中国の「感染者数」の定義はWHOや諸外国と異なる ※写真はイメージです (写真:財新記者 梁莹菲)

新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きつつある中国だが、実はこれまで中国政府は無症状の感染者をカウントしていなかった。WHOや諸外国と異なる”独自基準”は感染者数を少なく見せるための抜け穴となっている。「財新」の報道をはじめ国内でも疑問の声があがり、3月31日になって中国政府は、翌4月1日からは無症状感染者も公表する方針を発表した。

このほど、中国では無症状感染者の報告が増えてきている。国外から逆輸入したものだけでなく、新たに国内で発生した症例もある。

中国の無症状感染者は感染者としてカウントされておらず、現在その規模は公表されていない。 しかし、国内では無症状感染者から感染したケースが多発している。無症状感染者の数を早急に公表し、十分な調査と研究を行い、人々の意識と警戒心を高めることが必要だ。

無症状の感染者から感染が拡大

3月29日、河南省衛生健康委員会は、(同省の)漯河(ラクガ)市の感染者1人を報告した。この感染者は、同省の平頂山市で診断された無症状感染者と接触していた。無症状感染者による感染拡大が、再び物議を醸している。

国家衛生健康委員会が発表した『新型コロナウイルス肺炎の予防管理プログラム 第6版』によると、無症状感染者とは「臨床症状はないが、呼吸器などの検体に新型コロナウイルスの病原体があるか、血清の特異的IgM抗体(訳注:細菌やウイルスに感染した際、最初に作られる抗体)検査が陽性である者」を指す。


本記事は「財新」の提供記事です

現在、無症状感染者の感染力についての国際的な研究に定説はない。専門家によると、感染力はウイルスの特性、複製部位、ウイルス量、感染者の体質や行動習慣、環境要因などに左右されるが、症状とウイルス量の間に必然的な関係はないという。

一方、中国の専門家の多くは以前、無症状感染者は病状が比較的軽く、ウイルス量も少なく、重症患者より感染力が弱いと指摘していた。だが、最近の多くの研究結果は、一部の無症状感染者のウイルス量が、症状のある感染者と大差がないことを示している。

中国中央テレビ(CCTV)は3月29日、中国工程院のメンバーである鍾南山(訳注:中国の感染症対策の権威で、政府専門家チームのトップ)の、次のようなコメントを報じた。

「無症状感染者は感染者と濃厚接触した人で、中には新型コロナウイルスに感染しているが、症状がない人もいる。彼らはウイルスキャリアである。上気道のウイルス量が多く、感染力も強く、極めて注目に値する」

すでに中国で無症状感染者による感染が多発しているのは確かだ。しかし、その規模や感染動向は公表されておらず、世論の不安やパニックさえ生み出し、しばしばデマの拡大を助長している。「この抜け穴によって、地方政府が感染者を無症状感染者に”すり替え”、データを隠蔽している」という声さえある。

「武漢”封鎖解除”後の再発を防げ」

鍾南山は、現段階で中国に無症状感染者が大量にいるとは考えていない。「もしいるとすれば無症状感染者が他の人にウイルスを感染させ、中国新型コロナウイルスの感染者はさらに多くなるはず。だが、実際には感染者は増えておらず、むしろ減っている」という。しかし同時に、「私は何のデータも持っていない。どれだけの無症状感染者がいるかを示す研究もない」と述べた。

多くの専門家は、無症状感染者の規模を明らかにするために、早急に武漢で血清学(訳注:主に抗原や抗体反応を専門とする医学分野)的な追跡スクリーニング検査を行うべきだと呼びかけている。


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南京医科大学教授の胡志斌(コ・シヒン)は、「これまでに武漢市では多数の感染者が生まれている。無症状感染者に対して十分なスクリーニング検査を積極的に行えば、”封鎖解除”後の感染再発を防げるし、そうすべきだ」と考えている。感染者データの公開は、高度な研究を促進し、感染拡大のトレンドを科学的に理解するのを助け、感染再燃の火種を消すための速やかな行動につながるという。

他の多くの国々と異なり、中国の無症状感染者は、症状が出た際に初めて感染者だと訂正される。これは世界保健機関(WHO)の定義とも異なる。WHOの暫定ガイダンスには、「臨床症状の有無にかかわらず、検査で新型コロナウイルスへの感染が確認されれば感染者とする」と書かれている。

感染状況の公表は国際基準に沿って行うべきだ。無症状感染者を感染者数に含めるか、単独の項目として公表すれば、中国が国際社会と協力する上で必ず役に立つ。また、「感染者数ゼロ」の目標を達成するための隠蔽行為を撲滅することにもつながる。

例えば今回、河南省平頂山市が公表した無症状感染者2人は、3月25日の核酸検査(訳注:PCR検査など)で陽性反応を示したことが分かっている。広く出回っている調査報告書によると、そのうち1人は診断前に「ちょっと風邪をひいた」と話していた。

風邪は新型コロナウイルスの感染と関係があるのか。無症状感染者という診断はどのように下されたのか。”隠蔽工作”はあったのか――。人々は大いに疑っている。統計データを明るみに出し、一般大衆の監視下に置けば、感染再発の恐れから生じるストレスを和らげられるはずだ。

積極的な開示は”恥さらし”ではない

3月22日、李克強首相は新型コロナウイルス肺炎対応の指導グループ会議で、無症状感染者の予防と治療を大いに重視する必要があると明確に示した。


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翌3月23日、李克強はさらに、「現在、中国の大半の地域で感染者数ゼロの報告が数日続いている。だが、感染の統計データは速やかかつ偽りがなく正確でなければならず、感染者数ゼロを報告するための隠蔽や報告漏れは決してあってはならない」と述べている。

積極的な情報開示は”恥さらし”ではなく、感染拡大をコントロールするための科学的な方策である。当面の急務は、無症状感染者のデータを一刻も早く公表し、首相が求める実事求是(訳注:真実を追求すること)を徹底して社会の関心に応えることだ。

(財新記者:劉登輝)
※敬称略。原文は現地時間3月29日20:32配信