監督と連名でした。

吉成:「リトルウィッチアカデミア」のときに派手な部分がある半パートだけ今石さんに担当してもらったら、自分としてはしっくりきたんです。アクションであれば、全体の構成をそれほど気にせずとも飛び入り的にやってもらえるかなと。今石さんが動物好きかどうかは分かりませんが、机にムキムキのフィギュアばかり並べているし、動物人間なら喜んでやってくれるに違いないだろう(笑)、と思って頼んでいる感じですね。

(C) 2020 TRIGGER・中島かずき/『BNA ビー・エヌ・エー』製作委員会

――吉成監督も、「プロメア」に絵コンテや原画として参加されていますね。

吉成:「プロメア」の制作は大変だったので、僕もかなりやることになりました。その流れもあり、持ちつ持たれつな感じでも手伝ってもらっています。

――2話では絵コンテ、演出と並んで、普段見ない「演出指導」という役職で大塚雅彦さんのお名前がありました。これは演出を強化しようという試みなのでしょうか。

吉成:社内で演出家を育てようという取り組みですね。とにかく人材がつかまらないので、きちんと社内に専門家をおいておこうと大塚さんに関わってもらい、かなりの量をやってもらっています。大塚さん自身も、現場の仕事をしたいと思っているようで、僕から見ると社長業より楽しそうです(笑)。

――2話のある描写を見て、「BNA」の根底には現実との地続き感があるように感じました。シリーズ構成の中島かずきさんと、そうしたことを話されているのでしょうか。

吉成:声高に言うと社会派気取りになってしまいそうで、あまり言いたくないのですけれど、現実にあることを物語に取り入れ、獣人というファンタジーという隠れ蓑でやっている部分はあると思います。見ていて「ああ、こういうことあるよな」と思えるようなことをテーマにしたいと、中島さんも思われているはずです。

――主人公がポジティブで、感情を豊かにだすキャラクターなので物語が重くなりすぎないところも印象的でした。

吉成:みちるに何をさせるのかが、いちばんのテーマとは言えるかもしれません。どうやったら女の子が活躍する話にできるのか。それも隣にすごく強い大神士郎のような男がいて、普通だったら引っ込んでしまうところを、引っ込まない女の子にしていければなと。いわゆるバディものではありますが、サイドキック(※ヒーローと行動をともにする相棒)ではなくて普通だったら脇にいる子が主人公になるというか、「バッドマン」だったらロビンのほうが主人公になるように描けないかなと思っています。