Ganapati PLCとゲームを共同開発したというウサイン・ボルト氏は「ガナパティとボルトの時代の始まりに過ぎない」と語る(同社のWebサイトより)

その「投資会社」は、オンラインカジノや暗号資産開発への出資を誘い、日本国内で166億円という多額の資金を集めた。ところがこの投資会社は必要な登録を行わずに資金を集めていた。しかも、投資先としていたイギリス籍の親会社のオーナーはたった1人の日本人だった――。

証券取引等監視委員会(監視委)は3月13日、投資会社「合同会社GPJベンチャーキャピタル」(東京都中央区、以下GPJ)と代表社員ら2人に対する出資の募集の禁止・停止命令を出すよう東京地方裁判所に申し立てた。

過去最高額の違反行為

監視委によると、GPJは電話で約束を取りつけた後に対面で営業する「テレアポ」で顧客を投資に勧誘。GPJの社員権取得などを通じて、高齢者を中心に最大2042人をオンラインカジノや暗号資産を開発しているという親会社「Ganapati PLC」(以下ガナパティ)などに出資させたが、第二種金融商品取引業の登録をしていなかった。無登録での募集は違法行為に当たる。

166億円という金額は、監視委が裁判所に違法行為の停止・禁止を申立てた事例としては過去最高額となる。

GPJは東京、福岡、札幌に国内拠点を持ち、それぞれの拠点で名簿業者から買い取った顧客リストに電話をかけ、自宅や近くのレストランで勧誘を行った。監視委の説明によって2つの方法で資金を集めていたことが明らかになった。

1つ目は、合同会社であるGPJの社員権への出資だ。投資家は出資額の0.45%を毎月の分配金として受け取れる契約で、約3億円出資した投資家もいた。配当はこれまでのところ滞ったことがなかったという。

一方、投資家が社員権の払い戻しを希望した場合には、払い戻し時期を会社側の都合で延期するとしたケースや、出資額の3割分を差し引いたうえで払い戻すことがあったようだ。さらに、出資金を後述の「G8C」へ切り替えるようにも促していた。

GPJが社員権で集めた資金は、全額が親会社でイギリス籍のガナパティに貸し付けられることになっていた。ただ、監視委が資金の流れを確認できたのは一部だという。

なぜ金融商品取引業の登録を怠ったか

2つ目の方法は、暗号資産との引換券である「G8C」を取得させるというものだ。ガナパティグループで開発している「オリジナルG8Cトークン」という暗号資産が完成したら、1対1の比率で交換できるとされる。この方法では投資家はGPJを介さず直接ガナパティに出資することになる。


1G8Cは0.1円で取得できた。監視委によれば、完成時には1オリジナルG8Cトークン当たり1.5円で換金できる見込みなので、その差額が投資家の利益になるとGPJは説明していたという。出資額が15倍になって換金できるとうたっていたわけだが、あくまでもこの引換券が価値を持つのは「オリジナルG8Cトークン」が完成した場合だ。

以上が監視委による説明の概要だが、それだけではわからない謎が多い。

まず1つ目は、GPJがなぜ金融商品取引業の登録を怠ったのかということだ。同社のウェブサイトによると、代表社員である松橋知朗氏は、大手証券会社2社で計18年間勤務したのち、生命保険会社で5年間働いた経験がある。同氏は証券外務員や日本証券業協会の内部管理責任者資格も保有している。

GPJは「あらゆるマネージャンルで若くして成功してきたプロフェッショナルチーム」の存在もアピールしている。現在は削除されたが、銀行や信用金庫、保険会社などでの勤務経験を持つメンバーたちがウェブサイトで紹介されていた。長期にわたって金融機関で勤め、ファイナンシャルプランナーなどの資格も持つという彼らは、登録が必要なことを知らなかったのだろうか。

2つ目の謎はGPJの運営実態だ。監視委によると、GPJの国内3拠点における営業員数は69人。GPJのものと思われる過去の求人情報は「平均月収100万円以上」をうたって従業員を募集していた。

求人募集には基本となる月収30万円に加えて、契約金額の3.0〜9.6%を支給する契約歩合給や「トップ賞」などの制度が記載されている。なかには経験1年の営業員(36歳)が2018年に年収1528万円を得た例も紹介されている。

「ガナパティ」の正体とは

また、社員権だけでも毎年の配当は単純計算で約6.8億円にもなる。決算を公告することが求められる株式会社とは異なり、合同会社には決算情報を開示する義務が課されていないため、同社の収益構造はやぶの中だ。


GPJが入居する都内のビル(記者撮影)

3つ目にして最大の謎は、監視委が「実態不明」としたガナパティがどのような企業なのかという点だ。

イギリスの公的企業登録機関によると、同社は2013年12月に設立された。2015年には上場も果たしているが、上場直後には10億円超の赤字で、その後も赤字幅が広がり続けている。2019年1月期の赤字幅は特に大きく、3350万ポンド(約45億円)にのぼった。

ガナパティの現在の筆頭株主は75%以上を保有する日本の一般社団法人。2020年2月にイギリス領バージン諸島の企業から株式を譲り受けたとみられる。

この社団法人は1人の日本人が唯一の理事として登記されている。つまりガナパティは、実質的に日本人がオーナーだといえる。

GPJやガナパティがウェブサイトや求人情報で積極的に広報している「イギリスのNEX市場上場」も、実質性が問われる状態だ。

ガナパティは2015年にイギリスの新興株式市場「ISDX Growth Market(現NEX Growth Market)」に上場したものの、上場以来2回しか株式が取引されていない。NEX市場はそもそも2020年2月時点で76社しか上場しておらず、そのうち株式が取引された企業は2月の1カ月間で約半分の42社しかない。日本の市場関係者の間でも、ほとんど知られていない市場だ。

東洋経済が、第二種金融商品取引業の登録を行わなかった理由や配当の原資などの事実関係をGPJに問い合わせたところ、同社からは「裁判所に対して当方の意見を述べますので、それまでは回答は控えさせて頂きます」と返答があった。

親会社は「適切だった」とコメント

また、ガナパティに対しては、GPJが無登録で資金を集めていたとの監視委の指摘をどう受け止めているのかを尋ねた。そうすると、GPJがグループ会社であることを認めたうえで、「合同会社GPJベンチャーキャピタルは、外部専門家からのスキーム確認等、適切なプロセスを経て業務を行っていたと認識しております」と日本語で回答があった。

GPJやガナパティが集めた資金は今後どうなるのか。監視委は「(無登録という)違反行為によって集められた資金は当然返金されるべき」という。

ところが、今回監視委が裁判所に申し立てた停止・禁止命令は、あくまで金商法違反となる無登録での投資の募集を停止し、今後行わないように命令するものだ。裁判所によってこの命令が発令されたとしても、今回の措置にはGPJに対して、投資家から集めた資金を払い戻させるための法的拘束力はない。

GPJの親会社であるガナパティは仮にも上場企業だ。子会社であるGPJも社会に対して適切な説明を行う必要があるはずだ。

【2020年9月18日14時25分追記】証券取引等監視委員会は、本件に関連する改正内閣府令が2020年5月1日に施行されたことを受けて、2020年8月7日にGPJに関する東京地方裁判所への申立ての一部を取り下げましたが、残る申立てについては、2020年9月11日に東京地方裁判所はそれを認め、GPJに対して金融商品取引法違反行為の禁止及び停止命令を下しています。